8話 反比例
俺はペール家のご子息であるエアリーゼ様の影武者、カゲと名乗っているものだ。
俺はエアリーゼ様の影武者として容姿端麗、所作も姿も声までもエアリーゼ様そっくりに変えられた。そして影武者である俺の仕事はペール家が危機に陥った時、エアリーゼ様の代わりに命を落とすこと。
実際、当主は裏切り前日俺に命を落とすよう命令を下した。
しかし、エアリーゼ様のご厚意により俺は燃え盛るペール家を脱出。
エアリーゼ様の思いに応えるため、新たな人生を歩もうと決めたのだった。
途中、エアリーゼ様の許嫁アイアンロード・バイソン・テミストスという男に出会った。俺をエアリーゼ様本人と勘違いしたテミストスと共に旅をすることになった。
そして現在。
俺とテミストスに新たなメンバーが加わった。
ノワール
「俺はノワール、弓使いだ」
テミストス
「アイアンロード・バイソン・テミストス」
ノワール
「仲が良さそうとは思ってたが、そんな関係だったのか…」
カゲ
「こいつが勝手に言ってるだけだから…俺はカゲ。短い間だろうけどよろしくな」
ノワール
「あぁ、こちらこそ」
依頼受託板"クエストボード"で同じ依頼を受けようとしたことから同行する事になった弓使いのノワール。歳は30後半、俺の同年代だ。少し長めの尾髪に赤黒い瞳。身長はテミストスと同じくらいだが、がっしりとした身体が印象的だった。服は弓使いらしい軽武装、年季が入りくたびれた服をずっと着続けているらしい。くたびれている割にはしっかり洗っていたので嫌な臭いなどはしなかった。
俺、テミストス、ノワールは依頼""の目的地。オライルの街から少し離れた位置にある"オライル"墓地へと向かっていた。
ノワール
「そういえばカゲさん。あのテミストスと言う青年は見るからに近接職だと分かるんだが、あんたのクラスは?」
カゲ 「あ、あぁ…!クラスね!クラスクラス」
ノワール 「へぇ…。そりゃよっぽど才能が無かったんだな 」
ノワール
「だが俺は才能が無いことは良いことだと思う。誰もが欲するような天賦の才を手にしてもいいことなんて一つもないさ」
ノワールはカラカラと小さく笑った。
その言葉の意味は分からなかったが、そう話すノワールの目はいつにも増して暗く見えた。
ノワール
「さて、ここらで依頼の内容を再確認しておこう」
- [ ] 俺たちが受けた依頼はこれだ。俺はクエストボードから剥いできた依頼状を取り出した。
ゾンビ型モンスターの討伐
危険度⭐︎⭐︎
依頼地域・オライルの墓場
依頼主・墓守サントス
報酬・金貨2枚
戦闘経験豊富なノワールがゾンビ型モンスターの特徴を教えてくれた。
ノワール
「ゾンビ型のモンスターは攻撃力が低く、耐久力が高い個体が多い。殺したと思っても死んでない時なんかがよくあるから気をつけるように。弱点属性は光属性、炎属性の個体が多い。そして奴らの多くが集団で生息している。足を取られないように気をつけろ。ゾンビの中には人型のものもいるだろうが、それは人生を終え土に埋まった死体だ。変な情をかけてたらこっちがゾンビになると思っておけ。…俺が知ってるのはこれくらいだ」
カゲ
「すげぇ。頼りになるなぁノワールさん!」
ノワール
「まぁ、このくらいはな。それにしても…」
ノワールは俺を見て顔を曇らせた。
カゲ
「ん、なんだ?」
ノワール
「華奢な女の子の話し方とは思えねぇな。あんた中身は俺くらいのオッサンなんじゃねぇのか」
ぎ、ぎくー!その通りです。
カゲ
「き、気のせいですわ…おほは」
ノワール
「ま、俺はその方が気楽でいい、無理に取り繕う必要もないさ」
カゲ
「お、おう!」
疑惑が解消された訳ではないが、ノワールの気遣いが伝わって嬉しかった。まだ少し話をしただけ、だけどきっとノワールは信用できると思った。
ノワール
「さぁ、あれがオライル墓地だ」
ノワールが前方を指さした。
その先には鬱蒼とした木々に囲まれた、まるでその一体だけ夜のような場所があった。
ノワール
「報酬は俺とあんたらで1対1。基本陣形はテミストスがゾンビを倒し、俺が後ろからサポート。後は適時対応する。2人とも、準備はできてるか」
カゲ
「ば、ばっちこーい!」
俺は両頬をバチっと叩き、初めての戦いからくる震えを抑え込んだ。
ノワール
「では、突入する…!」
オライル平原の奥深く。
町民も滅多に通らないという薄暗い一体、オライル墓地。王女の影武者、許嫁、そして謎めいた弓使いの3人を待ち構えているのは如何言う訳か…。
???
「新たな人間が訪れた。さぁ…今宵も始めようじゃないか。魔王様復活の贄狩を」
数年前、勇者に打ち倒されたはずの魔王軍幹部。
"ロストゾンビマン"だったのだ。