第6話 勇者になれなかった男
ハーデスと出会った町を出て3日ほど経った夜。
俺たちは焚き火をお越し3度目の野営をしていた。
ここまで歩いてきて"草スライム"や"ツノツキウサギ"に襲われたこともあった。だがテミストスは思っていたより頼りになるもので、いとも簡単にそれらのモンスターを倒していた。
ハーデスの職業は剣聖。名前ですら強そうなのできっと強いのだろう。
俺のクラスは執事。戦闘用のジョブでは無く、スキルを覚えることもない一般職だ。だが現在、俺は執事として守るべき家を失った。だから
カゲ
「あのjr
ハーデス
「なんだ?」
カゲ
「次の町に着いたら教会に行ってみようと思います」
ハーデス
「理由は?」
俺は話を続ける。
カゲ
「教会はたしか転職ができたはず。心機一転私も戦ってみようと」
ハーデス
「それはいい考えだ」
カゲ
「…そうだな。今日はもう寝ようか」
ハーデス
「あぁ、おやすみ」
ハーデスの貸してくれた寝巻きを着て、満天の星空を眺めながら、俺は眠りについた。
そして次の日。
テミストスの言っていた通り、程なくして次の町オライルに到着した。傷薬や食料を軽く買いこんだ後、俺たちは教会へと向かった。
教会にはシスターが従事している。
この世界の全ての教会には必ず神像が置かれている。
新しい職業に着きたいとき転職時には神像に祈りをささげることで誰でも簡単に新しいジョブに着くことが出来るのだ。
シスター
「オライル教会へようこそ。旅の方」
カゲ
「転職をしたいのですが、お願いできますか?」
シスター
「えぇ、もちろん。こちらへどうぞ」
シスターは俺たちを神像の置かれている部屋へと案内してくれた。
シスター
「さぁ神像の前に立って。手を合わせて我らの神に祈りを捧げましょう…」
俺はシスターの言われた通りに手を合わせて神像に祈りをささげた。一体転職とはどういうものなんだろうか。実際に体験するのは初めてだ。
俺は祈りを捧げ続けた。しかし何故だろうか。
ずっと祈ってはいるのだが何1つ変化を感じない。
不安に思って目を開けてみると、慌てている様子のシスターが視界に映った。
シスター
「どういうことかしら…。転職が出来ない…?」
ハーデス
「何か問題が?」
テミストスがシスターに声をかける。
シスター
「い、いえ。ご心配なく。ですが祈りの力が足りてないようですね。私たちもお祈りさせていただきますね」
カゲ
「すいません、お手数を…」
シスター
「いえ、構いませんよ。私たちは毎日祈っておりますので神様もきっと答えてくれますよ」
シスターはにこっと笑って奥にいた数人のシスターを連れてきた。そして俺とシスターは神像の前に座り、再び祈りをささげた。
しかしその後、いくら祈り続けても神像はピクリとも反応せず。結局俺は転職をすることができなかった。
そしてその日の夜。オライルの酒場
カゲ
「転職・・・!できなかったあああああ!!!」
俺は酔っぱらっていた。
ハーデス
「落ち着け」
オライルのとある酒場。
客が少なく、実質貸切状態のカウンターで俺は意識がフラフラしていた。
カゲ
「うるへぇ~!!!転職ん出来ると思ったのに!勇者になって…世界を救えると思ってたのに!」
ハーデス
「…勇者には転職できる人なんて世界に数人しかいない」
テミストスが水を持ってきてくれた。
カゲ
「…ゴク…ゴク…。もういやだあああああむ
カゲ
「うぐっ…えぐっ…」
???
「勇者…ねぇ」
カゲ
「あぁ??」
よく見ると俺とテミストス以外にも店の隅っこには客がいたようだ。
年は俺と同じくらいだろうか。服はボロボロで無精髭。やつれた頬に安物の酒を流し込んでいた。
カゲ
「てめぇなんか言ったかぁ!なんか文句あんのかぁ!?」
???
「ックク。兄ちゃん。そのおてんば娘のこと、ちゃんとしつけないとダメだよ」
カゲ
「べぇ〜〜〜!」
俺は必殺技"変顔舌だし挑発"を繰り出した。
執事のカンスト技だ。
???
「はははっ。まるでおっさんみたいな女だな。マスターお代置いとくよ」
無精髭そう言って金を置き、店を出て行った。
カゲ
「ま、待て~!」
無精髭の1本残らず引き抜いてやろうと席を立ちあがった瞬間。俺の意識は消えた。
・・・オライルの街、酒場近くの脇道
???
「勇者…ね。嫌なこと思い出しちまったな」
無精髭を生やした男がポツリと言葉を漏らした。
???
「あいつら。今頃どこにいったんだろうなぁ」
今から10年以上前のこと。
魔物の軍勢を従える魔王を倒すために聖剣に選ばれた勇者。そして勇者を支える3人の強者が魔王討伐の旅に出た。数々の死闘を乗り越えた勇者一行は長い時を経て遂に魔王を討ち取ったという。
しかし魔王軍との戦いは激しく。
仲間の一人だった弓使いが命を落としたという。
しかしこれは勇者が語った話であり。
事実は異なっていた。