第5話 .旅の始まり
影武者
「なぁ、本当についてくるのか?」
酒場を出た後「一緒に泊まろう」と誘ってきたハーデスを断って近くの宿に一泊した。
同じ宿屋に泊まった日には遂に俺が男だとバレてしまう。何せ自分にはまだアレがついているのだから…。
宿屋の店主に挨拶を交わし、街を出ようとしていたのだがハーデスが街の入り口で壁に体を預け腕を組み待っていたのだ。
ハーデス
「よく眠れたか」
影武者
「え、えぇ」
こうして俺とハーデスの果てし無い冒険が始まった。
第5話 .旅の始まり
穏やかな風が気持ちいい晴れの日。
人通りの少ない土道をただゆっくりと歩いていく。
これまでの人生は、親に言われたから就職し、党首に影武者になれと言われたから影武者になった。
思えば今こんな風に自分の意思で歩いたり、何かを決めないといけないということは初めてかもしれない。子どもころ、覚えきれないくらいたくさんあった夢も、30を超えた今では一つも思い出すことが出来なくなっていた。俺は一体これから何処へ向かうのか。何を選び、どういった人生を選択するのだろうか。
ハーデス
「風が気持ちいいな。草むらに転がって一眠りしたいくらいだ」
1つだけ言えることは俺はコイツを選択しないし、コイツと共に歩む人生は選択しないということだ。
ハーデス
「前に会ったのは10年も前だ。呼び方を決めよう」
影武者
「呼び方…ですか」
ハーデス
「あぁ、いつまでも子供の呼び名と言うわけにもいかないだろう」
影武者
「そうですね…。だったら…」
俺は自分のことをカゲと名乗ることにした。
ハーデス
「カゲ…か」
影武者
「…ダメですか?」
テミストス
「…いや、駄目ではない。これからもよろしく頼むぞ、カゲ」
カゲ
「え、えぇ!」
ずっと歩いていると日が暮れてきた。
これ以上進むのはやめて野営をすることにした。
乾燥した小枝を拾って火年石で火を起こし、小さな焚火を作った。