第3話 小さな嘘
三大名家が統治する”世界一平和な国”とも呼ばれたペール国。
中でも民に愛されていたペロル家が、二大名家の裏切りによって存亡したことでペール国は新たな歴史を刻み始めた。王女の影武者として作られた元執事の男ゲラルドは、裏切り前日、ペロル家王女メアリーゼの嘘により国を脱した。
王女の意思に答えようと1人旅を続ける影武者だったが、立ち寄った街で集団に襲われてしまう。
卑劣な男の拳が影武者の顔をとらえようとしたとき、やけに顔と身なりの整った男がその拳を止めた。
その男の名は一国の王子ロード・ハーデス
そしてハーデスはどういう訳か、私に向かってこう言うのだった。
第三話 俺の妻
影武者
「つ……つま?」
ロード・ハーデス
「あぁ。お前は俺の妻であり俺は夫だ。忘れたのか?」
影武者
「い、いやいやいや!あんたが夫になった覚えないんですけど!?」
殴りかかってきた男
「まさか婚約者がいたとは…!」
俺が自分の正体を明かそうとしたとき、美男子に腕を掴まれている男が顔を赤くしながら叫んだ。
殴りかかってきた男
「俺の前でいちゃついてんじゃねぇぞ!」
男はハーデスの手を振りほどき、もう一度殴り掛かってきた。
影武者
「ひっ…」
僕が情けない声をあげてしまったのとほぼ同時。美男子が男の急所を力強く潰した。
殴りかかってきた男
「あがっ…!」
ハーデス
「俺たちは今大事な話をしている。分からないのか?」
殴りかかってきた男
「て、てめぇら…。ふ…二人して俺の股間ばかり攻撃しやがって…!」
覚えとけよ~!とべたべたの捨て台詞を吐いて男たちは夜の街に消えた。
ハーデス
「くだらん男だ。…さっき何か言いかけてただろう、話してみろ」
影武者
「あ、あぁ…。俺は…」
いや待てよ。
今ここで俺が男だと話したらこいつはどうするだろうか。
おそらくこの美男子は何故だか走らないが俺を妻だと勘違いしている。
ここで勘違いを解いてしまえば、彼はきっと二度と俺を助けてくれないだろう。
本当の事を言うべきか…。それとも嘘をついて助けを求めるか…。
ハーデス
「どうした?」
影武者
「私、少し寒いです」
俺は美男子の袖をつかんだ。
ハーデス
「そうだな。今日は特によく冷える」
今は少しだけ嘘をつこう。
ハーデス
「あの酒場まで歩けるか?」
俺は頷いた。
男は私に上着をかけてくれた。
これから俺の人生はどこに向かうのか。
緊張と不安を抱えながら、俺はハーデスの袖をつかみ歩きはじめた。