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第2話 偽りのディスタンス

500年の歴史を有し、世界一平和な国とまで言われたペール国は501年目の冬。時代の変化を予感させる新たな1ページを刻んだ。


国を担ってきた3大名家の2家が結託、国民に愛されてきたペロル家の住まい全土に火を放った。

ペロル家の当主、婦人、大勢の従者の命がたったの一日でいとも簡単に失われた。ペロル家党首の一人娘"メアリーゼ王女"も燃え盛る城に残され、跡形もなく燃え散ったという。


ペロル家滅亡の後、2大名家は共同で新生ペール国を発足。事件当初、国民に愛されていたペロル家を非道な手段で滅ぼしたとして"ペロルの意思を継ぐもの"という民間組織が結成された。が、2大名家に敵うことはなく。隊長の処刑により暴動は鎮静された。


積雪が溶け、土で眠っていた種子が青々とした若葉を芽吹かせる季節には、ペロル家の事件は人々の記憶からすっかり薄れ、ペール国にあたりまえの日常が戻っていた。








2話 




ガラゴロ…ガラゴロ…。

整備された道に似合わない1台のくたびれた馬車が寂しげに歩いている。馬車を引く馬には力がこもっておらず、今にも倒れそうな状態だ。馬車を引いているのは痩せ細った体をした女のようだった。女の顔に正気は無く、まるで生きる意味を失っているかのようだった。


影武者

「ごめんな…あともう少しで街につくから…」


女?はそう言って馬の頭を撫でた。

馬はそれに嬉しそう鳴いて答えたが、鳴いたと同時に力尽き、力なく倒れてしまった。


影武者

「…!?」


影武者は馬車から降りて、馬に駆け寄った。

がっしりとしていた筋肉は萎み縮み、呼吸も荒ち。

目は潤んで、もう歩けないと女に訴えているかのようだった。


影武者

「俺じゃ…きみのことも守れないんだな…」


影武者はそう呟き、馬を置いて走った。

街についた影武者は疲れ切った馬を引き取ってもらえる人を探した。この街には大きな牧場があるという情報を聞いた影武者は、牧場に向かい頭を下げ馬を引き取ってもらえないかと頼んだ。

牧場主は払うお金がないと一度断ったが、影武者はお金はいらないので馬にちゃんとご飯を食べさせてくださいと言った。

そういう事ならと牧場主は馬を引き取り、影武者に1杯のスープをご馳走した。

影武者は頭を下げて、牧場を後にした。


太陽はすっかり沈んで、月が登る頃。

影武者は誰もいない広場の長椅子に腰掛けて、何をするわけでもなく動かずにいた。


影武者

「これで本当に一人ぼっちだ…」


吹き抜ける夜風が体温を冷ます。

ペロル家が炎で真っ赤に染まったあの日。

俺は王女様の囮として馬車で城から逃げ出した。

王女様とは反対の道を行き、氾濫した両家の兵士を惹きつけるのが私の役割だった。


だけど、どれだけ走っても、夜が明けようとも兵士が追いかけてくることは無かった。このままでは囮が失敗してしまう。もう一度城に戻ろうかと思ったとき、馬車に1封の手紙が入っていることに気がついた。




拝啓 ゲルド

こうやってあなたに手紙を出すのはこれが初めてね。

あなたは私が物心ついたときから、執事としてずっと側にいるから、必要が無かったってだけなんだけど…。

それはさておいて、この手紙を読んでいるってことは無事に馬車に辿り着いて逃げ出せたってことね。

おめでとう!

お父さまは影武者の貴方を囮にして私を逃がすつもりみたいだけど、そんな事私が許さないわ!

ちなみにその馬車は国1番の技師に作らせた特注品よ!貴方は一人で逃げることになるけど、馬もペロル家で一番早い娘を付けといたから、きっと逃げれるわ!

…心配しないで!私は兵士たちと一緒に逃げるんだから普通の馬車でも大丈夫よ!

はぁ…。これが最後かもって思うとやっぱり長文になっちゃうわね。でも書きたいことは書けたわ!だから手紙はここでおしまい!

この話の続きは


お互いまた生きて再開した時に、ね!



p.s死なないでよ。その子にしっかり餌あげててね!

敬具 メアリーゼ


それからは、この手紙を力に変えて必死に生きてきた。

雪に振られてもお金が無くても怒鳴られて蹴られて理不尽な目にあってもなんとかここまで生きてきた。

…生きられなかったメアリーゼ様の為にも。

でも…少しだけ…少しだけ疲れてしまった。

だから今日はもう寝ようかな。

この寒さじゃ眠れるかもわからないけれど、明日も生きるために…。


ファサッ。

突然、体が柔らかな感触に包まれた。

もこもことしていて、とっても柔らかい。


「お嬢さん、大丈夫?」


顔をあげると、見知らぬ顔の男がこちらを覗いていた。


「可愛っ!?」


男はそう声をあげた。

可愛い?…あぁ。そうだった。

今の俺は影武者になって、王女様の姿をしているんだった。青年の後ろには他にも人が2.3ほどいるようでヒソヒソと話していた。


「まだ夜は寒いでしょ?良かったうち来ない?暖かい食べ物のご馳走してあげるよ」


なんと言うことだろうか。

見ず知らずの俺にそんなことを言ってくれるなんて、この男は神さまなのだろうか?


影武者

「で、でも俺はお金も持ってなくて…返せるものがっ!」


「い〜から、い〜から。お金じゃなくても、あるでしょ?…ほら。分かんない?」


男はそういうと指で輪っかを作り、口の前で動かした。あぁ…そういうことか。この男は神さまではなく俺を買おうとしているのだ。


「ギャハハハハハ、お前それ卑猥すぎ!」


「はぁ?別にいーだろ。どうせこの体じゃ逃げれねぇだろうしよ」


「ギャハハハ、たしかに!」


後ろの男たちと共に汚い笑い声をあげる。


「なぁ、悪いようにはしねぇよ。おら立ち上がって?さっさと歩け〜」


男は俺の体を無理やり起こし、腕を引っ張った。



「調子に…」


「あ?」


「乗んなっ!!」


「がぁ!!」


俺は男の股間を蹴り上げた。

男はあまりの痛さに悶絶。泡を吹いて倒れた。

この隙に…!

俺はその場から離れようと走った。


「てめぇよくも!このクソ女!」


後ろにいた男が追いかけてきて、俺を殴った。


「先に手を出したのはそっちだかんな!」


もう一人の男も床に這っている俺を踏んだ。

男たちに踏まれ続け、肉のない体は悲鳴をあげた。

悶絶していた青年も立ち上がり、俺を睨みつけた。


あぁ…。これは死んだかも。


2人の男に両腕を持たれ、身動きが取れない。

男は拳を握りしめて迫ってくる。


思い返せば、短い人生だった。

成人して、ペロル家に執事として入り10年。

影武者として1年。最後こそ辛いこともたくさんあったが、良いこともたくさんあった。いい人生だった。

心残りがあるとすれば…王女様に生きていてほしかった。


今…そちらに行きます。お嬢様。


だから手紙の続きを…今度こそ…。


男が眼前に迫り、私を見下ろしている。

拳にはぁ〜と息を吹きかけ腕を振り上げた。

そして思いっきり振り下ろし殴られる。

…と、思っていた。


痛みが来ない。


???

「とんだクズがいたものだ」


恐る恐る目を開くと拳は、物凄い形相をした美形の青年に掴まれていた。青年は掴んでいる拳を振り回して、ゴミ箱にポイっと投げ捨てた。 


青年は振り返り、私を見つめる。


「助けに来た、メアリーゼ」


その者は1国の王子にして若き英雄と呼ばれる者。

ロード・ハーデス。

俺はこの男に、とんでもない勘違いをされている気がした。



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