スマホの画面に扉が現れた
スマートフォンで『小説家になりお』を閲覧していると、画面の中にうっすらと、見たことのない扉のようなアイコンが現れた。
はじめは何かの影でも映り込んでいるのかと思い、スマホの位置を色々と動かしてみたが、扉はずっと画面内の同じところにある。
それは影のようにうっすらとしている。しかしちょうどアイコンの空いているところにすっぽりと収まり、タップしてもらえるのを待っているように見えた。
タップすると何が起きるのだろうか。
扉が開き、中から何かが出てくるのだろうか。
試してみたい気持ちと怖い気持ちが私の頭の中でせめぎあう。
影のようにうっすらとしたその扉をじっと見ていると、なんだか懐かしい気持ちにもなってきた。
『あ……。この扉の形は……』
思い出した。
それは私が小学校一年生の時まで住んでいた、アパートの扉だ。懐かしさに突き動かされ、指が優しい動きでそれをタップすると、私は子供に還っていた。
「ただいま」
玄関に立ち、そういうと、8年前に病死した母が笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり」
「いい匂いがする!」
「今日はカレーよ」
そして私に、そこからの未来はなくなった。
それでいい。ずっとここにいたいと、心から今は願っている。