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探偵胡吉治シリーズ第一弾「消えた200円」その5

私立「会夢中学校」にこの人ありと謳われた名探偵がいた!

その名は名探偵胡吉治。

後に市の中学という中学を席巻するつもりでいる探偵部部長である彼に夏休み、とある依頼が訪れた!!


というわけで、今回でこの話はおしまいだ!!

 会夢中、滑空部の部員は25名。

 活動時間は、夜に行うこともあれば早朝に飛ぶこともある。

 

 私はひとまず、容疑者として彼らが候補に挙がったことを自宅でくつろいでいた一国君に報告することにした。

 野字原は別行動だ。

 彼女は容疑者として挙がった滑空部の連中一人ひとりにうわさの件を聞き込みに回っている。

 しかし野字原いわく、あまり期待は望めそうにないとのことだった。

 

「自分が犯人ですなんて言うわけないもんねぇ~。うわさのことなんて知らないって言われたらそれまでだよ~」

 

 さもありなん。君子危うきに何とやらだ。

 証拠もないのに自分から両手を差し出す犯人などそうそういないだろう。 

 私は一国家の門を叩き、一国君に事の顛末を伝えた。門を叩いたと言ったが実際はインターホンを押しただけだ。


「う~むなるほど…空からの侵入とは盲点じゃった。しかし、思ったんじゃがそうなると犯人は滑空部でかつうわさの種を撒いた輩はもちろん、うわさを知っている人間なら誰でも可能ということになるな」


 一国君の部屋は8畳の和室でいかにも男子の部屋な殺風景なものだった。

 部屋だけを見ると主が美少年である彼のものとは想像できまいが、小さなブラウン管テレビの横にうさぎのぬいぐるみが置かれていた。

 一国家では片仮名のメニューはないらしく、アイスでもふるまって欲しいと思っていたのだが、彼に用意してもらったのはいちご味のかき氷だった。

 私はかき氷を頬張り、こめかみに突き刺さるような感覚を覚えつつ首を縦に振った。


「その通りだ。犯人は一人だと思っていたが、複数である可能性も出てきた。うわさを知っているかどうか仮に聞き込みをしたところで、知らないと言い張ればそれで終わってしまう。野字原が聞き込みに回っているが恐らく犯人は見つからんだろう」


 行き詰ってしまった。

 空から来るのを校庭で待ち構えるという手はどうだと一国君が提案してきたのだが、それだと侵入者を見つけたところで、職員室に向かう頃にはとうに200円は盗まれ逃げられている。

 近くで待ち伏せしても犯人に見つかってしまうし…ええいどうしたらいいのだ。

 ふとその時、私は一国君に200円を返していなかったことを思い出したので、100円玉を2枚彼に差し出した。

 小さな折り畳みテーブルの上に置いた100円硬貨が電気に照らされ私の目を一瞬刺激する。

 ふと私はその時になって気づいた。


「そうか…だから100円玉なのか」


 私があることに気づくと、一国君は200円を受け取りながらなんじゃいと促してきた。


「100円硬貨は銀貨なので光に反射する。犯人は事前に硬貨が置かれているかどうか、月の光で見ていたのだ」


 私が名推理を披露すると、一国君はなるほどと手を打った。

 

「50円硬貨でも良さそうじゃが穴が開いてるし見ずらいのかもしれん。犯人が単純に欲をかいた可能性もあるが100円硬貨にした理由としては信ぴょう性が高いぞい」


 現に10円玉20枚の時は取られなかったそうなのだが、もしかしたら単純に見えなかったのかもしれん。

 月明りで見るなら500円硬貨の方がもっと確実なのだろうが、100円硬貨2枚にしたのは、野字原が言っていた「50円玉の男の子」理論だろう。

 仮に50円玉を2枚置いてあっても見えなくはないであろうし犯人は侵入したかもしれんが、持ち去っていくことはないはずだ。

 なぜなら、100円玉に限定することでうわさが絶えず、繰り返し置きに来る連中が後を絶たなくなるからな、100円1枚ではなく2枚であることが好奇心を湧かせるアクセントとなっている。

 100円玉に限定することで、確実に金を稼げるシステムを構築しているというわけだ。なかなかの知能犯だ。


「しかし分かったのはここまでだ。犯人が単独犯なのかもわからんし、確保できんことには進展はないな」


 その時玄関のチャイムが鳴った。

 聞き込みを終えた野字原がやってきたのだ。

 野字原を招き入れると、一国君は彼女にもかき氷をふるまった。

 野字原に出されたのは宇治金時だ。 


「犯人は分からなかったんだけど、動機はわかったよ~」


 思わぬ情報に私は身を乗り出した。


「なに!?犯人は分からなかったんだけど、動機はわかっただと!?動機はなんなのだ!?」


「ゴーカートレースだよ」


 さも当然のように答える野字原に私は脳内の記憶を巡らせるのだが、ゴーカートレースなどという動機が探偵シリーズの犯行の動機に果たしてあっただろうか…。

 すると、見た目に似合わず賭け事の好きな一国君がそうかと手を叩いた。


「風月中のカートレースか!!確かにあれなら最低200円がないと参加できんぞい!!」


 まったく事情の呑み込めない私に一国君が説明してくれた。

 我らが母校、会夢中とは別の学校「風月(ふうげつ)中学校」ではカート部が存在するらしい。

 活動内容は主にゴーカートの整備と走行の練習だが、たまに市長杯や町長杯といったレースがショッピングセンターの大型駐車場などで開催されるというのだ。

 商店が屋台を開くちょっとしたお祭りイベントらしいのだが、子供は入場無料、中学生以上は100円の入場料を払わないといけないらしい。

 13歳以上の年齢基準を満たした一般参加OKのレーサーたちがゴーカートを走らせ、周回コースを3周すれば勝ちとなるそうだ。


「一般参加とか初心者の人たちがファーストステージを競って、勝ち上がった8名が風月中カート部の熟練者たちのいるセカンドステージに上がれるんだよ?それで勝ち上がった上位8名が優勝戦を争うの。優勝戦で1位になった人は市内指定エリアの飲食店が1年間無料なんだって」 


「経験のないものでもレースに参加は出来るが、楽しみ方はレースだけではないぞい。観戦して選手に投票することも出来るんじゃ。単勝で100円からじゃ!単勝はオッズが微妙なんじゃが、2位までを予想する2連単まで買うことが出来るので、みんなそっちで買うんじゃ。2連単なら10倍は固い!!」

 

 なるほど、動機は賭けレースの軍資金確保だったというわけか。

 100円で入場し、100円で単勝だか2連単だかに賭けると。

 野字原は滑空部の連中から聞き込みを回っているうちに、このゴーカートレースの情報にたどり着いたらしい。


「う~む、レースか。ということは滑空部でゴーカートレースに熱を入れてるやつが犯人だな!!!」


「それがねぇ~、滑空部の人たち全員ゴーカートレースが好きみたいだよ。空を飛んでると大地の乗り物が光って見えるんだって。ファーストステージに参加してる人もいるみたい。ないものねだりだねぇ~、うはは」

 

 なんということだ。全員がゴーカートファンでは、犯人特定が出来ないじゃないか。

 すると野字原は一国君が用意してくれた番茶をすすりながら答えた。


「でも結構絞れたよ。ほら、降魔小って心霊スポットじゃない?だから霊感強い人じゃ入れないから、滑空部で霊感のない人に絞ろうと思って霊感があるかないか聞いてみたの。そしたら7人くらいに絞れたんだよ~」


 ならば犯人はその7人のうちの一人…もしくは全員というわけだな。

 追いつめてはきたが、事件解決にはあと一歩か。

 もう少しなのだが、最後の決め手がない。

 このエピソードも今回でおしまいなので、ここで決着をつけねば未解決事件として片付いてしまうので、何か切り札があればよいのだが…。


「心霊スポットなのだから、そこにいる幽霊ならハッキリと犯人を見てるだろうに…目撃者が幽霊では聞きようがないな」


 私が腕組みしてつぶやくと、一国君がふと折り畳みの机を叩きだし、それだ!…もとい、それじゃ!!と叫んだ。

  

「風月のオカ研の奴なら幽霊と交信する手段を知ってるはずじゃ!!おい胡吉よ、オカ研を頼るんじゃ!!」


 風月中には、オカルト研究部なるものが存在している。

 なるほど、盲点だった。風月のオカ研ならば私も友人がいる。


「よし!!ではオカ研を頼るとしよう!!」


 一国家をあとにした私と野字原は、その足で風月中へと向かい、オカルト研究部と書かれた我が探偵事務所に勝るとも劣らないプレハブ小屋ののれんを潜った。

 あいにく他の部員は夏休みと言えば怪談に都市伝説がうようよということで、各地の調査に向かっているとのことだったが、一人だけ部室にいた。

 暑いからという理由で屋外に出ず、室内の床にへたり込み、アイスキャンディを舐めつつ扇風機と密着して友達になっていた「(じん)」という名前の体重100キロを超える巨漢の部員に事情を説明し、私たちは幽霊と交信する手段を教えてもらい、教えてもらった私は早速行動に移すことにした。



 結論から言おう。

 事件は無事に解決した。

 犯人は単独犯、予想通り会夢中の滑空部の生徒で、意外だったのは「長田(おさだ)」という名の2年の女子だったことだ。

 細身でそばかすがチャーミングな長田に事情を聴くと、ゴーカートレースの町長煉獄杯でたまたま2連単で買った100円に56倍の配当がつき、5600円になって返ってきたことで、こんなに簡単に稼げるのかと味を占めてしまったらしい。

 レースに賭ける資金を得るため、校内掲示板にうわさを書き、夜中に黒電話の前に200円があることを確認したあと、まだ皆が寝静まっている早朝、パラセールの練習と偽って降魔小の屋上から侵入し、200円を奪っていったというわけだ。 


 しかし黒電話が災いした。

 家政婦は見たではないが、地縛霊は見ていたのだ。

 オカ研の仁から幽霊と交信する手段を聞いたところ、心霊スポットに電話があるなら特定の番号をかければ付近の幽霊と通話することが可能なのだ。

 教えてもらった番号をプッシュすると、繋がらないはずの電話の受話器からプルルルという確かな着信音が聞こえ、日中だというのに地縛霊が電話に出てきた。

 私は霊感がないのでどのみち見えないが、幽霊は日中でも太陽光の影響で見えないだけで存在はしているらしい、付近にいるそうなので、糸電話のような感覚だ。

 「アンナ」と名乗った年齢不詳の女の地縛霊は「見ちゃったのよ!」と団地のおばさんのようなテンションで犯人の特徴を詳細に教えてくれた。

 というわけで犯人を捕まえるに至ったと。

 長田は涙ながらにこんなことは二度としないと言い、うわさを知っている人間もとい、実際に200円を置いて行った連中には、わかる範囲で私と野字原がそれぞれ回って事情を説明した。

 真実さえ知れば自然とうわさも消滅するだろう。

 依頼人の一国君も事件の真相を聞いて満足し、報酬だと言って茶道部でもらった茶菓子を我々にくれた。


 というわけで、胡吉探偵事務所初の事件は無事解決した。

 わたしは一国君からもらった大福を頬張り、微糖のコーヒーで流しこむと、一仕事終えた人間にしか出せない満足の溜息を一つゆっくりと吐いた。

 

 野字原も私が家具部の知人から譲り受けた試作のソファーに腰かけ団子をぱくついている。

 

「解決してよかったねぇ~。一件落着~」

  

「うむ、まったくだ」

 

 野字原が団子を食う様を見ながら、私はふと降魔小の職員室へ向かう途中にあった「あるもの」のことを考えていた。

 1階の廊下に並んだ空き教室の一室でチラリと見えた「あれ」

 今回の事件とは無関係なものだったので、その時は特に気に留めなかったのだが、あれは一体何だったのか…。

 まあいい、事件は解決したのだ。

 

 私は缶に残った微糖のコーヒーを一気に喉に流し込んだ。

  

 

夏のホラー2024年に書いた作品でしたが、いかがでしたでしょうか?

ホラーなので、最後だけスッキリしない終わり方にしました。

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