探偵胡吉治シリーズ第一弾「消えた200円」その3
私立「会夢中学校」にこの人ありと謳われた名探偵がいた!
その名は名探偵胡吉治。
後に市の中学という中学を席巻するつもりでいる探偵部部長である彼に夏休み、とある依頼が訪れた!!
問題の校舎に早速忍び込む探偵!!頼むぞ探偵!!霊感がないのが頼りだ!
夜の校舎というのは不気味なものだ。
降魔小学校にたどり着いたのは夜の7時半過ぎ。
校庭のフェンスの近くに自転車を停めると、私は一国君から絶対に返せと念を押されつつ借りた100円硬貨2枚と、野字原から借りた懐中電灯片手にフェンスに空いた子供一人分ほどの穴をくぐり、中へ足を運んでいた。
「胡吉くんがんばってね~、私も怖いから帰るけど懐中電灯は絶対返してね~うははは」
小学校まで付いてきたのに、私の霊感がここはやばいと言っているなどと言って野字原は私を置いて帰ってしまった。
まあいいだろう、ようやくこの名探偵が活躍できる場が来たというわけだ。
降魔小学校は、戦後間もないくらいに設立した木造校舎だ。
新しい校舎が出来るからということで廃校になったわけで、まあなるほど。
教室には黒板もなかったみたいだが、学校設立以前の寺子屋時代と違い、板の床なので、今の我々のように椅子に腰かけて学ぶのは同じだったようだな。今はがらんどうの教室に机も椅子も置かれていないが。
すっかり暗くなってしまい辺りがよく見えないため懐中電灯であたりを照らす。
怨霊や地縛霊のいる真っ暗な廃校の廊下をどうして私が堂々と歩けるのかというと、私は幽霊が見えないからだ。
私には一国君や野字原のように霊感などというものは備わっていない。
200円を黒電話の前に置いた4人の連中も同じように霊感がなかったからここに入ってこれたわけだ。
霊感の鋭さは個人差があるのだが、特に強い者はこの校舎を見ただけで頭痛がしてしまうらしい。
形あるものには思念が宿るのだが、例えば壁に手を触れようものなら、霊的な波動が脳内を駆け巡るというのだから大変なものだ。
黒電話を見つけた。
校舎は3階建てなのだが、2階の位置にあった。
汚れたプレートに職員室と書かれた部屋の前の廊下にポツンと置かれている。
私のへそくらいの高さの台に置かれた至って普通の電話だ。
他の物に比べ使用感があるのは、200円を置いた連中が恐らくいたずらにいじったのだろう。
ダイヤル式かと思ったが、0から9の数字が並んだプッシュボタン式なのだな。
受話器を取ってみたが、何の音もしない。
探偵ものの電話と言えば切られた電話線がお約束だが、別に切られたなどということはなく、単純に使えないだけだ。
うわさが確かなら、この電話の前に200円を置けば翌朝には消えてしまっているというわけだ。
確か夜8時に置くんだったな。
余談なのだが、実は心霊スポットには時計を持っていくことができない。
時計などの時を刻むものや記録媒体…CDにカセット、ビデオテープなどを持ち込むと、そこに霊が取り付いてしまい、時計ならば特定の時間で止まるといった原因不明の故障を起こし、記録媒体であるなら霊の声や霊の映像が入り込んでしまうからだ、これは霊感があるなし関係ない。
というわけで私は時計を持っていないのだが、心配はいらん。
私はじっと待った。そろそろ鳴るはずだ。
鳴った。
甲子園よろしく、うなるようなサイレンの音が夏の夜の街の大気にこだました。
夜8時になると、頃賀市ではサイレンが鳴るのだ。
私は夜8時になったことを確認し、100円硬貨2枚を電話台に置くと、周囲の様子を伺った。
誰かに見られている様子はないな…。
恐らく幽霊がうじゃうじゃいるのだろうが、あいにく私には何も見えん。
ここで朝方4時まで粘ったやつがいたというが、私には信じられんな、幽霊は見えんが、廃校に長居などしたくないぞ。
目的を済ませたので、私は帰宅することにした。
翌朝6時に目を覚まし、日課である朝のラジオ体操を華麗に済ませたあと、私は自転車を飛ばして降魔小へと向かった。
校庭に自転車を停め、フェンスの穴をくぐり足早に校舎の職員室に向かうと、なるほど。
確かに昨晩、私が黒電話の前に置いた200円は、はじめからなかったかのように、姿を消していた。
一国君に絶対に返せと言われた200円だ。これで何がなんでも犯人をつきとめなければならなくなった。
その日の晩も同じことをした。
ただし今度は徹夜だ。
私は商店の路地で活動していた肩たたき部の知人に半日アルバイトを申し込み、半日のアルバイトで街の老人たちの肩を叩いたバイトの報酬として300円をもらい、商店街の自販機コーナーへ行って自販機という自販機の隙間からどうにか見つけることが出来た100円硬貨1枚と10円硬貨一枚を握りしめ、夜に降魔小へと向かった。
410円あるので、200円は明日一国君に報告がてら返すこととしよう。
昨夜と同じように、夜8時のサイレンを合図に200円を電話台の上に置いて、校舎を後にする。
さて、問題はここからだ。
野字原によると、犯行時刻は朝の4時~7時までの3時間とのこと。
ならばこの3時間張り込みをすれば自ずと犯人を捕まえることが出来るというわけだ。
私は一旦帰宅し仮眠をとると、深夜こっそり自宅を抜け出し小学校へと急いだ。
自室の時計で時間を確認したが、家を出たのが深夜3時。
なら校舎の黒電話の前に着くのは、4時より少し前になるだろう。
やはり、深夜の廃校に長居するのは霊が見える見えん以前に居心地の悪いものだが、そろそろ夜明けだし、3時間という縛りがあるので、まだ何とかなるだろう。
私はその場にあぐらをかき、じっと電話を見張っていたのだが、やがて周囲が明るくなり朝日が窓から差し込むようになった頃、電話台を確認すると、私が置いた200円はなんと綺麗に消え…ることなく、なんとその場に置かれたままになっていた。
どういうことだ?
犯人が現れ、事件解決になるかと思ったのだが…
その時、どこからか物を叩く音が聞こえた。
上の階からだ。
棒状のようなもので壁を叩いているのか、コツコツという音がハッキリを聞こえた。
3階に誰かいるのか!?
私は立ち上がり、階段を駆け上がって音のした方を目指したのだが、3階の教室の至るところを見ても、そこには誰もいなかった。
「誰もいないではないか…あっ!!」
ふと大事なことに気づくと、慌てて私は階段を降り、職員室へと急いだ。
そして黒電話を確認すると…。
「…やられた」
電話台の前に置いてあった私の200円はきれいに無くなっていた。
夏のホラー2024年に書いた作品ですが5話完結予定です。
これで残り2話です。