4:不思議な彼の状況
「結先 摩雪…君?」
「うん?…あ、君はえっと…愛莉さん?」
「そう。よく覚えてたね。いっぱいいるのに…」
そう言うと摩雪は、何故か苦笑いをした。
あの後、自己紹介やらなんやらが行われて、終わった後も摩雪が忙しかったのは言わなくてもわかるだろう。クラスの女子生徒所か、学年の女子生徒ほぼが彼のトリコ化している。
結果、話しかけるのが放課後になってしまった。
「ええと…込み入った事が聞きたいんだけど」
「込み入った事ね…。その前に変な事言って良いか?」
「…………夢の中で 私と会った…とか?」
「…まぁ、そんな所」
ははっとまたもや苦笑いをする。
…そうか。彼も私と夢の中で会ったんだ。 だから、印象的で 私を覚えてた。
「愛莉ちゃんも、オレと会ったの?」
「うん」
「そうか…。じゃあ、そんな愛莉ちゃんにだったら言っても良いかな」
「………込み入った事?」
「そう。実は、オレには
…記憶が、無いんだ」
……………え?
「いや、タチの悪い冗談とかじゃ無くて。マジで無いんだよ、オレの記憶。…どっかにいっちまった」
そして、泣き笑いみたいな表情。
だからなんだ…。摩雪君には記憶が無い。だから、自分がどんな立場にいるか知らない。
どんな事に巻き込まれているか、知らない。
彼が、とても無垢に…無防備に見える。
そんな彼をどうにかしてあげたい。でも、私はやっぱり何も出来ない。
私に、入り込む隙間なんて、
どこにも、無いんだ。
そう思ったら何故か、涙が溢れてきた。
ほろほろと涙が頬を伝う。
「ご…ごめんなさい…急に泣いたりして」
泣き笑い。
さっきの摩雪君より悲しい顔してるかも。私ってば、久しぶりに泣いた……。
「じゃあ、また」
そう言い残すと、愛莉は方向転換してゆっくりと歩き出した。
何とか、ここまで来ました…。
ふぅ、緊張。
この後どうなっていくのか、私にも分かりません。
(無責任)