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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
番外編.sideオルクス
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④ⅠーⅣ幕間(その②) 共存できない主張

日曜・水曜に更新と言っておきながら遅くなってしまい、申し訳ございませんでした…。

どうか、今回もお楽しみいただけますように祈っております…!

「……『話し合い』とは言っても、結論は一つしかないんだけどね。だって、僕たちの主張同士の共存は無理だろう?」

「当たり前に無理ですね。師匠は分裂できませんから」

 間髪入れずに返ってきた言葉に、オルクスは確信する。

 

 自分たちが、敢えて話し合いを避けてきた話題。

 それはやはり紛れもなく、自分たちの『計画成功後』のリーベラの居場所についてのことだと。


――彼も、()()()()()()()()()()()とは、どこかでずっと思っていたけれど。


 目の前の、何を考えているのか読みにくい狐の笑みを浮かべる美貌の青年。彼はつい先ほど、彼とオルクスとの暗黙の了解を踏み越えて、リーベラを強制的に自分の元へ連れて行こうとした。

 二人がかつて契約を交わした、『魔法使い』の『約束』の条件をすり抜ける形で。


 アドニスが元の居場所に戻ることをオルクスが手伝う代わりに、アドニスはリーベラを救う手立てをオルクスと共に探す。そして、オルクスがリーベラの傍に居られない間は、アドニスがリーベラを必ず守る――それが、2人が交わした、破ってはいけない『約束』だった。


『――「約束」は、条件同士が釣り合わないといけないんです。俺を王族に戻す助力の提供と、師匠を守りつつ救う助力の提供、これで五分五分なんで……これ以上でも以下でも、契約締結は不可です』

 あの時『約束』を、契約を交わした時にアドニスはそう言って。


『……リラが平和に過ごせるようになるのなら、何でもいい』

 かつての自分は、縋るようにそう思いながら、『約束』をした。


(……僕たちは互いにきっと、目的のために、先のことに目を瞑った)

 心の底で、分かりたくも無いのに判っていた。

 いくらリーベラがアドニスにとって『計画にちょうどいい人材だった』ことが事実だったとしても、リーベラの弟子になる以外にも、彼には道があったはずだ。何せ、現王妹の実の兄なのは事実なのだし、魔法も使えるのだから。


 他にも手立てがある中で、嫌いな相手や苦手な相手との同居に自ら進んで飛び込む人間は居ない。

 彼がリーベラのことを憎からず想っているのは、あまりにも自明で。


 そして、オルクスのリーベラへの想いを、アドニスは知っていて。

 

『リーベラのため』が目的の共通項目かつ、リーベラが自分たちの弱点であることを自覚している2人。それはつまり、互いの弱みを握り合う関係でもあるということで。


――だが反面、だからこそ、計画終了後の彼女の居場所について互いの主張を繰り広げることは、『無理』だと互いに判っていた。


 それを突き詰めれば、言葉にして仕舞えば。話し合いは確実に紛糾し、互いに自分の望む未来を掴む可能性を目の前で失う恐れがある。前提が崩れてしまう。

 だから、敢えて今まで互いに話し合わなかった。

 違和感しか無いほどに、全く話し合わなかった。


 そして話し合わずとも、互いに判っていた。

 その『彼女の未来の居場所』に関わる不可侵の暗黙の了解線を踏み越えて仕舞えば、相手からの信頼を一気に失うことを。

 

(……なのにまさか、ここに来て踏み越えてくるとは)

 苦々しく思いながらも表面上は穏やかな笑顔を維持しつつ、オルクスはリーベラを離さぬよう、しっかりと横抱きに抱えたままソファーに沈み込んだ。

 そのはずみで体勢が少し変わったリーベラが、ほんのわずかに身じろぎをする。


――大丈夫。とにかく、リラは今ここに、無事で居る。

 その規則正しい息遣いと腕の中にある温かさを改めて自覚し、オルクスのささくれだった気持ちが少しだけ和らいだ。


(無事に生きてくれているだけで十分だと、無事な姿を見ることができるのなら、リラが救えるのならなんでもいいと、思っていたけれど)

 人というモノは、つくづく欲深いモノだとオルクスは自嘲気味に思う。

 あわよくば。どうにかして自分だけが、彼女の隣に。

 ずっとこのまま、側に居たいという想いが止められない。


――彼女に出会うまで知らなかった。自分がこんなにも、執着心の強い人間だったなんて。


「うーん、でもやっぱりどうにか穏便に済ませられないかな」

 オルクスは苦笑しつつ、敢えて朗らかな口調で口火を切った。

 余裕があるように、こちらには打つ手があるように見せなければと、内心の必死さを外に出さないようにしながら。


――往生際が悪かろうが、何だっていい。

 未来の、君の隣に居るためなら何だって。


「君とは出来れば、今後もいい関係を築いていきたいんだよね。僕とリラが結婚したら、君は僕の義弟同然になるわけだし」

「なんですかその胸糞悪い未来」

 オルクスの言葉を、アドニスが鼻で笑って一蹴する。どうやら退くつもりはさらさらないらしい。

 それを分かりつつも、オルクスは肩をすくめてさらに畳み掛けた。


「残念だけど、君にとって胸糞悪いその未来は結構あり得るよ」

「……随分、自信がおありですね。師匠にあんなに避けられているのに、その自己肯定感羨ましいです」

「心がなくても、連れて行くことはできるだろう? ――君がさっき、やろうとしたみたいにね」

「……」

 アドニスが、笑みを顔に貼り付けたまま口をつぐむ。

 オルクスはさらに畳み掛けるために再度口を開いた。


「ただまあ、それは手段としてあるだけだよ。僕自身としてはリラが望まないのに強制はしたくないし、他の人間から強制されて欲しくも無い。ここは一つ、『約束』をするのはどうかな」

「約束……」

「そう。……この計画が終わるまでは、リラの居場所は『一番安全で最善の場所』。計画後のリラの居場所は、リラ本人の意思で選択してもらう――ってことでどうかな? 計画後の居場所について、無理強いや拉致は絶対に禁止」


 そもそも人として無理強いや拉致が選択肢として出てくること自体がおかしいのだが、残念ながらこの『話し合い』の席に着いている2人自体が似た者同士で、執着する相手のためには『目的のためなら仕方がない』という言い訳の元に何でも出来てしまう人間だった。

 なまじ執着を抱ける対象が、限りなく少ないことからくる弊害である。


「……」

 薄らと状況を何となく端々から読み取り初めてはいたものの、常識人であるデルトスも何も言えず、ひたすらオルクスの後ろで沈黙に徹する。

 常識を斜め上に超えてくる人間を2人も前にして、口を挟むことはできないと本能で悟ったからである。


 結果。

「……ええ、それが唯一平等に辿り着ける『結論』ですね。ぜひそうしましょう」

 しばらく考え込んでいたアドニスが顔を上げて頷く。

「そうすればまあ、選ばれなかった方の諦めも流石につくでしょうしね」

 それは、オルクスが普段する笑みとそっくりの、完璧な笑みで。


「そういうこと。じゃあ、『約束』だ」

「――はい。師匠の『居場所』の件、『約束』しましょう」

 魔力を持つ者との、『約束』の締結。

 それを目論み通りに無事完了させて、オルクスは内心ひっそりと息をついた。


――これでこいつはもう二度と、抜け駆けが出来ない。

 そして、懸念点もたった一つになった。


(……これが、一番難しい)

 何年も焦がれ続けて、追い求めて、それでも未だ手に入らないのだから。

 けれど、ここまで来たなら、どうにかするしか無いのだ。

――何もかも、勝手にごめん。だけど、君の隣に居る未来が欲しいから。

 オルクスは心の中で呟きながら、腕の中のリーベラの顔にかかった銀の髪を、そっと彼女の耳にかける。


(……まずは、やるべきことをやっていかないと)

 オルクスはゆるりと顔を上げ、後ろを振り返った。

「……デルトス、頼みがある」

「は、はい! なんでしょう」

 忠実にも、オルクスの座るソファーの後ろに立ったまま控えていたデルトスが敬礼で応える。


「悪いけど、僕の寝室のベッドの隣に白い箱があるから、それを持って来るようにシャロンに伝えて貰えるかな」

「白い箱?」

 一体何の指示だと目を白黒させる部下に、オルクスはにっこりと笑いかけた。

「うん。その箱にドレスと靴が入ってるから、それと同じサイズの女性物の服を幾つか買い付ける。すぐに仕立て屋も呼ぶように指示してきてくれ」

「……わ、分かりました!」

 デルトスは素直にこくこくと頷き、首を捻りながら書斎の扉を開けて出て行く。それを見届けてから、オルクスは銀髪の青年へと目を戻した。


「今の君の師匠、服が体に合ってないから。リラの16歳の時の服と靴のサイズ知っててよかったよ。すぐに新しいのが用意できる」

「……」

 オルクスの発言が気に入らなかったのか、アドニスがほんの一瞬鼻白む。

(……意外と、反応あるな)

 分かりやすいその表情の崩れを観察するオルクスをじろりと睨み、一瞬ののちにアドニスはまた笑顔を立て直す。

 そして彼は、朗らかな調子で口を開いた。


「箱に入ったままのドレスと靴……ってことは、昔せっかく買ったのに、渡さなかったんですね」

 今度はオルクスの片眉がぴくりと吊り上がる。それに被せるようにして、アドニスは「あ、違うか」とわざとらしい仕草でポンと手を叩いた。


「渡さなかったんじゃなくて『渡せなかった』っていうこともあり得ますよね。いやあ、何があったんですかねえ……もしや突き返された、とか」

 アドニスはちらりとオルクスを見遣り、続ける。

「師匠、前に『ドレスなんてあっても無駄』って言ってましたし」

「……」

 にこにこと微笑む2人の間に、互いの表情に似つかわしく無いピリピリとした空気が流れ――


「ただいま戻りました、指示通りシャロンさんに言って……って、空気悪ぅ……」

 数分後、オルクスからの指示を果たして部屋へと戻ってきたデルトスは、そのあまりの空気の冷たさに震え上がるのだった。

改めまして、更新遅くなってしまい申し訳ございませんでした…!(矛盾点の確認とか、キャラ解釈違いを起こしてないかとか、自分の中で納得できるまで確認してたら時間がかかってしまい…)


更新が不定期になってしまう中、それでもお付き合いくださっている読者様に、感謝の気持ちでいっぱいです。


そしてそして、ありがたいことに応援のお言葉までいただき、なんて自分は幸せ者なんだろう…!!と幸せを噛み締めております…!

本当に本当に、ありがとうございます…!!!!


これからも楽しんでいただけるよう、精一杯頑張りますのでお付き合いいただけたらとてもとても嬉しいです。よろしくお願いいたします!


P.S.少しだけこぼれ話(オルクスの名誉のための補足)

彼は当時、勝手にリーベラの服や靴のサイズをこそこそ調べてた訳ではないです。まだ仲が良かった時代はリーベラの買い物に普段から付き合っていたので、その際知る機会があったというお話…(今のオルクスを見ると「勝手に調べててもおかしくないなコイツ」と思ったので念のため…)

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