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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
番外編.sideオルクス
82/88

①Ⅰ- とⅠ-Ⅲ.好きなモノに限って

お久しぶりです、番外編オルクス視点を書きに少し戻ってきました。

久しぶりすぎてドキドキですが、どうか少しでもお楽しみいただけますように祈っております…!

 すべては、「最初からはっきり、気持ちを伝えていれば良かった」――これに尽きると言うことは、あまりにも分かり切っていることだ。

 そう。最初からすべて、素直に言っていれば良かった。

 たった一言、「君のことがずっと好きで、今も変わらず好きなんだ」と。


 僕にとって、これは凄く珍しいことで。あまり大きな声では言えないことだけれど、僕にとって「好きなもの」は、実はとても少なかったりする。

 周りに言っていないだけで、悟らせないように立ち振る舞っているだけで。

 筆頭騎士の身でありながら、国に仕える身でありながら。

 実はこの国も、世界も、好きではなかった。

 好きなものは、生意気を言いつついつもなんだかんだで付き合ってくれるとある部下と、ほぼ育ての親と言ってもいい家政婦長と。

 

 そして、リラ。君だけだ。

 

 僕が自分の人生で初めて「人を守りたい」と思ったのも君で。

「共に一生、隣に立って生きていきたい」と思ったのも君で。

 一番近しくありたいと願ったのも君に対してで。

 

――だけど。

 数少ない「好きなもの」相手に限って、上手くいかないのは何故だろう。

 上手く伝えられないのはなぜだろう。


『ほらオルクス、今日は私の勝ちね』

 こちらの気も知らないで、心底嬉しそうな声色で言いながら、練習場で魔女のローブをはためかせる彼女を思い出す。

 ――こちらをただの「幼馴染」として扱う、銀髪に夕暮れ色の瞳の小さな魔女。


『オルクス? 何、その表情。まさか今日の手合わせ、手抜きしたんじゃないでしょうね?』

 ――ああ、全然なにも分かってないんだろうな。

 そう、思って。

 今更この幼馴染の関係を、一歩進める勇気が出なくて。

 君との関係性が壊れて君が離れていってしまうのなら、いっそのことこのままこの関係のまま、傍に居られるほうがいいと、昔の自分は思ってしまっていた。


『……別に。手抜きもしてない』

 普通に想いを告げるには、君のことを好きすぎたんだ。

 はっきりとこの想いを言葉にして「好きだ」と告げた上で気持ちを拒否されたら、逃げられてしまったら、離れられてしまったら。

 そんなの、耐えられる気がしなかった。いや確実に、耐えられなかった。


――想いを告げて、困った顔をされたりなんてしたら目も当てられない。

 いつしか彼女が自分のことを、うっすら熱を帯びた目で見ている気がしたとき、舞い上がってしまったこともあったけれど。

「もしかして」と淡い期待を抱いた時もあったけれど。

 

 勘違いだったらどうしよう、想いを告げた時点で関係性が壊れる方が嫌だ――「想いを伝える困難」は、どこにでもついて回った。

 思えば、恋をしたのは、これが初めてだった。

 初めて人を、好きになって。

 想いを伝える怖さを知った。

 

 彼女の隣を失いたくないあまり、将来の構想だけは大層に掲げているくせに、肝心の想いだけ伝えられないという情けない状況にずっと陥っていた。

 

 『次』があることなど、約束されたものではなかったのに。当たり前だと思っていた関係性は、あっという間に崩れ去ることだってあり得るのに。


 彼女のあの熱を帯びた目が、恋しくて恋しくてたまらない。

 もしも。もしも君がもう一度、あの目で僕を見てくれたなら――


「――そうか、そりゃ何より。じゃあまた」

 一度壊れた関係性の後の、想像の斜め上の展開。

 身体が16歳の時間に巻き戻ったリーベラは、淡々とした表情を崩さず、オルクスをかつての熱を帯びた目で見ることもなく。

 今しもそう言った彼女は、オルクスに向かってくるりと背を向けて立ち去ろうとしていた。


「ちょっと待った」

 オルクスは努めて冷静な声で口を開きつつ、すぐに立ち去ろうとする彼女の裾を必死の思いで掴んで引き留めた。


 彼女の背中を見続けて、もう何年になるだろう。

 何年もかかって、やっと今日を迎えたんだ。

 絶対にこの手を、離すわけにはいかない。離してはいけない。

 離してしまったら、最後。

 彼女が何も言わずにどこかに行ってしまうのではという恐れと焦りが、ひたすらにオルクスの全身を支配していた。


――『弟子と旅に出ることにしました』。

 そんな素っ気ない手紙の文面が、先ほど見たばかりの動かない彼女の姿が。オルクスの脳裏に蘇って、背筋を凍らせる。

 何も言わずに、永遠に別れることを選んだ彼女の姿。

 もう二度と、あんなことは御免だった。


 なのに。この差は何なのだろう。

 こちらはここまで動転しているというのに、彼女はまるで何事もなかったかのように、またも立ち去ろうとしていて。


「……リラ、僕に何か言うことない?」

――『くれぐれも師匠を巻き込まないよう、彼女に気付かれないでくださいね』。

 頭にちらつく、あの憎たらしい男の台詞を振り払いつつ、オルクスは口を開く。

(……これくらいなら、許容範囲だ)


 突然手紙だけ送りつけてきたこと、そして『旅に出る』と手紙に書いている彼女が、ここにいる矛盾。

 それを詰めているように聞こえるはずだと思考を巡らせつつ、オルクスは問いかけに半分の本音を潜ませて目を細める。


 聞かずには、いられなかった。

 痛くて痛くて、堪らなかった。彼女が自分に何も言わずに、永遠にいなくなろうとしたこと。

 何も言わずに、彼女から別れを選ばれたこと。

 何も告げられず、きっとそれで平気だと思われていたこと。

 それが身をつんざくように辛くて堪らなかった。


 君は一体、どうするつもりだったんだ。

 君が死ぬつもりだった世界線で、君が居なくなったことに、僕が何とも思わないとでも?

 君が旅に出たと思い込んで、そのうち訃報を聞かされて――それで平気だとでも?

 そんなわけがないだろう。

 君と近しいと思っていたのは、僕だけだったのか?

 どうして僕に、何も言わずに――


「は? 言うこと?」

 心に痛みを感じながら聞いた質問に対して、彼女から眉を淡々と顰められて。

――ああ、本当に、君は。

 千切れそうな心を抱えたまま、オルクスはリーベラに、先程彼女から魔法で送られてきた『手紙』を突きつけたのだった。

1ヶ月ほど更新できなかったのですが、ブクマ外さずにいてくださった皆様、本当にありがとうございます…!

しかも大変ありがたいことに、ブクマもご評価も増えている…!本当に本当に、ありがとうございます!嬉しすぎて嬉しすぎて…!


久しぶりの投稿、「ちゃんと読者の皆様の需要に合う内容で書けているだろうか…」と戦々恐々としながら投稿しております(そしてチキって真夜中に投稿する奴)


因みにオルクス視点の通し番号ですが、ローマ数字で本編の裏に対応するようにするつもりです(今回はゼロ話(ローマ数字はゼロの概念がないので空白)と【1-3】の裏なので標題の通りになってます)


しばらく日曜・水曜投稿でいこうと思いますので、もしお気が向かれましたら、お付き合いいただけますと嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします…!

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