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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
【第五章.終章とエピローグ】
77/88

5ー6.王の元へ

投稿が大変遅くなり、本当に申し訳ございませんでした…。

キャラたちが全然作者の思惑通りに動いてくれず、四苦八苦しておりました。。

どうか少しでも、お楽しみいただけますように。

「……師匠、もしかしてまだあいつ、貴女に対して何か連絡手段持ってます?」

 目を鋭く細めたアドニスが低い声を絞り出すのに対し、リーベラは首を振って応える。


「いいや何にも。ただ思いついて言っただけだ」

 思いつきというか、一番あり得そうな可能性だから、口にしたのだけれど。そうでなければ、今この場に於いてリーベラを抜きに話を進める理由がないからだ。


「そうですか、じゃあ師匠の勘違いですね。違いますよ」

 またも完璧な笑みを浮かべながら言われた言葉に、リーベラは目を眇めた。

「さっき、思い切り分かり易く動揺してたじゃないか」

「してません。気のせいでは?」

「してた。それに図星でなければ、『王が何かの連絡手段持ってるか』なんて聞かないだろ? 脈絡がなさすぎる」

「……」

 アドニスが口をへの字に曲げて黙りこくった。その隣で、オルクスがじろりと彼を見下ろして口を開く。


「随分なヘマをやらかすね、君は」

「鈍い方向にはとことん鈍いくせに、なんでこういう時には鋭いんですかね……」

 大きなため息をつきながらのアドニスの台詞に、リーベラは不安になって眉を顰める。


「……私、まだどっか変か? もう全部元に戻ったはずなんだが」

「ああ違います、そういう意味じゃなくて」

 やれやれと言った調子でアドニスが「例えば」と目を眇め、リーベラをすっと指差した。


「そのドレス、贈った人間がもろ分かりですけど……どんな意味があるか分かってます?」

「ん? ドレス?」

 問われて自分の海夜色のドレスを見下ろしても、特に何も意味のあるようなものは見つからない。

 ドレスを用意した張本人を見上げてみれば、先ほどアドニスを睨んでいた視線はどこへやらといった様子で、美しい笑みが無言で返ってきた。

 確信犯的な笑みだが、教えてくれる気はないらしい。

「何なんだ」と面食らいつつ、リーベラはのろのろと口を開く。


「ドレスはドレス以外の何物でもないのでは……」

「ほら、そういうところですよ」

 明らかな呆れ顔で元弟子が肩を竦めるのをジロリと見遣り、リーベラは再びすうと目を眇めた。


「話を逸らすな」

「……」

 しばらく続く、元弟子との無言の睨み合い。ややあって「流石にちょっと見つめ合いすぎじゃないかな」というオルクスの声と共に、リーベラの目がふわりと背後から回って来た大きな手で塞がれた。


「ちょ、ちょっとオルクス」

「僕に一つ、いい案があるよ」

 手を目から剥がそうとするリーベラをいなしながら、オルクスが唐突にそう言い出し。


「やっぱり、僕があの男を消してくる。それで全部解決だ」

「……」

 部屋に一瞬、沈黙が落ちた。


「オ、オルク」

「いやだから、それじゃ不十分なんですってば。短期視点で考えるのいい加減やめてくれませんか」

 リーベラが慌てて呼びかける声に、アドニスの呆れ声が被さる。オルクスの手をやっとのことで引きはがしつつ代わりに右手をがっしり掴まれながら、リーベラは「短期視点?」と眉を顰めた。


「『不十分』に『短期視点』って、何するつもりなんだ……?」

「もちろん、兄上の今後の処遇ですよ。――大丈夫です、これでも師匠の弟子として教えは守ります。殺しはしません」

(殺し『は』ってなんだ、『は』って)

 言葉が不穏すぎる上に、それを狐のような笑顔で言うものだから得体の知れない迫力がある。が。


「……ちょっと待ってくれ、その前に王に確認しないといけないことがあるんだ」

 リーベラは思わず空いている左手の方でドレスの裾を握りながら、絞り出した。

――そう、心の片隅で引っかかっていたことがある。


「……だから、もし私に気を使って遠回りをしようとしているのなら、その必要はない。私を出せと言っているのなら、私が直接行こう」

 王への畏怖の気持ちも、オルクスを害そうとしていたことへの憤りも、まだずっとあるけれど。

 悔しさ、悲しみ、怒り、憎しみ――そしてそこに混ざる、罪悪感。混ぜ込まれた感情が鍋の中で煮えたぎっているようで。

(……一歩間違えていたら、分岐点を違えていたら、私も)


「――だから、彼の処遇を決めなければならないのなら、できればその話のあと決めてほしい……」

 随分、勝手なことを言っているのは痛いほど分かっているけれど、と。

 意を決してそう言うと、右手を掴んでいるオルクスの手に力が籠もり、隣からオルクスの盛大なため息が聞こえてきた。


「リラ。君、分かってる?」

「……うん、自分勝手なのは分かってる。ごめん」

「そうじゃなくて」

 オルクスが一歩近づき、空いている右手をリーベラの頬にそっと添えた。

「……君、大分無理してるよ。さっき僕の屋敷で王の話になった瞬間から、口調が『破滅の魔女』時代のものに戻ってる」

――あんたのその話し方って、『相手に舐められて利用されないための防護壁』なんですよ。

 前にアドニスに言われた言葉が頭をよぎり、リーベラは思わずじわりと目を見開いた。それを見たオルクスが、憂いを帯びた顔で顔を覗き込んでくる。


「自覚なかったんだね。そんな無意識下でも怖がってるのに、王に会いに行くって言うの?」

「……うん。口調はその、習慣で。ここ、王城だし」

「……意地っ張りにも程があるね」

 低い声で言われながら軽く鼻をつままれ、リーベラは「む」と声を漏らす。唐突な触れ合いに戸惑うリーベラを見つめたまま、オルクスは「……うん。どうしようかな」と再度ため息を吐いた。


「……ここで行くなって止めたとして、君は多分、このことを後々引きずるだろうね」

「……うん。ごめん」

――オルクスの言う通り、多分引きずるだろう。この先王がどうなるか、その責任や要因の一端は自分にある。何もかもがはっきりしないまま、判然としないまま、自分だけ何もなかったように過ごすことはきっとできない。


「僕としては奴のことなんてきれいさっぱり一刻でも早く過去のことにして、今後一切思い出してほしくない位なんだよね。正直、今この瞬間も腹が立ってる。……ああ、君にじゃないよ」

 リーベラに向かって憂い顔で微笑みながら、オルクスが頬に当てた手をすうと滑らせる。そして何かを一瞬考え込むような表情をしてから、ぐるりとアドニスの方を向いた。

 

「よし分かった、僕にいい考えがある。僕はリラと一緒に行く」

「え、オルクス、あの」

「――勿論僕も一緒だよ、当たり前だろう? でないとまた気絶させてでも止めるよ、いいの?」

 是が非でも否定の言葉など言わせないと言わんばかりの笑顔で顔を覗き込まれ、リーベラは蒼白になって頭を振る。気絶は正直、もう勘弁願いたかった。


「……いい考えって何ですか」

 オルクスの肩越しに見えるアドニスは、珍しく苦虫を嚙み潰したような顔をしていて。それと反比例するように、オルクスはにっこりと満面の笑みかつ、冷え冷えとした氷のような目をしたままにんまりと口角を上げた。

「最高の復讐さ」

「……」

 アドニスが何かに耐えるように手を顔に当てる。これもまた珍しい行動だ。

「……分かりました、分かりましたよ」

 ややあってから、大きなため息とともにアドニスがリーベラの方を見遣った。


「……すみません、師匠。無理をさせて」

「いや、こっちこそ我儘言ってごめん……」

 恐る恐るリーベラが詫びると、アドニスはうっすらと苦笑して首を振った。

「いいえ、むしろこっちは助かります。話が早くなるんで」

 そして彼は目を伏せて一息吐いた後、顔を上げて「俺も行きます」と硬い声で言い。


「では、行きましょうか。やりたくないことはさっさと済ませましょう」

 そう言って重い足取りで、オルクスとリーベラに後に着いてくるよう促した。


◇◇◇◇◇

 王城の、王族専用の領域の一角にて。とある部屋の大扉の前でアドニスが手をかざし、ガチャリと部屋の鍵が開く音がして。

 堅牢な扉が、鈍い音を響かせながらゆっくりと開いた。


 中はかなり広い作りの部屋だった。王族の謁見室とは違う、長く過ごすことを前提にあつらえられたような、落ち着いた雰囲気の部屋だ。

 調度品は、ダークブラウンと深いグリーンの色合いのものでまとめられていて、一つ一つが高価なものであることが見て取れる。

 天蓋のついた立派な寝台。しっとりとした上品なベルベッドのソファーに、大きな鏡台。

 まず部屋を一目見た瞬間、リーベラはぎょっと目を見開いた。


「兄上の処置についてはまだ保留なので、ひとまず王族専用のこの部屋に鍵をかけて居てもらってまして。ここ、『対象』に定めた者は魔法が使えないように設定されている部屋なんで安心してください。今、兄上は魔法が使えないようになってますから」

 アドニスの説明で、リーベラはますます確信する。

――ああ、私、ここを知っている。


「リラ? 大丈夫?」

 肩を抱いてくれているオルクスが、眉を顰めながら顔を覗き込んでくる。リーベラは慌てて「ん、大丈夫」と頷いた。


「やあ、リーベラ。……と、弟とオルレリアン公爵も着いてきたのか」

 ソファーには、一人の青年が腰かけていた。

 爽やかな声色をした、堂々とした佇まいの高貴な青年。いつもと変わらず、綺麗に整えられた金糸の髪に、霞なく美しい空色の瞳。きめ細やかな白い肌が、白いシャツに黒のズボンという出で立ちで逆に目立っている。

 温和に微笑む表情には暴力性も冷酷さも感じられず、これが長年リーベラに地獄の3択を突きつけ、先日リーベラとオルクスに苦痛を与えてきた人間などと、傍目には到底見えないだろう。


「そりゃあ、貴方と二人きりにするはずがないでしょう?」

 挨拶よりも先に、オルクスがアレスに向かって目の笑わない微笑みを向けながら口火を切る。

 対するアレスは、相変わらず完璧な笑みを浮かべながら「まあ、それもそうだね」とあっさり頷いた。

 そして彼は、その笑みをますます深くして言う。


「――良かったね、オルレリアン公爵。大切なものを、失わずに済んで」

「……!」

 その言葉にオルクスの表情がみるみるうちに険しくなっていくのを、リーベラは見て。

 同時に、肩を抱くオルクスの手に力が更に籠ったのを感じた。

前回投稿時から間隔が空いてしまい、申し訳ございません…!

キャラ達が全然言うことを聞いてくれず…格闘していたら遅くなりました…。

本当はもっと短く場面展開しようと思っていたのに、彼らの主張が激しく文量が多くなりました。。。


ブクマ、いいね、本当にありがとうございます!!!

そして更新できていない間も覗いて下さった方々、本当にありがとうございました!(そして本当に申し訳ございませんでした)


明日も更新できるよう頑張りますので、よろしければお付き合いいただけますと嬉しいです!


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