4-13.私のそばに
更新、遅くなっていてすみませんでした…!情報の取捨選択に悩んでいたら大変遅くなりました…。
どうか、お楽しみいただけますように祈っております。
「……」
彼がどこまで何を把握しているのかが分からない以上、何を言っても藪蛇になりかねない。
リーベラは無言のまま、フードの奥から王を見返した。
「――ほら、さっきも見ただろう? 衛兵のあの態度。私のような二枚舌の奴が信用されているこの世界は、どこまでも本当に、腐ってる」
「そう思わないか」と問われて、リーベラはぴくりと片眉を上げた。
「……」
沈黙が謁見の間に落ちる。片方は微笑の、片方は鋭い目の見つめ合いがしばし続いた。
「……ずっと、口を開かない気か」
ため息とともにゆらりと立ち上がり、気だるそうな様子でゆっくりと王がこちらに近づいてくる。思わずリーベラが後ずさりしようとすると、「そこにいて」と冷ややかな声が飛んできた。
あっという間に王との距離が近づき、固まるリーベラの頭を覆うフードを、伸びてきた手がばさりと下ろす。
「……ああ、本当にリーベラだ。生きてる」
目を眇めながら、アレスがリーベラの肩に手を置く。顔をじっくりと覗き込まれ、リーベラは手を振り払いたい思いと必死に戦いながら彼をぎろりと見返した。
「この感覚も、本当に久しぶりだ。……ようやく、ようやく戻って来た」
乾いた笑いがくつくつと、目の前の王の喉から聞こえてくる。
次の瞬間には何を言うのかと一言一言に神経をとがらせるリーベラの頬に、アレスが手を当てた。
素手の感触に身を竦めつつ、あまりのその感覚の冷たさに、リーベラの背筋は硬直する。
――オルクスに触れられた時の感触と、あまりにも違う。
甘やかさも温かさも、どこにもない。あるのはただただ綱渡りをしているような、畏怖の感覚だけだ。
「……なるほど、まさかそんなことができるとは。体の時間の逆行で、術をかけられる前の状態に戻したのか……完全にしてやられたよ」
首元に、するりと冷たい手が下りてくる。軽く親指を喉元にあてられ、リーベラはびくりと身体を震わせた。
「――ああ、本当に君は、大した『破滅の魔女』だ。私を破滅させる全てが、君に帰結する」
目の前の男から発される冷気が、尋常ではない。が、余計なことをして気を逆立てたくもない。
リーベラが黙って彼を見返しつつ口をつぐんでいると、何か話せと言わんばかりに喉にあてられた指に力が入った。
「これはまずい」と、本能が直感して、リーベラは震える唇で声を出す。
「……何の、お話でしょうか」
やっとのことで口を開いた瞬間、喉にあてられた指の圧が緩む。思わず止めていた大きく息を吸い込んだリーベラの前で、王の空色の目に揺れが生じた。
「……それは、演技かな?」
「……?」
何の話だ。リーベラが浅く呼吸を繰り返しながら彼を見ていると、彼の表情がぐにゃりと歪んだ。
「……ははっ」
身動きできないリーベラの前で、王が乾いた笑い声を上げる。そうして彼は、冷ややかな目でリーベラの瞳を再度覗き込んだ。
「本当に、何も知らないみたいだ。なるほどどうして、上手くやったとみえる。……まあ、ここに君が居る時点でもう幾らかは失敗だけれど」
――本当に、何の話だ。
そう思いつつ彼の目に真正面から深く見つめられて、リーベラはぎょっと目を見開いた。
(……瞳孔が開いているし、手も冷たい。動きもやたらと緩慢だ)
――まさか。
「……王、まさか、毒を口にされましたか」
言った瞬間、彼の様子がおかしい目に動揺の色が走った。
「……ああ、やっぱり気付くかい? 毒を盛られたのは久しぶりでね、ちょっと立て直しに時間がかかっただけだ。毒には昔慣らされたし、耐性はあるから別に平気」
「……なぜ、そんなことに」
王位継承権のいざこざ中ならいざ知らず、今のアレスを狙う意味は分からない。国王を狙える者がいること自体に、リーベラは衝撃を受けていた。
「――ぜんぶ、巡り巡っているからね。恨んでも意味がない。そもそもは私が始めたことだ、仕方のないことさ」
謎の言葉を吐きながら、アレスが綺麗な顔で微笑む。そのまま冷たい手にぐいと顎を持ち上げられ、リーベラの足が一瞬つま先立ちになった。
「それに、私はこの役目をいい加減下りたい。もう、疲れたんだ。全部が面倒くさい」
「……つか、れた……?」
目の前に、吐息のかかりそうなほど近くに、あれほど畏怖した王の顔がある。顎を冷たい手でぎりりと掴まれ、リーベラは息も絶え絶えに言葉を継ぐ。
――嫌だ、嫌だ、ここから逃げ出したい。でも。
――逃げたら、オルクスたちがどうなるか分からない。
「……君を見ていると、つくづく自分が嫌になるよ」
ぽつりと、リーベラの顎を掴んだままで。アレスが絞り出すように言う。
「……本当に、この世界は腐ってる。どんなに人格が歪んでいても、地位があれば、世渡りさえうまくいけば、搾取する側につけるのさ。
逆に、どんな聖人だって、どんな優れた能力があったって、地位がなければ、無知であればそういう奴らにただ搾取されるだけ――そういうふうに、世界はできてる。本当に、歪んでる。……だから、これで正解なのさ」
いったい何を、言い出すのか。息をのんだリーベラに、アレスは低い声で囁きかけた。
「――君だって被害者なんだから、分かるだろう。いや、君が一番分かるはずなんだ。君が一番、私を理解できるはずなんだ」
「……っ」
顎を掴む手の指先が、リーベラの顎に食い込む。久しぶりの痛みに、リーベラは思わず顔を歪めた。
「約束するよ、リーベラ。君が私の隣にずっと居てくれさえすれば、もう何も要らない。オルクスの身の安全も保障しよう。――だから」
アレスの手がリーベラの顎から外れ、冷たい指先で頬をなぞる。ぞわりと身を凍らせるリーベラの前で、王は真剣な表情で囁いた。
「私の側に、君だけは居ろ」
何を言われたのか理解した瞬間、焼けるような痛みがリーベラの全身を貫いた。
「……!」
肌の焼ける痛み、切られる痛み、擦ってひりついた皮膚の痛み、氷に張り付いた肌を引きはがす痛み、骨を折った痛み、筋が違えた痛み――あらゆる痛みを凝縮したかのような、意識さえ失いそうなほどの痛みがリーベラの全身を覆う。
「……ごめんね、苦しいね。これは今まで、君が負うべきだった君自身の痛みだもの」
かはりと、息すらも絶え絶えに。床に崩れ落ちたリーベラの腕を、王が左手で支えて囁く。
その右手には、彼の瞳と同じ色の水晶があった。
痛みにのたうち回るリーベラには、口がもう開けなくて。
「君はすぐに無茶をするから、せめて痛みだけでも感じなければいいと思ってたんだけれど……まさか、こんな使い方をする羽目になるとは」
「な……にを」
「――ああ、そんな顔もできるようになったんだね。本当に人間らしく、そして弱くなったものだ」
痛みにのたうち回る感覚の中で、体が地面から浮いた感覚がした。
――体が、燃えるように痛い。息が上手くできない。動けない。
「行こうか。ここは2人だけになるにはふさわしくない場所だ」
そう言いながら、アレスが移動魔法を発動させるのだけは分かって。
次の瞬間、リーベラの視界はまたも青い光に包まれた。
毎日毎日更新遅くなりがちで申し訳ございません…。
キャラが暴走してしまい、解釈不一致を食い止めるために頑張っていたら遅くなりました…。
大丈夫でしょうか…読者様に楽しんでいただけるよう、祈るのみです…。
ブクマ、いいね、本当にありがとうございます!!!
いつも更新する活力をたくさんいただいております!
ラストまであと少し、お付き合いいただけますと嬉しいです!!




