表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
【第四章.『最愛』のひと】
53/88

4-5.あの日、魔女が死ぬつもりだった日

いつも本当に申し訳ございません、またも遅くなりました…。

再びアドニスのターンです。

どうかお楽しみいただけますように、祈っております…!

「にしても、どうやって」

「移動魔法で王城から直接来ました」

 アドニスが、出窓のソファーから立ち上がったリーベラの元まで歩き、ソファーへ腰を下ろす。

 第二騎士団の制服の詰襟部分をしどけなく着崩し、髪もこの前見た時より無造作だ。それがなおさら、気怠げな美しさを醸し出していて。

 朝日の柔らかい光に照らされて、彼の艶やかな銀髪が淡く光る。


「それにしても。部屋にいろと言われて、よく大人しくあんたが収まってますね」

――それは。オルクスから離れたくなかったからだと、今なら分かる。


 オルクスに言われたから、頼まれたから、嫌われたくないから。なんだかんだと理由をつけて、でもそれは結局自分のためで。

 彼が他の女性と婚約するのを見たくないと、離れたがっていたはずなのに。本当は心の底では、離れたくなかったのだ。

 自分の身勝手さと未練がましさが、情けない。


「普段の任務時なら、とっくのとうに容赦なく窓ぶち破って出てますよね」

「……この前しようと思ってた時に、お前が」

 その時にアドニスと王女が来たのだと言いかけて、言葉が喉に詰まる。そんなリーベラの表情を見て、「ああ」とアドニスは軽く頷いた。


「あの日ですか。師匠、俺見たとき相当焦ってたでしょ」

 からからと屈託なく笑いながら、アドニスが金色の目を細める。

 かつての瞳の赤色とは違う、琥珀色の瞳だ。

(……そうだ、腑抜けてる場合じゃない。この状況を早く理解しないと)

 リーベラは無理矢理、王女のロイヤルブルーのドレスの後ろ姿を頭の中から追い出した。

 少しでも彼女について、考える時間を減らしたかった。


「アドニス。私、お前に謝らないと」

「その前に1つ、お願いをしても? あと座ってください、落ち着かないんで」

 弟子にちらりと見上げられ、リーベラはソファーに浅く座り直した。


「今の私にできることなら。……申し訳ないけど、今の私にほぼ魔力はないぞ」

「ああ、知ってます」

 アドニスがあっさりと頷く。リーベラはそうだよなと遠い目をした。

 ある程度の訓練と実力を積んだ者なら、相手の魔力がどれくらいか――自分より格上か格下かは、肌感覚で大体分かる。


 だから、リーベラもアドニスを見て首を捻った。

(アドニスの魔力量が、減っている)

 そもそも彼のポテンシャルはとんでもなく高かったはずだ。それこそ、成長するにつれてリーベラを追い抜いてしまうのではというくらいの力があって。

――師弟の契約がなければ、彼の暴走はリーベラにも止められなかっただろう。


「俺の願いは簡単です。俺相手には、その話し方をやめてください」

「へ?」

 予想していなかった『お願い』に、リーベラは目を瞬く。

「なんで」

「あんたのその話し方って、『相手に舐められて利用されないための防護壁』なんですよ。俺は味方です。俺相手には緊張しないでほしいし、威嚇する必要もない」

――そう、だったっけ。

 リーベラはじわりと目を見開く。そういえば、なぜこの話し方をし出したのか、いつ話し出したのか、その記憶が曖昧だ。


「今まで何度も言ってるのに、毎回師匠は忘れるから」

「それは……ごめん」

 返す言葉もなく、リーベラは謝った。今まで弟子からされた『お願い』ですらも、覚えていないなんて。

「だから、これからはお願いしますよ。『昔の話し方』が思い出せないなら、俺が思い出させてあげますから」

「……?」

 彼は、何を言っているのだろう。思い出させると言ったって、どうやって――


「俺が見せた過去夢(かこむ)は、どうでした?」

「え?」

「あんたは見たはずですよ、やたらと鮮明な過去の夢。……俺のこと、少しは思い出してくれました?」

 リーベラは絶句して固まった。思い当たることが、あったからだ。

 アドニスとの出会いの場面。アドニスを引き取って王城へ向かった時の記憶。

 やたらと最近、鮮明な夢を見るなとは思っていたけれど。


「実は師匠に怒られると思って黙ってたんですけど。俺の得意な分野は、精神魔法なんです。血筋的に」

「アドニス、お前」

「お前じゃなくて、『あんた』って言ってください、昔みたいに」

「そんなこと言ってる場合じゃない」

 リーベラは思わず立ち上がった。思わず声が震える。

 

「……まさか、『禁じられた魔法』に手を出してないだろうな」

 魔法にはいくつか、古くに『禁じられた魔法』がある。

 人を操る魔法、人の記憶を改竄する魔法、人を呪い殺す魔法――そうした魔法が蔓延れば、国そのものが立ち行かなくなってしまう。だから遠い昔に禁じられ、その魔法の習得や教示自体も禁止された。


『人の情動に大きな影響を与える可能性がある』魔法は精神魔法の一種に数えられ、その『禁じられた魔法』にとても近いぎりぎりの分野でもある。

 賢明な魔法師ならば、王国から危険視されることを恐れてまず極めようとしないし、一歩間違えると大事故になる難しい魔法分野でもあった。


「俺のはそういうのじゃありません。いいですか、師匠」

 リーベラの方に体を向け、アドニスがこれまでと変わらぬ飄々とした様子で微笑んだ。

「感情を伴わない記憶は、確かに忘れやすい。それは事実です。――でも、記憶は消える訳じゃないんですよ。思い出せないだけで、その人間の中の心の奥深くには残ってる。それを、俺は目に見える形で浮上させることができるってだけです」

「そんな、こと」

――そんな魔法があるだなんて、聞いたことがない。


「できるんです。ま、魔法師がそんなことをできたとこであまり利益もないので、誰も深掘りしようとしなかっただけですね。こんなことを極めるより、攻撃魔法や守備魔法を極めた方が重宝されるし稼げます」

「それに、これは向き不向きもあるので誰でもはできません」とアドニスは狐のような笑みを浮かべた。


「……」

 自分はこの弟子の、一体何を知っていたというのだろう。リーベラは呆然と、毎日見ていたはずの弟子の笑顔を見つめる。

「だから、俺は元々こうして少しずつあんたの記憶を戻していって、ゆっくりあんたの感情が戻るのを手伝おうと思ってたんですよ。――なのに、邪魔が入った」

 アドニスの眉間に深く皺が刻まれる。苦々しく、低く硬い声が彼の喉から絞り出された。

 かつての弟子は、かつてとは違う金色の目を細めてこちらを見ていて。


「……邪魔?」彼は一体、何を言っているのだろう。

「あんたがあの男に何も言わなかったから、大丈夫だと思っていたのに――師匠、あんたあの幼馴染の男に最後、何か言いましたね? いくらなんでも、駆けつけるのが早すぎた」

 あの幼馴染の男とは、オルクスのことだろう。そう考えつつ、リーベラは眉をしかめた。


「……何も、言ってない」

 本当に、何か特別なことを言った記憶はないのだ。ただオルクスの婚約予定話を聞かされて、形式上だけ祝いの言葉を口にして、それから「じゃあな」と言って。

 婚約予定話を聞かされたもやもやを思い出したせいだろうか、何かが胸につかえる感覚はするけれど。

 リーベラはゆるゆると首を振り。そして気づいたことに思い至り、アドニスに向かって堅い声で言葉を発した。


「あの日、私が小さくなった日――あの日からもお前、近くに居たんだな。前に言ってた『仕組んだ』って、何? それからその目はどうし」

 アドニスがため息をついて立ち上がり、リーベラの唇に一本、自分の人差し指をあてる。

「だから師匠、言葉遣い」

「……分かったから、答えて」

 リーベラの鋭い視線と、アドニスの観察するような視線が交差する。一瞬の沈黙の後、アドニスはゆっくりと微笑んだ。

「――そうです。全部俺があの状況を仕組みました。全部あんたを助けて、あの腹黒王から隠すためです」

情報の出す順番が難しく、組み直ししてたら遅くなりました…申し訳ございません…。

ブクマ、ご評価、いいね、昨日も本当にありがとうございました!!

とてもとても励みになります…ラストスパートに向けて頑張ります…!


どうか明日もお付き合いいただけますと嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ