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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
【第四章.『最愛』のひと】
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4ー4.受け取ってばかりの、自分

すみません、家のwi-fiと仲良くできず更新遅くなりました…。

原稿書いている途中に更新失敗してデータ飛ばんといてほしい…。


今日もお訪ねくださり、ありがとうございます!

どうか、今日もお楽しみいただけますように。

 無言の朝食が終わった後、「部屋に戻ろうか」とオルクスは一言だけ言って立ち上がり。

 廊下を歩く間、彼は黙ったままだった。

 

 リーベラと距離を取り、一度も触れることはなく。


 人気のない屋敷の中を、足音も吸収されるくらいのふかふかの絨毯を踏み締め、無言で歩く2人の間の沈黙が重い。


(……これは、私が何かやらかしたんだろうな)

 いや、むしろやらかしてばかりだ。先ほどからずっと挙動不審な動きを繰り返しているのは、自分でも自覚している。


――先ほど手を握ってくれた彼の手が、遠い夢のようだ。

 もはや取っ組み合いの喧嘩ですら懐かしい。

 思えばいつも、オルクスから触れてくれる機会は多かった。それに特に何も反応せずあしらえていた自分が、今となっては信じられない。

 そう、いつも暖かい手と、彼の話し声と、彼の笑顔がそばにあって――


(……あれ)

――最後にオルクスに自分から話しかけたのは、いつだったっけ。

 ふと気づいたことに、リーベラの顔からさあと血の気が引く。


 思えば、いつもオルクスから受け取ってばかりだった。

 会話の取っ掛かりも、挨拶も、触れてくれる手も、笑顔も、全部。

 なのに自分は、先ほど何を考えていた。


――オルクスが喋らない、触れてこない、笑わない。

 そんなの、当たり前だ。だって自分は、受け取ってばかりで、何もしていないのだから。

 受け身ばかりで、「してくれない」と思ってばかり。人から与えられるものに甘えてばかりで、自分は何も与えていないのだ。

「怖い」のは、自分の都合だ。自分が傷つきたくないから、怖いからと勝手に殻に閉じこもっていて。

 そんな当たり前のことにすら、こんなことになるまで気づかなかった。

(……最悪だ。そんなの、嫌われるに、愛想を尽かされるに、決まっている)


――どうしよう。ずっとこのまま、こうして気まずくて、話せないまま別れを迎えるのは嫌だ。

 

 何か、何か話さなければ。

 意を決して唾を飲み込み、カラカラに乾いた口を開き。

「……あ、の」

「――リラ」

 見事に、タイミングが被ってしまった。

 自分の間の悪さに絶望しながら、オルクスへ向かって伸ばしかけたリーベラの手が、宙に浮く。


「……」

 オルクスが振り向き、目を見開いた状態で固まっている。リーベラは慌てて、言葉を続けた。

「ご、ごめん。先、どうぞ」

「……いや、君が先に。どうしたの?」

 促され、何も言うことを決めていなかったことに気づき。

 どうしようと、回らない頭を巡らせた結果。


「ええとあの、朝ご飯、ご馳走さま。美味しかった」

 たぶん、もっと他に言うことがあった。完全に空回りしている。

 時よ戻れと無理なことを思いながら遠い目をしていると、視界にオルクスの足が近づいてくるのが見えた。


「……夕食、僕と一緒でも大丈夫?」

「……?」

 いつも一緒に食べている気がするけれど、改めてどうしたのだろう。

 オルクスの顔を思わず見上げると、思ったよりも近くに彼が来ていて。

 そして、彼の目には不可思議な波が揺れていた。そろりと顔の横にある気配に目を落とせば、リーベラの顔のすぐ横で、オルクスの指がぴたりと止まっていて。


「……駄目そう?」低く落ちた言葉に、リーベラはぶんぶんと慌てて首を振った。そんなわけが、ない。

「ううん、食べたい」

「……よかった」

 ふ、と微笑みの気配と共に、頬に触れるか触れないくらいの柔らかさで、オルクスの手の人差し指が触れた。


――ああ、よかった。話して、くれた。

 ほっとしつつ、胸が今更波打った。動悸が収まらず、先ほどオルクスの指が触れた頬をそっと抑える。

 切なくて甘い、感触だった。


「……じゃあ、リラ。申し訳ないけど、今日はここにいて」

「……うん。ありがとう」

 リーベラの部屋を開けてくれながらオルクスが言った言葉に頷き、リーベラは慌てて言葉を続ける。

「あ、あの」

「ん?」

 優しい「ん?」の声に後押しされるように、リーベラは畳み掛ける。

「行って、らっしゃい。仕事」

 オルクスが息を呑んだ音がして、また何か変だったろうかとリーベラが悩み始めた時。


「……ん。行ってきます。出来るだけ早く、帰ってくる」

 そう言って、オルクスがゆっくりと扉を閉めた。


◇◇◇◇◇

――ああ。さっき、勇気を出して、良かった。

 挨拶が返ってくること、オルクスが笑ってくれること、言葉を交わしてくれること。

 その些細な一つ一つが切なくて愛しくて、嬉しくて。


 いつか別れがやってくるなら、もうすぐ会えなくなるなら、せめて。

 こうしたやりとりの愛しさを目いっぱい抱えて、心のポケットを一杯にして。

 

 そうして後から取り出して眺めて、いつでも思い返せるように、したい。

 

 祈るような気持ちで、そう思いながら。リーベラは窓の外の青空を見上げる。


(うん、同じ空の下で、オルクスが幸せなら、無事なら、笑顔なら、それでいい)

――彼の笑顔が見られないことが、話せないことが、たった一瞬でもこんなに辛いとは。

 彼が塞いでいると自分も辛い。笑顔がないのも辛い。彼には、幸せでいてほしかった。


――例え彼の隣に立つのが、別の女性でも。彼が幸せに、なるのなら。

(……でも、やっぱり、辛い。それにさっきの「話さなきゃいけないこと」って、なんだろう。聞きたく、ないな)

 この例えようのない胸の痛みと切なさは何なのだろうと改めて混乱しつつ、リーベラがぼんやり考えていた時だった。


「師匠、ぼんやり黄昏(たそが)れてどうしたんですか。まだ朝ですよ」

「……アドニス……!?」

 突然部屋の中に姿を現した弟子の姿を見て、リーベラは驚愕の声を上げた。


「お、お前、どうやって。この部屋、魔法がかかって……」

「師匠、俺のこと舐めすぎじゃないですか? ――この国に俺が入れないところはないんですよ」

 そう言って、リーベラとよく似た髪色と目の色の弟子は、にっこりと不敵に笑った。

文が何回か飛びました…許さんwi-fiの不調。。


ブクマ、ご評価、いいね、本当に本当にありがとうございます……っ!

みなさんのお口に合いますように、日々祈りつつ書いております…。

明日は20時更新目指します。どうか明日もお付き合いいただけますと嬉しいです!

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