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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
【第三章.オルクスの屋敷と、弟子と同じ顔の男】
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3-6.エルメスとオルクスの邂逅

本日も遅くなってしまって申し訳ございません……!!

オルクスとエルメスの冷戦です。

どうかお楽しみいただけますように、祈っております。

 オルクスが姿を現した瞬間、エルメスは苦々しげな顔をした。いますぐにでも「げ」という声が出そうな顔だ。


「……ようこそいらっしゃいました、オルクス・ラ・オルレリアン公爵殿。この前ぶりですね」

 言葉は丁寧だが、その口調はぶっきらぼう極まりない。

「うん、その節はどうも」

 一方のオルクスも、にこにことしているのにその目は一切笑っていない。

(……なんだろう、この悪い空気)

 リーベラはどことなく気まずい心地で、突然出現したオルクスの袖を引いた。


「ん? どうしたの」

 途端にぐりんとオルクスがリーベラに視線を向ける。その素早さにリーベラは目を見開いたものの、戸惑いながら背伸びをして、オルクスにひそひそと囁いた。

「……お前、エルメスと会ってたのか」

「うん。この前君に店をさせないために、彼へ依頼したのは僕だから」

 リーベラは硬直し、目を見開いた。

――まさか、オルクスが直接出向いていたとは。しかもエルメスと面識があったとは。誰か他の人間に代理依頼をさせたと思っていた。

 道理で、リーベラの企みに気付くのが早かったわけだ。


「僕が君に関することで、他の人間に代理をさせるわけないでしょう?」

 リーベラの頭の中を読み取ったかのように、オルクスが穏やかに言う。そしてリーベラの髪に指を絡めながら、そっと囁いた。


「――ごめんね、嫌いになった? 僕のこと」

「……この前からずっとそれだな。ならないって言ってるだろ」

 リーベラがため息をつきながら言うと、オルクスはほっと息をついて肩を落とした。


「それより。さっき、まずは外で待ってるって、言ってなかったか……?」

「ああ、うん。最初は静観するつもりだったんだけど、やっぱり無理だった。ごめんね?」

 今度は全くごめんと思っていなさそうな、にこやかな笑顔でリーベラの方向に屈み込みつつ、オルクスがそうのたまう。

 そして彼は「あ」と言いながらリーベラのコートに手をかけた。


「暑いだろ、もうコート脱いでいいよ」

 オルクスがリーベラの頭にかかっていたフードをばさりと下ろす。そしてリーベラが止める間もなく、その銀髪をかきあげながらコートの外に出し、もう片方の手でコートのボタンを外し始めた。

「いや、それくらい自分でできるから」

「どんな子供扱いだ」と慌てて静止すると、オルクスはリーベラの首元から持ち上げていた髪をパサリと元に戻し、コートから手を離した。


「残念。もう少し、見せ付けてもよかったんだけど」

「……は?」

 まあいいや、と肩をすくめるオルクスにリーベラが怪訝な目を向けていると、二人の前から壮絶なほど、抉るような視線がこちらに飛んできた。


「……おい、そこの兄さん。ちょっと待て」

 エルメスがオルクスを舐めつけながら、リーベラの手をぐいと引いて自分の背中の後ろに移動させ――そのリーベラのもう片方の手を、オルクスがぱしりと引き留めた。

「おかしいな、君の兄になった記憶はないんだけど。あと、その手を離してくれないか」

「単なる呼び方だよ、呼び方。悪いけど、俺は尊敬しない人間には敬語は使わねえ。それにあんたこそ、その手離すべきだろ」

――二人の間に、電撃のような何かが駆け抜けている。


「まさか『高嶺の公爵騎士』様のあんたが、こんな節操なしだと思わなかったぜ。見損なった」

「君に見損なわれても、僕にはあんまり打撃がなくてね」

「んだと、今度から情報回してやらねえぞ」

 この雰囲気は何なのだと思いつつリーベラがべしりと二人の手をはたき落すと、彼らは言い合いをぴたりと止めてこちらを見た。


「あの、私から事情を説明させていただいても?」

 リーベラはオルクスの足をぎゅうと踏みながら彼をじろりと見上げる。これでは話が進まないし、エルメスに妙につっかかるのはやめていただきたい。

「ああごめん、君を怒らせるつもりはなかったんだ。……いいよ、話をしておいで」

 オルクスが笑顔で両手を軽く上に挙げる。その横で、エルメスはリーベラの肩をつついて囁いてきた。


「この兄さん、やばいな。リビお前、本当に大丈夫か?」

「うん、あんまり大丈夫じゃないかもしれない……」

 リーベラは遠い目をしてエルメスに応える。「だよなぁ」とエルメスは片手を額に当て、やれやれと頭を振った。

「んで? 察するに、兄さんに全部バレたんだろ。お前の薬の話」

「すみません……仰る通りで……」

 どうやら説明するまでもなく、エルメスには全部分かったらしい。リーベラはこくりと頷いて「ごめんなさい」と頭を下げた。


「あん? 何でお前が謝るんだ」

「いや、こっちから無理矢理頼んでおいて、全部バレて迷惑かけることになったから……」

 オルクスまでこうして乗り込んできてしまったし。先ほどから彼からの視線が鋭く突き刺さってきているのは分かっているけれど、それは今どうでもよかった。

――善意で自分を救ってくれた人を巻き込んで、あまつさえ迷惑をかけてしまった。

 それがじりじりと、自分の胸に暗く落ちていく。


「……あのなぁ、リビ」

 ため息と共に、リーベラの肩にぽんと暖かい手が載る。恐る恐る顔を上げると、エルメスは真剣な目でリーベラの目を覗き込んだ。

「俺が、俺の意志で考えて、お前に協力するって言ったんだ。俺の意志にケチつけんなよ」

「え……」

 どういうことだろうと目を見開くと、エルメスは微笑んでわしわしとリーベラの頭を撫でた。


「気にすんなってことだ。悪いのはあの独占欲の権化だしな……ったく、会うたびに新しいとこに痣つけてくんのな、お前」

「ど、独占欲の権化…….? 痣?」

「おうよ。今度は首ときた」

「……首?」

 首に痣がつくようなことなど、した記憶がないのだけど。エルメスの発する謎のワードに目を白黒させていると、背後からリーベラの肩に手が回され、ぐいと後ろに後退させられた。


「はい、そこまで」

 オルクスの冷たい声が、頭上から聞こえる。ぎゅうと肩に回された手に力が込められ、リーベラは戸惑いながら彼を見上げた。


(――なんか、すごい怒ってないか……?)

 何か彼の地雷を踏んでしまったのかもしれないが、それが何だか分からない。何か言おうと、リーベラが口を開きかけたその時だった。


「――見つけた。オルクス様、何やってるんですか……?」

 低い声が聞こえ、その声の主がゆらりと現れる。リーベラはその人物を見て、目を見開いた。

「……フローラ、さん」

 第二騎士団の騎士服姿のフローラが、ものすごい形相でそこに立っていた。

ブクマも「いいね」も、本当にありがとうございます!! 続きを書く活力になります…っ!!

明日も21時ごろ更新を目指して頑張ります。

お付き合いいただけますと嬉しいです!

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