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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
【第三章.オルクスの屋敷と、弟子と同じ顔の男】
39/88

3ー5.リーベラの願いとオルクスのとぼけ

遅くなりまして本当に申し訳ございません……。

オルクスの行動に悩みながら改稿していたら遅くなりました…

ぼやかしてますしリーベラは経験が少なさすぎて分かってませんが、オルクスが若干暴走してます。

どうか、お楽しみいただけますように。

 一瞬、部屋の中に沈黙が降りた。

 リーベラがじっとその沈黙に耐えていると、不意にオルクスが口元を押さえて、そっぽを向く。

「オルクス?」

 呼びかけても、返答がない。

 これは要望も聞いてもらえないか、とリーベラはひっそりため息をついた。

 他の方法を考えないと――そうぼんやりと思考を巡らせていると、オルクスから「分かった、分かったよ」との返答がきて。


「……いいのか」

 リーベラが目を見張ると、オルクスはやっとこちらに顔を向け、いつもの笑顔を浮かべて頷いた。

「その代わり、条件がある」

「……条件?」

 オルクスの笑顔に嫌な予感を覚え、リーベラは思わず後退りした。


◇◇◇◇◇

「――という、訳なんだ」

 数十分後。リーベラは客間のソファーに座りながらオルクスにこれまでの事態を説明し、息を吐いた。

 エルメスが情報屋であることに気づき、薬の買い取りを直接交渉しに行ったこと。そこにフローラを巻き込んでしまったこと。

 それから、この前あった本泥棒のこと。

 ただし、全ての行動の理由は「今後の資金源が欲しかった」に止め、オルクスの婚約話を聞いた云々については全部伏せた。

 その部分は本筋に、関係がない。


「……うん、なるほどね。それで本当に全部?」

「ああ」

 リーベラが頷くと、オルクスはじとりとした目を向けてきた。

「本当に?」

「本当に」

 これ以上、何を話せと。自分の口からオルクスの婚約話云々はしたくなくて、リーベラはきっぱりと首を縦に振った。

 しばらくまた続く、無言の間。オルクスからのじりじりとした視線に耐えながらリーベラが下を向いていると、ため息が目の前のソファーに座った彼から聞こえてきた。


「まあいいや、これから『彼』に聞けばいいことだし」

「あんまりエルメスを怖がらせないでやってくれよ……全部私から頼んで、無理を聞いてもらったんだから。というか、別にわざわざ一緒に来なくても」


――フローラとエルメスに会って、家に数十分寄りたいというリーベラの願いを叶えるためにオルクスが出した条件は、「その全外出にオルクスも同行すること」だった。

 正直リーベラとしては、とても困る条件だった。自由が全くない。

 なぜこの男は、ここまでリーベラが一人で動くことに反対するのか。全く意図が読めず、リーベラは困惑していた。


「そもそもお前、今日の仕事はなんで休んだんだ」

「うん、ここが正念場だからね」

 答えになっていない回答が返ってきた。どうやらまともに答える気がないらしい。先ほど嘆いていたデルトスが気の毒になってきた、とリーベラは遠い目をした。


「――じゃあリラ、そろそろ行こうか。はい、このコート着て」

 そう言いながら、オルクスがグレーのフード付きのローブコートをリーベラに投げて寄越す。外出するということで、ベビーブルーのブラウスとブラックのスカートという出立ちに着替えていたリーベラは、それを受け取って首を傾げた。

「コートの必要性あるか……?」

 気候は割と暖かく、さしてコートの必要性は感じない。リーベラが疑問を呈すと、「あんまり周りに見せたくないから」という答えが返ってきた。


「そんなに私といるのを見られたくないのだったら、なぜついてくるんだ」とは思ったものの。世話になっている身であまり文句も言えず、リーベラは言葉を飲み込んだ。


「……分かった」座りながらコートを広げ、着るために留まっていたボタンを開けていると、リーベラの隣にオルクスが座る気配がして、リーベラは身を縮こめた。

――なぜ、今そこに座る。

 疑問に思いつつもそのまま髪を上げつつコートを着ようとしていると、「ちょっと待って」とオルクスから腕に手を置かれ。


「……何?」

「首元に汚れついてる。取るから、ちょっとそのまま座ってて」

「どこ? 自分で取る」

「いいから、少しじっとして」

 にべもなくブラウスの襟をぐいと引かれ、リーベラは渋々彼に従った。オルクスは一度言い出したら、あまり聞かないのだ。

 襟を引かれながらもその場にじっとしていると、ふとオルクスが身を屈めてきて、彼の髪が頬に少しかかってきた。汚れをよく見るためだろうか、なんて呑気にリーベラは思っていたものの。


「……!?」

 次の瞬間、オルクスの手で目を覆われ、リーベラは硬直する。彼の手は片手でも大きく、やすやすとリーベラの両目の視界を奪った。

 と同時に、右の首筋に何か暖かいものが触れる気配がした。指で触れているにしては面積の大きい、少し湿った気配にリーベラは硬直しつつ内心首を捻る。


 何の感触か分からない上に、そこから与えられる圧力はますます増してくる。むず痒く這うようなその感触は、リーベラの今までの人生にも身に覚えはなく。

(なんか、すごく逃げたい……)

 リーベラがオルクスの手から逃れるべく立ち上がろうとすると、その力はますます強くなった。痛覚がないので痛みは感じないけれど、つままれたような強い力は感じる。


「オルクス!」

 耐えきれなくなったリーベラは、彼の手を振り払って立ち上がった。そしてそのまま鋭くオルクスを見下ろす。

「ん? 何?」

 見下ろされた当のオルクスは、きょとんとした顔で首を傾げた。

「本当に汚れ取った?」

「うん、そうだけど」

「……何か、変だったんだけど」

 リーベラがぎこちなく言うと、彼はニヤリと片方の口角を吊り上げて笑った。

「変? どんなふうに?」

(こいつ、絶対何か企んでたな……)

 確信犯的な笑みに、リーベラはどっと脱力する。なんだか無駄に疲れた。 


「何でもない。もう行っていい?」

「だから、変って何が?」

「……しつこい」

 リーベラが項垂れると、隣でくつくつと忍び笑いをしながらオルクスが立ち上がった。

「ああ、面白かった」

 行くよ、とリーベラの肩を叩き、白いシャツに黒ズボンのオルクスがすたすたと歩き始める。なんだか腹立たしい気持ちを抑えつつ、リーベラはため息をついてコートを羽織り、その後を追った。


◇◇◇◇◇

「じゃ、リラ。ちゃんと説明してきてね。ここでまずは待ってるから」

 古書店『グラフィオ』の前で、オルクスがコートのフードを被らせたリーベラに念を押す。

「……分かってる。途中で来るなよ、怖いから」

「大丈夫、そんな怖くしないよ」

 からからと笑いながらオルクスは言うが、その目は笑っておらず全く信用できない。出来るだけ穏便に済ませよう、とリーベラは古書店の中へ歩を進めた。


「……リビ!」

 店の奥へ歩くと、リーベラの姿を認めたエルメスがレジの後ろで立ち上がった。なんだか焦った表情を浮かべ、彼はつかつかとリーベラの元へ歩いてくる。

「ごめん、エルメス。ちょっと事態が変わっちゃって……」

「聞いたぞ。リビお前、大丈夫かよ」

 リーベラが説明しようと切り出した言葉を遮り、エルメスが眉根を寄せて彼女に詰め寄った。


「大丈夫、って?」

「いやお前な、まさか知らないのか? お前……」

 エルメスが何かを言いかけたそばから、強い視線がリーベラの方に突き刺さる。その視線の色に覚えがあったリーベラは、背筋を凍らせた。

 コツコツと靴音を響かせながら、その視線の持ち主がその場に現れる。


「――やあ、エルメス・フィールド殿。おはよう」

 目の笑わない笑みのオルクスが、ふらりとリーベラとエルメスの間に割り込んだ。

オルクスくんの暴走が激しく、調整するために改稿していたら遅くなってしまいました。本当に申し訳ございません…


皆様のお好みに合うか戦々恐々としておりますが、明日も21時更新目指して頑張ります。

よろしければ、お付き合いいただけますと大変嬉しいです!

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