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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
【第二章.魔女と古本屋の息子、そしてオルクスの嫉妬】
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2-14.餅は餅屋、情報屋は情報屋

今日も遅くなってしまい、申し訳ございません…。

情報屋・エルメスくんの回です。伏線回でもあります。

どうか、少しでも楽しんでいただけますように…!

「もう、探したわよ! 無事!?」

 リーベラの元へ素早く駆け寄り、フローラがリーベラの肩を揺する。リーベラは彼女の剣幕に、その場に立ち尽くした。

「あの、フローラ様、なぜこんなに早く」

 化粧室には鍵をかけたはずだし、いくらか時間がかかっても「あら時間かかったわね」くらいで済ませられると思っていた。まだ数分しか経っていないのに、駆けつけてくるのが早すぎる。

「いえ、あなた脱走癖があるって聞いたから……」

 フローラの返しに、リーベラは内心頭を抱えた。

――おのれ、オルクス。というか人を脱獄犯みたいに言うな。


「……ねえ、リビティーナさん。その手のナイフと薬は何かしら……? まさか、また自分の身体で効き目試そうとしたんじゃないわよね……?」

 フローラがわなわなと口を震わせながら、リーベラの手元を指さす。呆けていて仕舞うのを忘れていた、とさっとポケットに滑り込ませたが、時すでに遅し。

「おう。さっき見せてきたぜ、凄い効き目の塗り薬だった」

 さらりと会話に加わってくるエルメスを、フローラがぎろりと睨んだ。


「あんたは黙ってなさい、今朝の失礼男。ていうか黙って見てんじゃないのよ止めなさいよ!」

「動きが早すぎて止める間もなかったんだよ! ていうか他にも問題あるだろ、よく見ろ! 左手首の痣!」

 二人がぐるりと揃ってリーベラの方を向く。リーベラは手を後ろに組んでじりりと後ずさった。

「左手首の痣……?」フローラの声が、ふと低くなる。

「あの子の手首にがっつりついてるんだよ。ありゃ男の力だな、間違いねえ」

「……あんたじゃないでしょうね?」

「天に誓って言うが、俺はしてない」

 そんな会話の応酬をしている2人を前に、リーベラはそろりそろりと後ろ足で店の出口に向かう。これは厄介な展開になった。

 よし、とりあえず逃げよう。そう走り出そうとした瞬間、フローラがすかさずリーベラの左手を掴んだ。


「リビティーナさん、ちょっと失礼」

 そう言いながら、彼女はリーベラの左腕を見る。痣の跡は手首のやや下部分で、一度服をめくると、手袋をしていても見えてしまう位置にあった。

「ねえ、これ、ひょっとして」

 フローラからの質問に、リーベラは瞬間、考える。

 こんなに騒ぎになると思っていなかった。だってこれはただの内出血だ。血が流れ続けるわけでもないから治療するのも面倒くさくて放っておいてしまったけれど、傍から見れば問題らしい。

 とりあえず、ごまかそう――そう判断して、リーベラは口を開く。

「自分で寝ぼけてやってしまいました」 

「んなわけないでしょうが!」

 リーベラの言葉に、フローラが喰い気味に噛みつく。リーベラがびくりと肩を震わせる前で、フローラは「これ、オルクス様ね。行動範囲的にそれしかないもの」と呟いた。

 そしてリーベラが止める間もなく、「信じらんない……」と片手を額に当てて俯きながら、ふらりとよろめく。


「あんのバカ鬼上官……重いだろうとは思ってたけど、これは予想以上だわ……」

「あ、あの、フローラ様」

 茫然としているフローラに、リーベラは慌てて口を挟む。これ以上はまずい。というか、もうすでにだいぶまずい。

 黙ったままのエルメスをちらりと見ると、そんなリーベラの懸念を裏付けるように、彼は片方の口角をニヤリと吊り上げた。

「は、はーん。良いこと聞いちゃった。ありがとな、フローラ・ヴィ・シュナイダー様」

「な……何よ。ていうか、何で私の名前」

 気味悪そうに、フローラが青年から後ずさる。彼女から目線で疑問符を飛ばされて、リーベラはふるふると頭を振った。リーベラは彼女の身元に関しては一切喋っていない。


「お嬢様、口は災いの元って知ってるか? これからは側にいるのがどこの誰かを確認してから、喋った方がいいぜ。どこに地獄耳が潜んでるか分からんしな」

「……なんの話?」

 リーベラの前に進み出て戦闘態勢をすぐ取れるよう構えながら、フローラが眉根を寄せた。そんな彼女の前で、エルメスは不敵に笑いながら優雅な仕草で一礼した。


「申し遅れました、私は王城公認の情報屋、エルメス・フィールドと申します。――第二騎士団の若手のあんたにゃまだ王城で会う機会はないだろうが、第二騎士団のお偉方とは、よく連携取ってるよ」

「な……」

 フローラの顔色が、さっと変わった。

「オルクス様って、あんたの上官の筆頭騎士様だろ。そのお方がその子の腕に痣を作った本人てことで、それをバラした奴があんたってわかったらピンチだよなぁ? ほれ、口止め料」

 ほれほれ、とにこやかな笑みを浮かべながらエルメスがフローラの前に手を出す。唖然とするフローラの横で、リーベラはそっと肩を落とした。


 そう、エルメスは王城公認の情報屋だ。それにリーベラが気づいたのは、オルクスに嵌められたと気づいた時とほぼ同時だった。

 まず、リーベラの身元についてオルクスがむやみに情報を民間人へ流すことはほぼあり得ない。その辺の情報管理への徹底した姿勢は、リーベラも信頼している。

 とすれば、こうした裏からの妨害には情報管理の徹底している情報屋――それもオルクスが信頼できる、王城公認の情報屋を使うはずだと思った。

 餅は餅屋。情報屋は、情報に価値を見出し、情報を管理する。

 そして彼らは、王城関係者からの依頼に基づいて裏で動くこともある職業なのだ。

 もし、リーベラが今朝、店を止めると言い出さなかったら。店に客が来ないよう、風評操作もするつもりだったのだろうとリーベラは踏んでいた。


 そして過去関わったことのある、情報屋について片っ端から調べようと書斎にこもり――書類を探してあちこちかき回す中で、リーベラは例の付箋を見つけたのだった。

 王城公認の情報屋は数少ない。こうした偶然が重なるのも、無理もなかった。

 オルクスも、さすがにここまでリーベラが動くとは思っていなかったのだろう。


「どうもきな臭いと思ってたんだよ。たまーにお偉いさんから『お店ごっこをやりたがる貴族の子女さまがいるから、やんわり諦めさせてほしい』とか、似たような依頼は来たりするんだけどな。行ったらまさかの見習い騎士様がそのターゲットと一緒にいるもんで、びっくりしたぜ俺は。――で」

 エルメスが片眉を上げながら、リーベラに向けて皮肉な笑みを浮かべる。


「リビティーナさんとやらは、オルクス様から逃げる資金を集めたいから、ここに来たわけだな? なるほどなるほど、銀髪の子が筆頭騎士様と一緒に居たって情報もあったが、あんたのことか」

 リーベラはため息をついた。さすが情報屋だ、情報把握とつなぎ合わせが早い。話が早いのは助かるが、そうフローラの前ではっきり言葉にされると、もう退路がなかった。


「……いえ、いいです。その代わり、私が持っている薬はすべて渡します。口止め料も言い値で払いますので、ここに私が来て言ったことはすべて、黙っておいていただけますか」

 情報屋の価値は、情報とお金。黙っていてほしければ、相当の額を払えば良い。

「……あんた」じわりと目を見開くエルメスに、リーベラは畳みかけた。

「それでも足りないようならこれを。私が所持している、全書物のリストです。貴方の表の稼業でお金になる、珍しいものばかりかと」

 そもそもこうした状況になったのも、痣を放置して、フローラを侮っていた自分の責任だ。

 ――振り出しに、戻ったな。

 そう考えてリーベラが遠い目をしていた、その時だった。


「……あんたなあ。冗談だよ、俺もそこまで鬼じゃねえ」

 がしがしと頭をかいて、エルメスが深いため息を吐きながらリーベラの真正面に立った。

「何でもかんでも自分で解決しようとしなさんな、お嬢さん。……手伝ってやるからよ」

「……はい?」

 思いがけない展開に、リーベラは思わず目を丸くした。

ブクマ・ご評価、本当にありがとうございます!! 日々自転車操業マラソン執筆の身に、皆様の優しさが沁みます…!! 感謝の気持ちでいっぱいです。

最近遅くなってしまっていますが、明日も21時あたりを更新目指して頑張ります…!(オルクスがそろそろ出てきます…よく出る男ですね…)

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