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【本編完結済】恋を忘れた『破滅の魔女』へ  作者: 伊瀬千尋
【第二章.魔女と古本屋の息子、そしてオルクスの嫉妬】
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2-1.破滅の魔女みたいね

すみません、昨日は「19時ごろ」と言っていたのですが、所用がありまして時間前倒しでの投稿となりました。。

『破滅の魔女』、リーベラ。

 自身もあずかり知らぬうちに、感情と痛覚を奪われた魔女。

『大切な者』を護るため、王国の盾となった魔女。

 人々は感情の見えない魔女に訝り、その力に畏怖し、近寄らなくなった。

 唯一の友との仲も、拗れてしまった。


 ――感情を伴うことのできない記憶は、薄れるのが早く、覚えていることも難しい。

 昔のことも、霧の向こうの記憶になった。

 だから彼女は、まだ知らない。

 ――人から人への『想い』だけは、『代償』などと考えず、自由にやりとりして良いことを。


◇◇◇◇◇

「それにしても、『破滅の魔女』の家ってこんな感じだったのね」

 オルクスとデルトスが騎士団の仕事に向かった後、リーベラは客間でフローラと共に朝食を取っていた。

 木製のローテーブルの上には、ティーローフとクランペットに氷の入った紅茶のグラス、そしてバターとマーマレード。


「すごく、落ち着く部屋。居心地が良いわ」

「あ、あり……」

 ありがとうございますと言いかけて、リーベラは慌てて口をつぐんだ。

 今の自分は、オルクスが遠征先で見つけて保護してきたという『微々たる魔力持ち』の少女、リビティーナという設定らしい。お礼を言うのはおかしくなってしまう。


「あら、このティーローフとっても美味しい! レーズンに紅茶がたっぷり染み込んでるし、味も深くて最高。あなた、料理上手いのね」

 早速、切り分けられたティーローフの一片にバターを塗って頬張ったフローラが目を輝かせる。

「恐縮です」リーベラはぺこりと頭を下げた。


 紅茶に浸したレーズンをたっぷり使ったパンのような焼き菓子、ティーローフ。紅茶を好んで飲むリーベラがよく作るものだ。

「ふむ、所作も言葉遣いも完璧、料理も上手……申し分ないわね……なるほどね」

「……?」

 ぶつぶつと何かを呟いているフローラを前に、リーベラはどう声をかけてよいのか分からず、黙って冷たいアールグレイを喉に流し込む。

 

「リビティーナさん、私、俄然やる気が出てきたわ! 私も応援する!」

「お、応援」

 何の? と思いつつ、リーベラは思い当たることがあって口を開く。

「あの、さっきオルクス……様からお伺いしたんですけど、さすがに伯爵家の方に店を手伝ってもらうのは、恐れ多すぎて」

 ――彼女は、今日から君の薬草屋を手伝ってくれる人だよ。

 オルクスが書いた指示書きにもあったけれど。デルトスたちはれっきとした貴族であり、彼女はつまりご令嬢。身分もない魔女なんぞの手伝いで店に一緒に立つような身分ではない。


「何言ってるの! 私のことは実の姉だと思って頼ってちょうだい」

「え、あの」本当の年齢は26歳、目の前の彼女より7つも年上のリーベラは、身体だけ自分より年上の可愛らしい女の子への対応に困って目を白黒させた。


「……って言うだけだと、あなた、すっごく遠慮深そうだから納得しないか。……そうね、本当のことを言うと、これは私の仕事の一環でもあるのよ。

 だから実りのないお茶会なんかよりも、こっちの方がよっぽど有意義なの。ていうかお茶会よりもずっと確かで実りのありすぎる最先端の情報に触れられるのは確実だし、私があなたのお手伝いをしたいのよ! 何なら頼み込むわ! こんな一生に一度の機会、見逃せるもんですか!」

 最後の方は早口になっていて、リーベラにも聞き取れない。リーベラがたじろいでいると、彼女はにっこりと最後のダメ押しの言葉を放った。


「最後にもう一つ。あなたが言うことを聞いてくれないと、私も兄も、オルクス様から怒られるのが決定してるのよ。いやめっちゃ怖……だから、ごめんなさいね」

 完全なる決定打。自分のせいで、彼女たちがオルクスから怒られるのは避けたいリーベラは、「す、すみません……」と頭を垂れた。


「てことで、はい決定。ふふ、こんな特等席で素敵なことがじっくり拝めるなんて、最高すぎ」

 そう謎にうっとりしていたフローラは、ふとリーベラの服を見て首を傾げた。

「あら? そのブラウス、襟が。ちょっとごめんなさい」

 断ってから彼女は俊敏に立ち上がり、リーベラの背後に駆け寄った。そして、ひゅっと息を呑む。


「あ、あなた、ちょっと待って。この傷一体、どうしたの!?」

「?」

 何のことやら分からず首を傾げるリーベラに、うろたえるフローラの顔がさらに青ざめる。

「ごめんなさい、襟を直したときに見えちゃったんだけど……あなた、背中一面傷だらけよ。こんな傷、騎士の人たちにも見たことないわ……」

「ああ、傷ですか」

 リーベラは自分の後ろの首筋を撫でる。自分の身体の正面は薬が塗れるけれど、背中はどうもうまく塗り切れない。塗り残しで、治癒しきれていない傷があったのだろう。

 リーベラの痛覚は、筆頭魔女となったあたりから、いつしか正常に作動しなくなった。


「ちょうどよかったです。後で薬を作る時、効果を試せます」

「試せるって、あなた」

 フローラの顔が、痛みをこらえるように歪んだ。そして、彼女はぽつりと呟く。

「……あなた、『破滅の魔女』みたいね」と。

話の区切り的に、明日は朝8時・夜20時の2回ほど、投稿するつもりです!どうぞよろしくお願いいたします……!

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