1-13.リーベラと国王
すみません、通信障害でデータがぶっ飛び、書き直していたら更新遅くなりました。。。楽しんでいただけると幸いです!
そしてさらに申し訳ございませんが、データがぶっ飛んだのと本業の繁忙により、明日から毎日1話ずつ更新させていただきます、、!
「――で、君は何で昨日と同じ服なの?」
状況についていけないリーベラの肩をポンと叩き、オルクスは無言で口の形だけを変えた。
<手を出して>
読唇術だ。リーベラが頷いて手を差し出すと、彼は無言のまま、彼女に折り畳んだ紙を握らせた。
「ほら、お客さまが来たんだから着替えて着替えて」
そのままオルクスにぐいぐいと背中を押され、リーベラは顔を少し顰めつつもその動きに従った。
「昨日買った服は?」
「上に……」
「そう、じゃあすぐ着替えてまた降りておいで」
「分かった」
オルクスの指示に頷き、リーベラは素早く階段を駆け上がる。下から「待たせてごめんね、ちょっと待ってて」と柔らかく言うオルクスの声が聞こえてきた。
寝室に戻り、パタンと扉を後ろ手で閉める。先ほど渡された紙を開いてみれば、リーベラの予想通り、そこには指示が書かれていた。昔からオルクスはなんだかんだ抜かりない。
が。
『1分で読んで頭に叩き込め』
「……」最初の一文から喧嘩を売られていた。
折り畳んであったため最初は分からなかったが、手紙は合計3枚あり、過去に見た覚えのあるオルクスの流麗な筆致でぎっしりと今後の指示と詳細が書いてあった。
速読の訓練を受けているリーベラでも、これを1分で読んで尚且つ頭に入れるのは無理だ。はっきり言って鬼畜の所業。せめて3分はほしい。
仕方がないので片目で紙を読みつつ片手で手を動かし、昨日オルクスから買い取った服の箱を開ける。同時並行作戦である。
今後リーベラの素性を隠すための、彼女の生い立ち設定、言葉遣い、気をつけるべき点。薬草店を開くための物件の住所に、普段モノを買いに行く時の店までずらずらと指示が書いてある手紙に目を通しながら「こいつ、いつ諸々手配してこれを書いたんだ」とリーベラは思った。仕事が早すぎて怖い。
というか、確か昨日オルクスからは突き放されたと思っていたのだけれど。
(ここまで、まさかしてくれるとは)
リーベラは冷や汗をかく。借りを返すのに、一体どれだけ時間がかかることか。
ひとまず服の決め方もよく分からないので、昨日渡された箱の中から適当に深いワインレッドのシンプルなワンピースに白いシャツを組み合わせ、黒いショートブーツを履き。
指示書から極力目を離さずに着替え終わり、再び紙に集中しながら、リーベラはぼんやりと思った。
(結局、世話になってしまっている)
――少しは、地に足つけて生きてみたら?
昨日オルクスから言われた言葉が、頭の中に蘇る。
正論だ。彼の言葉はぐうの音も出ないくらい、正論だった。
謎に意地を張ってしまったけれど、冷静になってみれば、リーベラは一人きりでは何もできない。姿は少女、魔力はほぼ空、ほかに取り柄というモノもなし。その上血縁も友人も、いないのだ。
周りを顧みず、ただ自分の力でなんとか出来ると驕っていた今までの自分のせいで、ツケが回ってきている。
(……こう言う気持ちを、なんと言うのだろう)
もはや前のことすぎて、はっきりといつからなのかは分からなくなってしまったけれど。筆頭魔女として働くうち、自分の感情のコントロールが上手くできなくなっていること、おかしくなっていること、ちぐはぐになっていることは自分自身でも感じていた。
でも、どうしようもなかった。どうすればよいのかも分からなくて。感覚が麻痺したように、日々が、感情が、灰色になっていて。
「……リラ」
ぼうっとしていた頭の中の水面に、声が一石投じられた。
灰色の感覚の中でも、ぼんやりと懐かしく感じる声。リーベラは紙を握ったまま慌てて振り返った。
「1分でって書いたのに、遅いから」
「ごめん。……でも、1分は流石に無理だ」
「ごめんて。怒った?」
「怒ってない」
「そう、そりゃ残念。それはそうと内容覚えたなら、それは回収な。落とすと色々まずいから」
「……ああ。悪かったな、早く戻らないとみんなを待たせてる」
急いで部屋の出口に向かうリーベラの腕を、オルクスが掴んだ。
「リラ、これを嵌めて。手紙にも書いたけど」そう言いながら、ココアブラウンの革手袋が渡される。
リーベラの手の甲に刻まれた、筆頭魔女の印を隠すための手袋だ。
「……ありがとう」
そう言ってリーベラが手袋を掴むと、オルクスは手袋を掴んだ手を離さず、力をさらに込めた。
「――ねえ、リラ。僕に何か言うことがあるんじゃないか?」
「い、言うこと?」リーベラは慌ててそうかと思い、深々と頭を下げる。そうだ、正面切ってきちんとお礼が言えていなかった。
喧嘩ばかりの仲とは言え、こういうことはきちんとしなくては。
「本当に、色々とありがとう。そして迷惑をかけて申し訳ない。借りは必ず、全部返す。ひとまず物件購入費用を……」
「いや、そう言うことじゃなくて」
オルクスが表情の読めない目でリーベラをじっと見つめた。
「昨日の夕方、王から王城に呼び出されてね」
「……なんだと?」
リーベラの顔が強張る。オルクスはリーベラの様子に、訝しげに眉を顰めた。
「やっぱ、何か隠してることない? 僕に」
――『さあ、リーベラ。君が選ぶんだ。
この手を取るか、「彼」が戦場へ赴くか。
両方嫌だと言うのなら、君が代わりに行くといい』
リーベラの脳裏に、蘇る人物が一人。
高貴に煌めく金髪に、王家特有の宝石のような虹彩を持つ深い空色の瞳をした、年若い男。
「……王は、なんて言ったんだ?」
リーベラは革手袋を握りしめたまま、努めて静かにそう言った。
前書きの通り、明日からは1日1話ずつ、20時更新を目標に頑張ります!(データ…バックアップ取っとけばよかった…)
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