第四十一話 〃
マリアとテレパシーで会話が出来るようになった華火は、心からの感謝を口にしていた。
―――マリア、こんなわたしを受け入れてくれてありがとう……。
―――ハナビお嬢様、あなたはとても素敵な方です。だから、ご自分のことを貶めるような言い方などしないでください。
―――うん……。
―――ふふふ。改めまして、私はマリア・テイルと申します。今年二十四歳になります。趣味は筋トレで、好きな人はハナビお嬢様です。
―――わ、わたしは、山田華火って言います。十七歳です。趣味は……、特にないかも……。でも、料理したりするのは好きです。
長いこと一緒に過ごしてきて、今更の自己紹介に華火とマリアは顔を合わせて小さく笑っていた。
ひとしきり笑った後、マリアは表情を改めてから、華火が知りたかった情報を教えてくれたのだ。
―――ハナビお嬢様、この世界は瘴気という脅威にさらされています。
―――うん。ウェインさんから聞いたよ。オニラノツって国が原因で瘴気が迫ってきてるって……。
―――はい。その瘴気対策として、国境沿いに大規模な結界を展開しているのですが、その結界が一部消滅したため、閣下が騎士団を引き連れて問題の場所に向かったのが今の状況です。
ウェインが戻らない理由を知った華火だったが、想像以上に状況が悪いことに驚く。
そんな華火を安心させるように、優しく包み込むように手を握り直したマリアは力強く言うのだ。
―――閣下なら大丈夫ですよ。今のところ、ゾディアス鉱山にいるそうなので。
―――ゾディアス鉱山?
―――はい。師匠の持ち帰った情報……。えっと、庭師のジンのことは分かりますよね?
マリアの「師匠」という言葉に、小さく首を傾げた華火のために、マリアは補足説明をしようとジンのことを口にする。
庭師のジンのことはもちろん知っているので、華火はコクリと首を縦に振った。
―――えっと、改めての説明になるのですが、私は元々王立騎士団で閣下の部下をしていました。一応、副団長補佐次席という職を頂いていました。因みに、閣下が王立騎士団副団長です。それでですね、私の身分は平民なんですけど、幼少期に庭師のジンに剣を教えてもらった事が切っ掛けで、平民ですが騎士になることができたんです。まぁ、そんな感じで、ジンは私の師匠なんですよ。
マリアの話から、なんとなく平民出身で騎士になるのは相当たいへんなのだろうということは伝わってきたものの、物静かで優し気なジンが剣を扱うという姿が想像できない華火は、目を丸くさせてしまっていた。
華火の驚きが伝わっていたマリアは、楽しそうにとんでもないことを華火に伝えてきたのだ。
―――今でこそ、物静かな青年風ですが、当時の師匠はすごかったんですから。口を開けば罵詈雑言が飛び出し、剣の修行をすれば、悪魔だって泣いて許しを請うようなハードを通り越してサイコチックなトレーニングメニューで……。はぁ……。
マリアが感じた苦々しい気持ちが伝わってきた華火は、自分の知るジンとマリアから聞くジンが別人に思えて仕方なかったが、自分だって昔の自分と今の自分は全く違っているのだから、そういうこともあるんだろうとマリアの話を受け入れていたのだ。
マリアは、それてしまった話を元の軌道に戻して続きを説明する。
―――それでですね、二年前にオニラノツ王国が消滅して間もないころ、瘴気がそこまで広がってはいなかった時期に師匠が部下を連れてオニラノツ王国の調査に行ったんです。師匠たちは、ありったけの防護結界服と聖水を持って行きました。ですが、事故が起こったと思われる場所は瘴気の中心で、防護結界服は、機能が低下していったそうです。高濃度の瘴気にさらされたせいで、命は助かったものの、師匠含め、調査に行った者たちは、当時の記憶を失っていました。瘴気の影響は、それだけにはとどまらず、調査用の魔法具も濃い瘴気のせいで、持ち帰った時には中の情報が見られなくなっていたんです。ですが、先日情報の解析が終わり、瘴気をどうにか出来る目途が立ったのです。
そこまで聞いた華火は、ゾディアス鉱山にある何かが瘴気に対抗するために必要になったのだと察したのだ。
テレパシーで繋がっているマリアは、華火の考えを感じてにっこりと微笑んで頷く。
―――はい。流石ハナビお嬢様。ゾディアス鉱山にある空石という鉱石が瘴気からこの世界を救う鍵になると分かったのです。




