第三十五話 〃
目の前に広がる光景に、息をのんだのは瞬きほどの時間だった。
ウェインは、瘴気に当てられた騎士や魔法使いたちの救護の指示と同時に、空石による瘴気の排除を同時に進行していた。
気休めではあるが、回復魔法を使える騎士たちに、瘴気で苦しむ者たちの応急手当の指示をしながら、自ら空石を持って幾度も結界を張りなおす魔法使いたちの元へ向かっていた。
技術主任から、理論上は瘴気の元になっているゴーフェルを空石で吸収することで瘴気はなくなるはずだが、魔素と魔融合した状態のゴーフェルを吸収できるかは、半々といったところだったのだ。
しかし、何もしないよりは少しでも可能性を信じたかったウェインは、先頭になって瘴気に向かっていったのだ。
ただ、華火の内膜は出来つつあったが、外皮の問題は未解決だった。そのため、自分に何かあれば、華火を苦しめる結果になることが頭を過ったが、目の前で苦しむ人たちを見捨てることなどウェインには出来なかった。
華火と離れて十日ほどだった。華火の体のことを考えれば、そろそろ限界だった。
だから、無理でも無茶でも空石でのゴーフェル吸収作戦を成功させる必要がウェインにはあったのだ。
すぐにでも華火の元に駆け付けたい気持ちを必死に殺し、少しでも早くこの状況を打破すべく、ウェインはまっすぐに結果が脆くなっている場所に向かっていたのだった。
ウェインが結界に近寄ると、近くで結界を維持していた魔法使いが慌てて言うのだ。
「シグルド副団長?! だ、駄目です!! そちらは危険です。すぐに引き返してください!!」
表情を青くさせた魔法使いがそうウェインに警告をするが、ウェインは止まらずに力強い言葉で言うのだ。
「大丈夫だ。勝算はある! お前たちは、そのまま結界の維持に努めよ!」
ウェインにそう言われた魔法使いたちは、お互いに頷き合って結界の強度維持に意識を集中させていた。
それを、気配で察したウェインは、すぐに前を見つめて、技術主任の言葉を思い出していた。
技術主任は、ウェインたちに加工が終わった空石を渡すときにこう言ったのだ。
「十分な効果を発揮させるのであれば、空石を点火させた状態で瘴気の中に置くのが一番ですが、そんなことをすれば、点火のために空石に魔力を流している手が瘴気で最悪落ちる可能性があるので、必ず空石を瘴気に向かって、安全な場所から投げるようにしてください。くれぐれも、無茶はなさいませんように」
そう釘を刺されていたウェインだったが、無茶は承知と行動を起こしていた。
ただ、自分の身に何かあればきっと華火が悲しむと思うと、そこまで思い切ったことも出来ず、ぎりぎりを攻めることにしたウェインは、持っていた空石のうちの一つを技術主任の言うとおりに結界の中から瘴気の中に向かって放り投げたのだ。
結果はすぐに出ていた。
放物線を描いてポトリと瘴気の中に落ちた空石は、周囲のゴーフェルを吸収したようで、見る見るうちに灰色になっていき、最終的にドス黒い色になっていた。
それを確認したウェインは、他に持っていた小さめの空石を次々に放り投げる。
そして、左手に持つ空石に魔力を流しつつ、空石に刻まれた魔法式が立ち上がるのを確認したウェインは、放り投げた空石がドス黒くなる前に、結界の外側に空石を持った左手を伸ばしていたのだ。
左手に走る激痛に眉を顰めながら、結界の外側の地面に拳ほどの大きさの空石を突き立てたのだ。
地面に突き刺さった空石は、放り投げた空石とは違った反応を見せたのだ。
色が灰色に濁るのは一緒だったが、そこからが大きく違ったのだ。
透明な空石の中心だけが灰色に濁ったと思ったら、中心でそれが渦を巻くように流動しだしたのだ。
瘴気は決して目には見えないが、空石の周囲の空気が明らかに違ったようにウェインには感じられたのだ。
空石を地面に突き刺した後、すぐに左手を結界内に引っ込めたウェインは、激痛はあったが、手が駄目になるほどではなかったため、脆くなった結界の境界線上に次々と空石を突き刺して行ったのだ。
第一部隊の騎士たちは、最初は技術主任の言う通りに、瘴気に向かって空石を放り投げていたが、ウェインの勇気が必要になるような行動を見て、それに続くようになっていた。
部下たちの無謀とも思える行動を注意をしようとしたが、自分が一番無謀な行動をとったという自覚があったウェインは、部下たちの勇気に心の中で感謝をしたのだった。




