第二十七話
その日一日、そわそわと心ここにあらずといった様子で過ごしていた華火は、ウェインの帰りを今か今かと待っていた。
ウェインが帰ってきたら、改めて自己紹介をして、この世界のことや、何故自分がここに来ることになったのか、いろいろと聞きたいことが山のようにあったのだ。
落ち着きなく、そわそわと窓の外を見つめる華火は、暗くなりつつある外から聞こえてきた馬車の車輪の音に立ち上がっていた。
小走りで玄関ホールに向かうと、ちょうどよくウェインが帰ってきたのだ。
たった半日、それでも華火にはとても待ち遠しい時間だった。
華火はウェインに駆け寄り、自分から抱き着いていた。
「うぇいんさん、おかえりなさい!」
そう言って笑顔を向けると、ウェインも笑顔を華火に返してくれたのだが、少し様子がおかしかった。
何か心配事でもあるのかとじっと見上げていると、ウェインが申し訳なさそうな表情で言うのだ。
『ただいま。食事の後で大切な……、そうか、キス……は、二人っきりになってからだな。ハナビ、すまないがもう少し待っていてくれるか?』
そう言ったウェインは、華火の頬にキスをしてぎゅっと抱きしめる。
頬にキスをされた華火は、心の中で落胆してしまっていた。
(ほっぺた……。はっ! そうよ、みんなが見ている前で、唇にキスなんて! でも……、ほっぺたじゃ、言葉が……。はぁ……。って、何残念がってるのよ! わたしったら、わたしったら~~!!)
全身を赤く染めて、両手で頬を押さえてぶんぶんと頭を振る華火だったが、今は仕方ないと思い直す。
いつものように夕食を食べた後、昨日に引き続きウェインの私室に連れられた華火は、胸がドキドキとして倒れてしまいそうだった。
これからウェインとキスをするのだと考えると、口から心臓が飛び出してしまいそうだった。
ウェインは、自分の膝の上に華火を座らせた後、ぎゅっとその細い体を抱きしめていた。
頬、こめかみ、瞼、と触れるだけのキスをしてから、華火の瞳を紫の瞳でじっと見つめるのだ。
熱の籠る瞳に心臓を射抜かれたような、そんな気がした華火は、恥ずかしくて仕方なかったが、視線を逸らすことができなかった。
ウェインと見つめ合っていると、彼が小さく言葉を発した。
『好きだよ。俺のハナビ(オヤディクス。ハナビオネロ)』
その言葉を聞いた華火は、昨日ことを思い出しぼっと全身を熱くさせていた。
(確か……。イクスが好き……。オヤディクス……。好きだかな? ハナビオネロは…………、ぅ~~~、つまり、「好きだ。俺の華火」ってウェインさんが言ってる!! 夢じゃなかった! ウェインさんとわたし、両想いなんだ!! う、嬉しい! すごくすごく嬉しい!!)
ウェインからの恋情を知った華火は、嬉しくてこのまま心臓が爆発してしまいそうだと、縋るような思いで、ウェインのシャツを握っていた。
そんな、華火の手を握ったウェインは、優しさと甘やかさが混ざり合ったような笑みを浮かべてから、華火の唇に触れていた。
触れるだけのキスから、次第に激しいキスへ。
ウェインから感じる恋情に溺れてしまわないように、必死にシャツを握りしめる華火。
長い長いキスから華火が解放された時、再びウェインの声が聞こえてきたのだ。
「イアナムス。エツキアワカグハナビ、アッタカナキカゲアソ……」
年上のウェインが恥ずかしそうにそう言う姿が、可愛いと思ってしまった華火は、くすりと小さく笑ってから、ウェインの頭を胸元に抱き寄せていた。
「いいです……。うぇいんさんならいいです」
「アロク。エッタユオス、エルケディアナサカヤマイラマオウェロ」
「ふふ。うぇいんさんだからいいんです」
「オジアナリソメチシアクオク? ウラヌカナムサジェカドゥシク。アラカヅ、アヌサカヤマオウェロ」
ウェインの言葉に、キスから先のことを想像してしまった華火は、挙動不審になっていた。
(キスから先って……。きゃうぅ……、どどどど、どうしよう。お風呂にまだ入ってないし、し、下着! えっと今日は確か……、子供っぱい……。だめ、こんな子供っぽい下着見られたら、しぬぅ……。あっ! そうじゃないわ! それよりも問題はこのぺたんこな胸よ!! だ…だめだめ!)
華火の見せるいろいろな表情にウェインが小さく笑っていると、華火がとんでもないことを言い出して、ウェインの理性をボコボコにしていくのだ。
「だ……大丈夫です!! でも、準備させてください!!」
「ウテ?」
「今日の下着は……、ちょっとお見せできないので、お見せできるような下着の日に……。それと……。ち……小さくてもいいですか?」
そう言って、胸元を隠すようにしながら、上目遣いで見つめられたウェインは、危なく変なことを口走りそうになって慌てて口を固く結ぶ。
そして、咳払いの後、深呼吸をしてから華火をそっと抱き寄せる。
「アヒミク、アニーアワキヌオツンーフ」
理性を総動員してそう言ったウェインだったが、子ども扱いされたと思った華火は、ぽかぽかとウェインの胸を叩いていた。
「もーー! 子ども扱いしないでください!!」




