第四十八話
水晶に閉じ込められた状態の華火が生きていることを信じて、ウェインは毎日眠っているような彼女に話しかけていた。
そうやってウェインが日々を過ごしている間に、送還魔法の構築理論が完成していた。
いつでも恭子を送り返せる準備は出来ていたが、恭子は帰るそぶりを見せつつも、送還については消極的な発言を繰り返していた。
そして、話の中で何度も華火と話したいということを言っていたのだ。
華火の状態は、誰も何も言わなかったが極秘情報扱いとなっていた。
しかし、知っているものはウェインの屋敷の者を除けばランジヤとフェデルとセルジオとジーン・フォン・カニックのみだった。
ジーンは、いつの間にか華火の主治医になっていた医師だ。
恭子は、こちらに来てから日々を怠惰に過ごすだけで、積極的に何かをしようとすることはなかったのだ。
元々、異世界人である華火や恭子に何かさせるつもりはなかったフェデルの意向もあって許された日々だった。
そんな自堕落な日々の中で、送還魔法が完成したときは、流石の恭子も反応を示したのだ。
すぐにでも帰れると知った恭子は、魔法学者の元に自ら向かうほどだった。
しかし、学者から帰還魔法についての諸注意を聞いた時に、華火はこの世界に残ると知らされた恭子は、元の世界へ帰るのを躊躇い始めたのだ。
恭子の身の回りの世話をしている侍女がいつでも帰れるのだと言ってみても、「うん。明後日くらいにかな」と言ってはぐらかしては、「華火と会って話したいんだけど」と頻りに華火に会いたがったのだ。
華火の状態を知らないロイドは、何かとウェインに恭子と華火を会わせるようにと言っては、ウェインに断られるという日々を送っていた。
そして事件は起こったのだ。
その日、どうしても参加しないといけない会議があり屋敷から王城に来ていたウェインが、屋敷に戻ろうとした時だった。
走り出そうとした馬車の前に飛び出す人影があったのだ。
御者は驚き、馬の手綱を引いていた。
ウェインが何事かと外の様子を見ようとした時だった。
馬車の扉が勢いよく開いたと思った次の瞬間には、恭子が車内に乗り込んでいたのだ。
「何のようだ?」
「うっさい。さっさと、華火に会わせろ」
イライラした様子の恭子がそう言うと、ウェインは眉間に深いしわを寄せて、恭子を馬車からつまみ出そうとしたがそれは、強引に馬車に乗り込んできたロイドによって防がれてしまっていた。
「ウェイン! いいだろう? 少しくらい会わせてやっても。二人は姉妹だというのに……」
「そうよ! あたしは華火の妹なのよ? あんたにあたしと華火が会うのを邪魔する権利なんてないのよ!」
「権利ならある」
「はぁぁ?!」
ウェインの言葉に、額に青筋を浮かべた恭子が睨みを利かせて心底嫌そうな顔をしてみせた。
それに対して、ウェインも心底嫌そうな表情でゴミでも見るかのように恭子を睨みつけていた。
車内の状況のあまりの悪さに、ロイドは全身を震わせて思うのだ。
(どうして俺は、こんな怖い顔で睨み合う二人の間を取り持とうとしたんだろう……。怖すぎるよ……)
「権利ならあると言っている。俺は、華火の夫になるのだから」
「おおおおお……おっとーーーーー?! はぁあああああ?! あり得ないし、マジであり得ないし!!」
「うるさい。黙れ。そして、降りろ」
「嫌だし!! 無理だし!! 死ね禿げろ!!」
「ちょっ……二人とも落ち着いて」
「お前は黙っていろ」
「あんたは黙ってろし」
「……、俺王太子なのに……。クスン……」
睨み合うウェインと恭子だったが、突然何かを思い立ったように恭子は馬車を飛び降りていた。
眉を顰めつつも、面倒なのが居なくなったと、ウェインは、呆気に取られていたロイドを馬車の外に放り捨てていた。
しかし、ロイドを馬車の外に出した時に、自分の失態に気が付き、慌てて御者に屋敷に向かう様に指示をしていた。
猛スピードで走り出すシグルド公爵家の馬車を見ながら、置いてけぼりになったロイドは、声を震わせながら言うのだ。
「怖かった……。でも、なんでキョーコはそんなにあの子に会いたがるんだろう? 嫌いなんじゃなかったのか? さっぱりわからない……」
そう呟きながら、猛スピードで走り去るもう一台の馬車を見つめていたのだった。




