第三十話
泣きじゃくる華火にウェインが手を伸ばそうとした時だった。
部屋の扉が強い力でノックされたのと同時にランジヤとマリアがもつれるようにして入室してきたのだ。
何事かと視線を向けたウェインは、二人の表情から非常事態が起こっていることを察したのだ。
「アッターギナン?」
嗚咽を零して泣きじゃくる華火を見て、マリアは怒りの表情を、ランジヤは痛ましそうな表情をしたが、それは一瞬だった。
二人は、すぐに表情を引き締めていた。そして、焦りが見える口調でランジヤが言うのだ。
「アチサミステムオユスビチアギアクテカチエテモドチソーウィクオユス。ウオジンエグ、アグサミエテアテッタホミヌージンアノウィアクテク、ウセディアヅンオモンナキゾメロス。ウセディアヅンオモンナキゾメロス、ンエサミアイナマグージョホニケスオハモヌオヨジョハユンインーゾネマツルシジ」
「アクオス……。ウレディヌグス。ウモナトウィウオヨナム。マリアオテロス、アディアイアニアゲロ、エルケッタイェットマモヲトコンハナビ。オザヅンオナツ」
「ウタフ!」
「アチサミラモキサク」
ウェインの言葉に、ランジヤとマリアはほぼ同時に返事をしていた。
そんな周囲のやり取りを見ていた華火は、状況が分からずにいた。
何か嫌な予感がして、すぐ傍に居るウェインのシャツをぎゅっと握っていた。
ウェインは、華火を一度抱きしめた後に、そっと自分の膝の上からソファーに降ろしていた。
「イアナムス。エマタッタミセチコアギアヅンオミソクス、ウルケッチーニスンーヌカコウオユクオジ。アドゥブオジアヅ。ウルケットドミヌグス。アラカヅ、オトコニクタサヒンハナビ、イーソヘチオエテアグンーコツンイチク」
何か大変なことが起きているということだけは、なんとなく分かった華火は、ウェインを困らせたくないという一心で、瞳に涙を溜めた状態ではあったが、何とか頷いていた。
ただ、一度でも瞬きをすれば涙が再び零れてしまうことは分かっていたため、必死に耐えながら、震える声で一言だけ返すのが精一杯だった。
「は……い」
その後、ウェインは慌しく屋敷を出て行ったのだが、一週間が経過してもウェインが屋敷に戻ってくる気配はなかったのだった。




