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第三話

 目の前には、海外映画で見た王侯貴族が舞踏会でもしていそうな大広間が広がっていたのだ。

 ただし、色とりどりのドレスではなく、その場にいたのは黒いローブを着た人間たちと、身なりのよさそうな数人の男性だった。

 これは夢なのだと、華火はとりあえず部屋で一眠りしてから起きようと踵を返すも出て来たはずの玄関の扉はどこにも見当たらなかったのだ。

 混乱する華火を他所に、周囲は異様な騒めきに満たされていた。

 

「オオ! アチスオキエス!」

「ウレラウクサヒアケソノケデロク」

「オィマク!」


 周囲にいる黒いローブの人間たちは、華火には全く言葉として理解できない音としか思えないものを発するのみだった。

 異様な空気に華火が小刻みに震えていると、妹の恭子が訳の分からないはずの音を理解し、さらには会話をしているのだ。

 何もわからない状況で華火は、何度も浅く早い呼吸を繰り返す。

 

 そして、知るのだ。

 唯一状況を知る恭子に華火は見放されたということをだ。

 

 華火が意識を失うほんの一瞬のことだった。

 ゆっくりとスローモーションのような視界の中で、恭子の唇が紡いだ言葉が、嫌にはっきりと耳に残る。

 

「ざまあみろ」



 華火が意識を失い倒れたことに驚いたのは、恭子以外のその場にいる全員だった。

 しかし、恭子は言うのだ。

 

「この子は不吉な存在なんです。元の世界でも【バケモノ】って呼ばれるような子でした。だから、何の力もないこの子は、ただただ不吉な存在でしかないです。だから、早いうちに追い出した方がいいと思います」


 深刻そうな表情を作った恭子の心のうちを知らない、王子様風の金髪の男は、迷っているような様子で片手で眉間を押さえながら恭子に言うのだ。

 

「聖女殿の助言に従うべきだが、その少女は我らの都合でここに呼ばれた身だ。勝手をした我々が言うのも変だが、そんな非人道的なことはさすがに……」


「ですが殿下。この子をこのままここに置いていたら、不吉なことが起こるに決まってます! 元の世界に戻る手だてがない以上、早くここから遠ざけるべきなんです!」


「だが……」


 そう言った、金髪の男は申し訳なさそうに、床に倒れ伏す華火に視線を向けた。

 金髪の男は、その時初めて床に倒れる華火をまじまじと見たのだ。

 そして目を丸くさせてから、心を奪われたかのように小さく呟くのだ。

 

「こんなに可憐で美しい少女がバケモノ……? 信じられない……」


 金髪の男の魅入られたかのような呟きが聞こえた恭子は面白くなさそうに小さく鼻を鳴らしていたが、それに気が付く者はいなかった。

 恭子は、悲し気な表情を作り懇願するように言ったのだ。

 

「あたしの居た世界で、この子は忌み嫌われる存在でした。だから、加護を与えられなかったんです! 大丈夫です! 聖なる乙女の加護を持っているあたしがいるから問題ないです! だから、不吉なその子をどこかにやってください!! でなきゃ、あたし、協力なんてできません!!」


「そ……そんな!」


 恭子の言葉に金髪の男は、唇を噛んで下を向いた。

 そして、金髪の男が再び顔をあげて何かを言おうとしたのと同時に、大広間の扉が大きな音を立てて開かれたのだった。

 開いた扉の前には、氷の如く凍てついた表情のとんでもなく美しい男が立っていたのだ。

 その男は、銀の髪と紫の瞳が印象的だったが、今はその美しさよりもその氷のような表情の下から滲み出る怒りのオーラの方が問題だった。

 つかつかと金髪の男たちの元に歩くその様は、魔王が降臨したかのような緊張感をその場に与えていた。

 先ほどまで、その場の空気を我が物にしていた恭子でさえその男の恐ろしいまでの美しさと底冷えするかのような怒りのオーラに口を挟むことは出来なかった。

 

 銀髪の男は、冷たい紫の瞳を金髪の男に向け言い放ったのだ。

 

「王太子殿下とあろう方が、とんでもないことを仕出かしてくれたな。陛下も俺もあれほど止めたにもかかわらず、異世界の人間を無理やり攫うなど……。決して許されないことだ!」


「な! 俺は、この国……、いや世界のことをかんが―――」


「考えてなどいない!! この国のことを真に思うなら、拉致魔術を研究するよりも先にすることがあっただろう!! 殿下のされたことは逃げだ!! 他の世界の人間に我々の問題を押し付けているだけの、ただの逃げだ!」


「ぐ……。ウェイン……。だが……」


「言い訳をするな!!」


 そう言った、銀髪の男、ウェインは、すぐそばで倒れている華火を見て、さらに目に怒気を込める。

 しかし、何も言わずに華火の元に駆け寄り、その脈を計ったうえで回復魔法をかける。

 魔法をかけたウェインは、意識のない華火を軽々と横抱きにしていた。

 

「殿下、話はあとだ。俺は、この少女を医師の元に連れていく」


 そう言ったウェインは、あっという間に部屋を出て行こうとしたが、出入り口で息を切らせる二人の人物の前で足を止めていた。

 

「陛下、エニス卿……、手遅れでした。俺は、被害者の少女を医師の元に連れて行くので、後は頼みました」

 

 ウェインのその言葉を聞いた二人の男は、表情を引きつらせた後に重い足を引きずりながら広間に入っていくのだった。

 


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