第十八話
その時華火は、見てはいけないものを見てしまったような気がしつつも、目が離せずにいた。
火照る顔を両手で押さえながら、じっと目撃してしまった光景を見つめ続けていたのだ。
(きゃう~~。どうしよう……。はっ!! きゃーきゃー!! マリアったら、マリアったら~。あっ、あっ、ああああ。あらあら! まあまあ!!)
華火は、視線の先の光景に心の中で黄色い声を上げるのだ。
そんな華火の視線の先にあった光景とは、背の高い木を背にした庭師のジンにたいして、マリアが壁ドンならぬ、木ドンをしている場面だった。
何故華火が、マリアの木ドンを目撃することになったのかというと、それは本当に偶然だったのだ。
その日、新しい花の苗を植えるのを手伝っていた華火は、少し休憩するつもりが、ぽかぽか陽気でついつい居眠りをしてしまっていたのだ。
木陰ですやすやと眠ってしまっていた華火が目を覚ました時、少し離れた場所にある木の下にいるジンとマリアが見えたのだ。
目覚めたばかりの華火が、ぼんやりとマリアとジンの様子を見ていると、突然マリアがジンを木に追い詰めたのだ。
そして、ジンの背中が木にぶつかったのと同時に、マリアは左手で木を突いたのだ。
マリアの左腕がちょうど顔を隠してしまっていて、彼女がどんな顔をしているのかは華火からは見えなかったが、きっと頬を染めているのだろうと華火は想像していた。
(やっぱり、そうなんだ。マリア、ジンさんと一緒にいるとき、すごく緊張してたし、やっぱり彼のことが好きなんだわ!! そうよね、マリアは情熱的なところがある気がしていたし、彼女から告白っていうこともあり得るかも! きっと、「ジンさん、貴方のことが好きです」「マリア君……、俺も……」「ジンさん!!」なんて感じで、きっとうまくいくわよね。ふふふ)
そんなことを想像しつつ、頬を染めながら見つめていると、二人の話声が聞こえてきたのだ。
「ウオユシス! イアサドゥケディアニサテバテビラマイナマスオジョハナビホニサタウ! ウサミサミセッタヌカチソロクツボメドゥオユシサルキ!」
「アーフ……。アヌイオワカブ。アグオラディアネカウサドウェチンハナビ」
「アーーフ?! エツンアニアナサドウェチナマスオジョハナビーサリアワキナンナ、アクセヅンーチウトクンイトメデロス! エイ、エヌセディアニエクンアカヘロス。エドナナシアワククタルガギエシリネヌトメディサタウィアナゴクンイツ、エヌセディアナジョチハフオユシス。イアフ、エヌセディスム、イスム」
「アヘアモ、アナヅンーナカビヌオツンーフ……。アハカノナマタオネアモ、アナヅンエグタヒアネオモアキソツリエッタムチリスチマグキンニクカナジュオン。エチソス、アラカヅンーナンノーミニラク、アヌーヨクンイツ……」
「アクセヅンアナホタカブ! オユセヅンアナカバグオフイエッタカブ! アカーボヌオユシス!! イネロス、アクセディアナジアネカワヌキンニカゴシムオン。アクセヅンアナカブ? エッツ、イサタウ、エツカナジラク、アラクセダンノイヌオツンーフ!」
「ウツーグ……。オレマユ、アグトクトロツレラツオウェヌメダラキトノソネアモ……」
「ウタン!! アグオユセディアネカワンノス!!」
「ウツーグ!!」
「ウトユツ!! ウオユシス!! イアサドゥケテマヤヒルヒアヲヤク!!」
「…………」
華火には二人の会話は分からなかったが、話の途中、マリアがジンの胸をポカポカと可愛らしく叩く姿に、華火の想像は膨らむのだ。
(きゃ~~。もしかして、二人ってもうすでにお付き合いしているの? それで、痴話喧嘩的な? きゃ~きゃ~。ふふ、二人は恋人同士なんだね……、恋人かぁ……)
マリアとジンの楽しげな姿を見た華火は、恋人という言葉を胸の中で呟いていた。
そう呟いた華火は、ふとウェインの優しい微笑みを思い出す。すると、華火の胸は、ぎゅっと締め付けられたのだ。
何故か急に胸が苦しくなった華火は、自分の胸に手を当てながら、無性にウェインに会いたいと思った時だった。
「ウオジハナビ、アミアダツ」
ウェインの優しい声が聞こえてきたのと同時に、その温もりに華火は包まれていた。
背後から抱きしめられてしまった華火は、前に回されたウェインの手に自分の手を重ねる。そして、キュッと握りしめてから、背後のウェインを振り返りつつ笑顔を見せていた。
「うぇいんさん、おかえりなさい」
華火の笑顔を見たウェインは、眩しそうに目を細めてから、華火のこめかみにチュッとキスをしていた。
キスをされた華火は、ぼっと、一瞬で体温を上昇させてしまっていた。
そんな華火を可愛いらしいと思ったウェインは、太陽さえも霞んでしまいそうな、とても眩しい笑顔を見せていた。
ウェインの見せる眩しいほどの笑顔に、華火は胸が痛いほど高鳴っていた。
そして、自然とその言葉が華火の口を衝いて出たのだ。
「すき……」
その言葉が口から飛び出たとたん、華火は自覚したのだ。
(そっか……、わたし、ウェインさんのことが好きなんだ……。すき……、好き…………!!!!)




