ぼくは……りん
「お前ら! 何しに来た!」
シュアと蛇が建物へ向かって走って行く。それに気づいた見張りの盗賊が大声で尋ねる。
「やかましい!」
「ぐわ!」
盗賊の尋ねを無視して、蛇がジャンプして盗賊の男に尻尾を叩きつける。盗賊は呻き声を出して壁に叩きつけられた。バーンと鈍い音を出してぐったりと壁に寄り掛かって沈んでいく。
「何だ!」
扉が開く。音に気づいた盗賊の仲間が出てくる。
「邪魔だ」
「あ。熱い!」
蛇に追いついたシュアが呪文を唱えて炎を右手に出して盗賊に投げる。盗賊は叫びながら体が炎に包まれる。暫くは動いていたが最後は地面にうずくまって動かなくなった。
「よし! 入るぞ!」
「はい!」
見終えた蛇がシュアに号令をかける。シュアも了解して建物の中へ襲撃をする。入った後バタンと扉が閉まった。
「ふぅー。聴くだけでも疲れるりん」
岩にもたれて息を吐くスラりん。シュアの言う通りに見ずに耳でやり取りを聴いていた。
(シュアとママりん。いつもと声が違かったりん)
(一緒にいても違う顔はあるのりん)
(ボクだけ仲間外れりん)
スラりん俯いて考えてしまう。声がいつもと違う。ボクに見せない顔があるの?と考えていくうちに自分だけ仲間外れだと疎外感を覚える。
バタン!
(開いたりん)
扉が開く音がした。スラりんは岩から体を出して見る。シュア。蛇はどうしたのか!と。
「熱。熱い! 誰か! 水を」
「ゴクリりん」
(ママりん。シュアりん)
入り口から先ほどと同じ様な火だるまになった男の声が叫びながら出てきた。それを見たスラりんは唾を飲み込む。緊張が増していく中出てこない蛇とシュアを心配して入り口を見つめている。
「ひぃー」
(こっちの方に向かって足音が大きくなるりん)
複数の男の怯える声がスラりんに聞こえる。耳がいいスラりんに大きくなっていく複数の足音が聞こえた。外に向かっている。
「化け物」
(化け物?)
複数の盗賊たちが我先に出てきた。ある者は腰を抜かして震えた指先で中を指して化け物と言う。スラりんはその言葉を聞いて疑問に思う。
「逃げようとしたって、そうはいかないですよ」
(シュアりん)
中からシュアが出てきた。スラりんは姿を見るが、
「ぐわー! 熱い! 体が焼ける! 死ぬ!」
「な。何なの? りん」
シュアが呪文を唱えて炎を出して腰を抜かした盗賊に投げる。盗賊は絶叫する。スラりんはシュアの表情に驚愕する。何で笑っているのかと。
「匂うりん」
「これが戦場かりん」
「なぜ? ボクに見せたかったのか? りん」
人が焼き焦げた匂いがスラりんに届く。匂い、シュアの表情を感じてこれが戦場かと現実を知る。なぜボクに見せたかったのかと考える。
(そういえばなぜ? 怖くならないりん)
「何で? 何で? りん」
(緊張も解けてしまいりん。懐かしむ自分りん。何よりりん)
ガバッ!
「何で。心が奮い立っているりん」
胸を押さえつけるスラりん。
(なぜ冷静に見られるの? 人が焼けて死んでいるのに)
色々考えたが分からずに
「何なの! りーーーん!」
戦場一帯にスラりんの叫ぶ声が響く。
ビクッ。
「おっ! 止まったぞ。流石スラりん。連れて来た甲斐があった」
蛇の声が聞こえる。外に出てきた。スラりんの叫び声が盗賊たちの動きを止めた。耳を押さえているところ鼓膜がやられたのである。
「ちっ! あいつめ。スライムの様に隠れてブルブル震えていろと言ったはずなのに」
「う。嬉しいりん。ボ。ボクはスライムのスラりん。臆病な。••••魔物りん」
(涙が止まらないりん)
スラりんは涙が止まらない。シュアが憎まれ口をたたいたのを聞くと、ボクはスライムと思ってくれたのが嬉しいのである。本当に臆病で逃げまくるスライムなのかと思っていたときに言ってくれた言葉。いくら掬っても涙はぼろぼろと落ちていく。
「よし! 止まっているうちに片付けるぞ!」
「はい! うん?」
「どうした?」
「うっ。うっ」
ドーン!
「キャーりん」
シュアに見せじと後ろを向いて泣くスラりんの背中に当たる物。衝撃に叫ぶスラりん。
「な。何りん」
「•••••」
振り返って文句を言うスラりん。その目に映った物は、スラりんの言葉に反応せずに立っている盗賊である。
「あいつ! スラりんの叫びで混乱してやがる」
「な。何か用か? りん」
スラりんは盗賊の顔を見上げながら尋ねる。盗賊は反応ない。デカイ体がただぶらーんとしている。
「ごー」
「な。何を言った? りん」
「ステファニー様。駄目だ。戦いを愉しんでいる。ちっ! 俺が」
バサッ!
スラりんは盗賊の声らしき物を聞こえた。内容を尋ねる。一方の離れた所で見ているシュアは蛇に視線を移すが、蛇は愉しそうに盗賊たちを倒しており、スラりんの危機に気づいていない。スラりんを見て舌打ちして羽を広げて飛んでいく。
「殺す」
「殺す!」
「!」
(もう駄目りん!)
盗賊が今度は聞こえる声で殺すと言った。スラりんは驚いて尻餅をつく。更に殺す!と叫んで右手に持っている剣を上げて、スラりんに向かって振り下ろす。スラりんは駄目だと目を瞑った。
ズッシャー。
(ボクもここまでかりん)
(あれ? 全然痛くない?りん)
斬れる音が聞こえる。ボクも終わりかと観念する。しばらくしても痛みはないしどうしてか?と目を開けると。
「ぎゃあー!」
「白い羽りん」
盗賊の絶叫が響く。炎に包まれている。スラりんの目に見覚えがある物が映る。自分がむしった白い羽がある。
「シュア! りん」
「スライムは怯えて震えて隠れてろ。スライムのスラりんなんだろ」
「ありがとう......うん? りん」
シュアと叫ぶスラりん。助けに来てくれたと笑顔になる。シュアは顔をスラりんに向けて言う。スラりんは感謝を言おうとするが異変に気づく。
「どうし......」
言葉にいつもの元気がなくて顔色も悪い。スラりんは尋ねようとすると。
バタッ。
「シュアりん!」
シュアが地面に崩れ落ちた。スラりんは叫ぶ。
「シュアりん!」
スラりんはシュアの所へ跳んでいった。着いてシュアの体を起こすと。
(この血は! りん)
「うっー。うっー」
呻き声を出して苦しい表情のシュア。スラりんが見たものは、ュアの胸に斬りつけれた傷がある。スラりんが触るとべったりと血がついている。白い服が赤く染まっている。
「シュアりん! シュアりん!」
苦しい表情のシュアに大声をかけるスラりん。スラりんの大声も意味なくシュアは目を瞑ってしまった。
「どうした?」
「ママりん!」
戦いを終えた蛇が来た。周りは静かになっている。盗賊たちを全員やつけた。立っているものはいなくて地面に倒れていたり、黒い物体になっている者ばかりである。
「全部片付いたから来てみれば」
「ママりん。シュアがりん!シュアがりん!」
「落ち着け! まず話を」
目を瞑ったシュアに動揺するスラりん。蛇は動揺するスラりんに落ち着くようにと促す。
「わ。分かったりん。説明するりん」
「ボクが盗賊に斬られる所を代わりに斬られたと思うりん」
「なるほど。そんな状況で相手をこんなに炭の様にするんだから、凄いな」
スラりんが説明をする。蛇は説明を聞くとシュアを斬った盗賊の体を見て感心する。
「それよりも治療をしないとりん」
「麓の町まで下りるしかないだろう。傷藥は持ってないし。それしかないだろう」
スラりんが相談する。蛇は麓の町までいかないとダメだと言う。
「下りるのりん。分かったりん」
「でも。持つか?時間かかるし」
「時間がないりん。乗ってりん」
「何をやる気だ」
「早くりん!」
「わ。分かった」
スラりんは決める。蛇はシュアの傷を見てそこまでもつかと疑問する。しかしスラりんはシュアを持って蛇に自分に乗ってと言う。何をやるのかと尋ねるがスラりんは急かすだけで答えない。仕方なく蛇は肩に乗った。
ぴょん。ぴょん。ぴょん。
「スラりん。もしかして」
「そうりん。ここから落ちるりん」
スラりんが向かった先は崖である。ここから落ちて一気に行くのである。蛇は本気かと尋ねるがスラりんは本気である。
「これしかないりん。行くりん」
「正気か? 無事に済まないだろう」
スラりんが落ちる準備をすると蛇は本当にやるのかと再度尋ねる。
「ボクはスライムりん。ぷよぷよしているから大丈夫りん」
「でも......」
スラりんはスライムはぷよぷよしているから衝撃を吸収すると真顔で言う。それでも蛇は納得しない。
「ママりんはシュアを死なせたいのか! りん。ボクは嫌りん。シュアが死ぬならボクも死ぬりん」
「分かったよ。親子二人と一匹。死ぬなら一緒だな」
スラりんが迫る。シュアが死ぬなら自分も死ぬと言い切ったのである。蛇はその言葉と気迫に納得する。
「ママりん。違うりん。一人。一匹。一体りん」
「いいじゃないか。士気を高めているのだから」
「ボクはスライムりん。スライムのスラりん。一体りん」
「ハァー。ハァー」
苦しそうに息をするシュア。状態は悪化している。
(待っているがいいりん。スライムのスラりんが)
シュアの顔を見て思うスラりん。
「助けるりん!」
スラりんは崖から落ちていく。うわー!と言う顔の蛇。真剣な顔で落ちていくスラりん。シュアを大事に抱えて助ける。ただそれだけを思っている。