ちょーだいりん
「シュアりん」
(いつも通りに)
シュアは心の中で言い聞かせて
「何だよ」
いつも通りの顔をスラりんに向ける。
(どうだ。いつも通りだろ)
「少しはスラりん様に感謝を思うりん」
いつも通りに言うスラりんにほっとするシュア。腰に手を置き胸を張ってどや顔で偉そうに言うスラりんを見ると。
ピキッ。
シュアは俯いて
「そうか。感謝をしないとな」
「そうりん」
「じゃあ。ちょっとこっちに来てくれないか?」
スラりんを手招きする。
「何りん?」
スラりんはベッドに体を乗せて顔を近づける。
「来たりん」
何をくれるのかとわくわくして嬉しそうな顔で言うと。
「感謝の印を体で受け取るがいい!」
いきなり大声で言うと、右手を大きく振り上げて
ガン!
「痛!」
スラりんの頭にチョップをお見舞いしたのだけど、痛がったのはスラりんではなくて、シュアであった。
「早くちょーだいりん。スラりん姉さんにねりん」
スラりんはニコッとする。シュアのチョップに気づいていない。
「ふー。ふー。さすがガングーツ。こっちの手が壊れる」
「何泣いているりん?そんなにスラりん姉さんに会えて嬉しいのかりん」
スラりんはシュアの頭を撫でる。完全にお姉さん気分である。シュアはチョップした右手に息をかけている。痛さで思わず涙目になっている。
「やめろー!どこにりんを付ける姉がいる!」
シュアは叫んで頭を揺らして、スラりんの手を払う。
「やれやれりん。ボクの可愛さに嫉妬しているのねりん。シュアりん。君だけのスラりん姉さんじゃないりん。まあ独り占めしたいのも分かるけどりん」
スラりんがしょうがない顔をすると
「どこからその自信が出るのかよ」
シュアは呆れ返る。
「可愛いスラりん姉さん。可愛いのに何で扉をぶち破って入ったの?」
シュアは笑顔で入り口を指して尋ねた。破られた所から外が見える。
「てへりん」
「てへじゃねえよ!可愛くねえし。それなりの理由があってやったんだろう!スラりん姉さん」
スラりんは頭をこつんと軽くやって、舌をぺろっと出して笑顔で言った。それに納得しないシュアが声を荒げる。そしてもう一度尋ねる。
「何怒っているりん?お姉ちゃんが寂しがっている弟に会いに来ただけりん」
「いや。ここが診療所って忘れていたくせに」
「てへ」
「可愛くねえよ」
「もういいよ。お前に常識を求めても無駄だもんな」
「えっへん」
「胸を張ることか!」
スラりんは胸を張ってどや顔になる。シュアはスラりんのどや顔を見て大声を出す。
「うっ!痛」
シュアは顔を歪める。大きな声を出したためである。傷を手で押さえる
「大丈夫?りん」
「あまりボケないでほしい」
「ボケていない!りん。スライムは素直りん」
スラりんは両手を突き上げて反論する。
「スライムと言えば、シュアに会わせたいスライムがいるりん」
「いきなりだな。で、どこにいるのか?」
「シュアりん。目まで傷を負って見えなくなったのか?りん」
「その顔ムカつくな!」
スラりんの馬鹿にした顔にムカつくシュア。
「どこにいるんだよ!」
「シュアりん。本当に分からないの?りん。お姉ちゃん心配りん。あのときのことがりん」
スラりんは明るい顔から心配する顔になる。
(冗談じゃないの?りん。本当だったボクはりん)
「お前こそ大丈夫か?」
「何を!言うりん。シュアりんこそ大丈夫?りん。ここにいるではないか!りん」
スラりんは自分の右肩を叩く。
「お前の肩しかないけど」
「何を!••••あれ?りん」
スラりんが違和感に気づく。
(そう言えばぷよぷよの感触がないりん)
「ま。まさか!りん」
スラりんは焦った顔で自分の右肩を急いで見る。
「••••」
「おい?スラりん」
黙って動かないスラりんに声をかけるシュア。
「おーい。スラりんさんどうしたの?」
スラりんの顔をじろじろ見るシュア。
「••••」
「おい!本当にどうした!」
シュアは体を起こしてスラりんの肩に手をやる。その顔は本気で心配している顔だ。
「••••」
「おい!どうしたんだ!」
シュアはスラりんの体を揺さぶる。
「•••。ぎゃあー!りん」
いきなり絶叫するスラりん。
「つうー」
スラりんの絶叫に耳を手で塞ぐシュア。キツそうな顔だ。
「スラぽん!さんスラぽん!さん。ぎゃあーーー!!りん」
絶叫しまくるスラりん。
「うるせえぞー!」
「ボ。ボクのお姉さんのスラぽんさ、さんがい、いなくな、なったりんりん」
シュアは文句を言うが、今のスラりんは青ざめた顔で言葉から動揺が分かり、スラぽんだけでありシュアの言葉など聞いていない。
「ど。どうするりん!」
「うわー。体を揺らすな!うっぷ」
スラりんはシュアの体を揺らす。シュアは思わず吐き気を覚える。
「シュアりん。ボクたちのお姉さんりん。大切なお姉さんりん」
「うー。詳しく説明を」
スラりんの揺らす速さが増す。シュアの顔は今にも吐きそうである。
「分からないの!りん。ボクはスライムりん。お姉さんと言ったらスライムりん!」
「うぷ。じゃああそこにいるスライムは?」
シュアはふらふらと入り口の方へ指す。
「うん?りん」
スラりんは揺らすのを止めて、シュアの指で指した方を藁にもすがる思いで真剣に見る。
「ぎゃあー!りん」
「叫ぶのかよ!」
スラりんは絶叫する。シュアは耳を手で塞ぐ。またかと言う顔をする。
「スラぽん!さんりん」
スラりんの顔がパァーと笑顔になる。目をキラキラ輝く。
きゅー。きゅー。
スラりんの目には床にぷるんぷるんしているスラぽんが映る。
「スーラぽーんさーんりん」
言葉を伸ばして両手を広げて笑顔で迎えに行く。
「俺よりもスライムかよ」
「あっはっはりん」
愚痴るシュア。能天気な笑顔で自分の世界に入っているスラりん。スラぽんに手が届くところまで来て、手に持とうとすると。
「ここか!」
低い女性の大声がする。この声は
きゅー!きゅー!
「何か助けを求めていないか?」
シュアがスラぽんの叫び声から読み取る。
「スラぽんさんりん。ごめんね置いてけぼりにしちゃってりん」
「あいつ何やってんだ?」
不思議がるシュア。それもそのはず
「さあシュアりん。これがボクたちのお姉さんりん」
笑顔でシュアの方を向いて、両手を結んで見せつけるが
「お前の手しかないぞ」
「何を言っているりん。ここにいるりん」
「いや。本当に手だけだぞ」
最初は冗談だと思って相手にしないスラりんが、シュアの顔が冗談を言う顔じゃないのを見て自分の手を見る。
「ぎゃあー!りん」
「何度絶叫すればいいのかよ」
三度目の耳塞ぎである。スラりんの顔が慌てる。
「いなくなったりん。いなくなったりん」
オロオロするスラりん。そんなとき
「そこのうさぎ跳び少女」
「いや。少女じゃねえだろう」
スラりんは呼びかけられた方を向く。
「あっ!りん」
スラりんは指を指す。驚いた顔だ。
「今すぐ!私に食事を提供しろ!さもなければこのスライムを食べる!」
スラりんから焼き鳥を食べたメイド服の女性が、スラぽんを人質にして要求した。
「ぐっ。ボクとスラぽんの契りをどこまで邪魔すればいいりん!」
歯を食いしばって悔しそうに見るスラりん。
きゅー!きゅー!
「何だよ。この劇は」
メイド服の女性に抱えられているスラぽんが叫ぶ。女性は真剣な顔でスラりんを見下ろしている。シュアは見ていて呆れ返る。
(待っていてねスラぽんさん)
スラりんは右目をパチッとして合図を送る。シュアが呆れ返っていてもスラりんにとっては大事なことである。
(お姉さんを守るりん)