表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラりんを立たせたい  作者: like
11/14

11話 忘れていないりん

「うーん」


 スラりんたちがドタバタしている一方。診療所で治療を受けているシュアが寝ているベッドの上で意識を取り戻したのである。


「先生!患者さんが意識を取り戻しました!」


 シュアを看病している白衣を着た女性が叫ぶ。


「ここはいったい?」


 起きたばかりで頭がはっきりとしていない。重い意識で周りを見る。


「ここは家?自分は確か••••」


(盗賊のアジトに壊滅しに行って、倒していたんだよな)


(そして、盗賊の一人がスラりんを)


 額に手を押さえて思い出している。スラりんと出たとき、


「スラりん!あいつはどうした?」


 ベッドからガバッとして起き上がろうとすると


「痛」


 シュアに痛みが走る。思わず腹部を押さえる。


「大きい声を出すな。暫く安静が必要だ」


 白衣を着た中年の男性が来た。


「安静?じゃああんたは医者か」


 痛みに顔を歪めるシュアが尋ねる。


「そうだ。お前さんの恋人に頼まれてな」


「恋人じゃない!痛」


 医者の男性が答えると、シュアは大声を出して否定する。大声を出して痛みが出て顔を歪めて俯く。


「まだ、傷が塞がったわけじゃないのだから安静にしなさい」


 医者の男性は注意する。白衣の女性。看護婦が来て、


「そうですよ。今はゆっくり休んで下さい」


 シュアの体を寝かせる。


「スラりん。あいつらは今どうしてる?」


「お前さんをここに預けたまま、どこかに行ってしまったな」


 医者の男性はシュアの額に手を添える。


「熱はないか。意識もはっきりして喋れているし。命の心配はないな」


「良かったですね。彼女さんに感謝しないとね」


「だから!彼女じゃないって!」


「えっ!そうなんですか」


「何にせよ感謝しなさい。ここに来たとき、彼女は真剣な目で助けて!と訴えていたぞ」


 医者の男性は額から手を離して、シュアの腹部を診察し始めた。


「あいつが」


「お前さんが今やることは、あの娘に元気な姿でありがとうと言ってやることだ」


「そうですね。あの娘も喜ぶますね」


「あいつに借りを作ってしまったか」


 医者はシュアの体から手を離した。


「体も異常ないし、一日休んで明日には退院出来るぞ」


「おめでとうございます」


きゅるるー。


「うん?」


 医者の男性が音に気づく。


「私じゃないですよ」


 医者の男性は看護婦を見る。看護婦は両手を横に振って慌てて否定する。


「じゃあ。自分だ」


 シュアが手を上げる。今日は朝だけ食べて、それから口にしていないのである。お腹が空いて鳴るのもしょうがないと思った。


「お腹が空くのは元気な証拠だ。何か食べるものあるかな」


 医者の男性が看護婦を見て尋ねると


「スープでも作りますか?具はあまりないですけど」


「まだ病み上がりだからそれがいいだろう」


「分かりました」


 医者の男性が同意すると、看護婦はスープ作りに台所へ歩いて行った。




一方のスラりんは、スラぽんを手に持ってうさぎ跳びで匂いのする方へ跳んで行く。少し離れた後ろに右手を上げて待って!と言いながらメイド服の女性が義足の両足でスラりんたちを追いかけている。


 スラりんもいつもより速いが、メイド服の女性も同じ速度で走っている。スラりんとの距離が離れずにいる。縮まらないが離れないのである。


きゅー!きゅー!きゅー!きゅー!


「スラ。スラ。スラ。スラ」


 スラりんたちは村の中に入っている。夜中なので外に人はいないが、叫ぶスライム。スラと言いながら跳んで行くスラりん。


「スラ。スラ」


 スラりんはさっきからスラしか言わない。鼻をくんくんして匂いの場所を探している。


きゅー!きゅー!


「スラ」


 スラぽんが振動に体を揺れながら言った。スラりんは笑顔でスラぽんを見て言った。スラときゅーで繋がるのである。


「待て!」


 そんなスラりんたちを追いかけるメイド服の女性。手を差し伸べて走っている。


「私にもお恵みを!」


 顔に悲壮感が浮かんでいる。逼迫しているのが顔から分かる。


「スラ?」


 スラりん跳ぶのを止めて立ち止まる。建物の前である。


きゅー


「くんくん。スラー!」


 いきなり鼻をくんくんして、叫ぶと建物の方を向いた。


「スラスラ」


きゅー?


 スラぽんが今までと違う声を出した。うん?と思っているような声だ。だが、スラりんはスラぽんの違いに気づいてなくて、頭には、 


「ここの人に頼んで、スラぽんさんと姉妹の契りを交わすりん」


 スラりんはそれしかなかった。やっと普通の言葉で言ったのである。その顔は、


「行くりーーん!」


 山を登りシュアを持って一気に降り、診療所へ全速力で駆け込んで蛇と二度の喧嘩。スラぽんを追いかけて跳びまくっていた。時刻は明日を告げる五分前なのに。この元気な声と楽しそうな顔。疲れなど微塵も出ていない。


きゅー!きゅー!


 スラぽんが危険を感じて叫ぶ。また大量の汗が出る。そんなスラぽんに気づくこと。見ることもせずにスラりんは


ぴょーん。


バリバリ!


きゅー!きゅー!


「さあ!この可愛いスラりんたちに、食べ物を分けるりん」


 建物の扉をぶち破って跳んで入ったのである。スラぽんは扉に当たる瞬間ぷるぷる体を震わした。入るといきなり叫んだのである。とても頼む行動と態度ではない。


「••••」


 建物の中に居る住人は、来襲に目を点にしてスラりんたちを見ている。


「さあ!りん」


 スラりんは右手を差し出して頼み続ける。どや顔でやることではないが、あまりに堂々としている。


「うん?お前さん」


 ようやく住人の一人が喋ってきた。中年の男性で白衣?


「ボクたちに食べ物を分けてくれるか!りん」


 目を輝かすスラりん。スラぽんと姉妹の契りが出来る!と思っている。


「何やっているんだ!あれだけ悲痛な顔で頼み込んでいたのに。これは何だ!」


 怒り心頭である。扉を壊されてどや顔で食べ物を!とやられていれば。


「何で?怒られるりん。スラぽんさん分かるりん」


 スラりんは何で?と言う顔で左手に持っているスラぽんに尋ねる。


きゅー!きゅー!


 スラぽんは焦った声で叫ぶ。汗がまた出ている。えっ?と言うのが本音であろう。


「お前さん。冗談にしてもいい加減に••••」


「騒がしい奴だな。何が可愛いスラりんだ。扉をぶち破っても傷ひとつ負わないガングーツのくせに」


 中年の男性が肩を震わしてキレるところに、少年の憎たらしい言葉が聴こえた。スラりんは少年の言葉を聴くと、


「こ。この声は!りん」


 スラりんの顔が笑顔になる。体は、


ぴょーん


 少年の声のした方へ跳んでいた。


ボテッ。


きゅー!きゅー!


「助かったのかりん」


 顔を見ると嬉しくて少年の手をぎゅっと握る。スラぽんは地面に落ちていたる。


「温かいりん。良かったりん」


 今にも泣きそうな顔のスラりん。


「お前なんかに泣かれたたまるか!一生言われるからな!」


「一応礼を言っとく。ありがとよ。こんなに汚してしまって。助けてくれて感謝する」


 頭を下げる。スラりんが飛び込んだ先は、シュアを助けてと入った診療所である。スラりんはすっかり忘れていた。少年はシュアである。


「ボクはシュアのお姉さんりん。怪我した弟を助けるのは当然りん」


 スラりんはニコッと笑顔で言う。


「本当は逆だよ」


 スラりんの笑顔を見ると呟いて顔を背けた。スラりんは意地をはっていると思って、


「やれやれりん」


 しょうがないと言う顔だ。シュアにとっては言われても仕方ないのが悔しい。絶対にこれだけは譲れないと決めているのだから。


(自分は兄でいなければいけない)


 これは誓いなのだから•••••


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ