オチはこんなものりん
「そこまでの女だったか」
「••••」
スラりんは相変わらず俯いたまま反応ない。蛇は戦いの構えを解いたスラりんを見損なった。
(もう。私が憧れていたあの者は残っていないのだな)
(もうスライムなんだな)
蛇は急に悲しい顔をした。何か思い入れがあるようだ。スラりんとの間に、
「スラりん!腑抜けたスライムのお前なんて見ていられねえ!お前を殺して!私も死ぬ!この世界が嫌になった!あの世で本当のお前と••••」
蛇が叫びながら思いの丈を言う。スラりんは相変わらず俯いて反応なかった。
「もらった!」
蛇の口がスラりんの首筋に届く所まで来た。大きく口を開ける。スラりんの首筋をガブリと咬めると蛇は確信した。
ガシッ。
「食べ物ってこれか?」
蛇に聞こえる低い声。女性らしくどこか懐かしい。声を聞くとあの時の映像が浮かぶ。
「戦いに取り憑かれし魔物よ。我の剣で永遠の眠りにつくがよい」
風が吹いて草木が靡く草原で周りは魔物や兵士たちが倒れており、ここに立っているのは、
「私はお前が生を受ける前から、戦い続けているのだ。言葉を慎め。人間ごときが」
「憐れなり。戦いしか己を認められぬとは」
大蛇の魔物と立派な鎧を着けている女性。この者だけである。鎧の女性はどこかスラりんに似ていた。言葉つかいや所作は正反対であったが。
「戦いこそ我が命。魔物たるもの戦いをせずに何物か!その様に創られたのだからな!」
「なぜそう決める。創られし者など関係ないはずだ」
鎧の女性は蛇を悲しげな目で見た。
「そんな目で見るな!私は戦いでここまで来たんだ!もう戻れぬ。戻れないんだ!」
「私もここにいたくでいるわけではない。人間なんて嫌になる。そう、違う物に生まれ変われるなら、あの••••」
きゅー!きゅー!
蛇は目を開ける。スラぽんの叫び声に現実に戻ったのである。
「スライムか一緒に食べるか。何でも腹が満たさればいいや」
蛇は耳を疑った。この女性スラぽんも食べる気だ。
「やっぱり焼くか。いやぷるぷるしているから生で食べればゼリーの食感を味わえるぞ」
食べる算段をぶつぶつ言っている。
(今。自分が置かれている状況はどうなっているんだ?)
蛇は周りを見る。
(あれはスラりん。あのままか)
まず分かったのはスラりん。少し離れていて思い出している前と体勢は変わっていない。ただ俯いていて動いた気配はない。
(次にスラぽん)
次にスラぽんである。蛇の目の前で大量の汗を浮き出している。冷や汗をかいているのか?さっきの声が怖がっていた様に感じたので蛇は察した。
(そして脇にいる女性)
蛇の脇にいる低い声の女性。この声で思いに耽ってしまったのである。
(メイド服。体つきはがっちりしてる。うん?)
蛇が女性の体を見ていると気になるところが、
(足が義足。金属だ)
女性の両足が金属の義足である。
(戦いに生きる者か)
義足は最近ではなくて使い込まれている。義足とメイド服。似合わない取り合わせである。
「さて。もう限界だ!先にスライムを食べるか」
きゅー!きゅー!
女性が前に動く。蛇もスラぽんに近づく。スラぽんの声が一段と怖がっている。蛇は自分が女性の手で握られているのが分かった。
「これだけ大きいスライム。蛇はいらないかな」
ポイ。
「わっ!」
女性は蛇を後ろに放り投げたのである。ごみを捨てるように。
「あいつめ!」
蛇は怒っている。食べられなくなった安心感よりもスラぽんに負けたことの自尊心が傷つけられたのに怒っているのである。女性から離れてしまい、
「いただきます」
女性が手を合わせて食べる挨拶をする。
きゅー!きゅー!
スラぽんのの焦る叫びがする。しかし、
(シャルは悲しむだろうな)
蛇はスラぽんが食べられると決めつけた。
(ここからじゃ間に合わない)
(スラぽん?だっけ。成仏しろよ。次に生まれ変われるなら、スライム以外に生まれろよ。スラりんに会ったのがお前の命取りになったのだから)
蛇はスラぽんの方を向いて頭を下げた。経験から助けに間に合わないと判断した。スラりんにスライムとして会わなければと思いながら祈っている。
(でも。本当にスライムって食べれるの?)
蛇は顔を傾げる。聞いたことないので
(チャレンジャーだな)
感心してしまった。
きゅー!きゅー!
女性が両手でスラぽんを持ち上げて口に入れようとする。そのままガブリと噛むつもりだ。嬉しそうな女性。スラぽんは大量に汗を出して叫ぶ。どうなる?何回も言っているよ。
「スラーーーーーーぽーーーんさん!りん」
俯いて動かなかったスラりんの絶叫が響く。
ぴょーん。
絶叫し終わると、スラぽんの所へ大きくうさぎ跳び一回で着いて
「あっちの方からいい匂いがするりん。頼んで入れてもらって、一緒に食べて契りを交わそうりん」
スラりんがスラぽんを女性から取り上げて言う。
きゅー。きゅー。
「こっちりん」
スラりんは匂いがした方へ向きを変える。向きの先は村である。
「じゃあ思い立ったら行くりん。スライムは軽いのが取り柄りん」
スラぽんを手に持ってうさぎ跳びで村の方へ跳んで行く。
「ちょっと待て!私も仲間に入れてもらえないか」
スラぽんを食べ損ねた女性がスラりんたちの後を追って走って行った。
「頼む!」
追っているスラりんに叫びながら頼んでいる。
「何だ?」
一匹ポツンと置かれた蛇。あっという間の出来事に頭が追いつかない。
「スラりんの行動はしょうがないけど、あの女性は何なんだ?」
あの懐かしい映像を出させた女性。あの女性と似た声と雰囲気をして、それなりの戦士と思っていたのに、
「こんなオチでいいのかよ」
蛇はため息を吐く。締まりのない終わりに
(あれだけドタバタして、この終わり方。このもやもやはどうすればいいのかよ!)
心の中で訴える。蛇は夜空を見上げて、
「今日も終わるな。色々あった一日が、疲れた」
くたびれ顔で言った。全部スラりんのせいだ!と思いながら、
「行きますか」
仕方ないと割りきって、蛇もスラりんたちを追って村へ向かった。蛇の背中は疲れが見える。ご苦労様。ママりん。