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また、もう一度だけ、この場所で…  作者: 雲乃宇宙
chapter 2 ~a Summer Story~
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第2幕 【それぞれの想い、その先に…】 / 第5節

 ――その後、親戚の家にて海水浴の準備を整えた俺らは、海水浴を楽しむために美浜海岸へ。まずは水着に着替えるため、海岸に設けられているコンクリート造りの更衣室前で二手に別れた。


「大輔さ~、お前もうちょっとリラックスしたら? 緊張するのは仕方ないんだろうけど、傍から見ている俺にまで緊張が伝わってくるぞ?」


 トランクス型の海水パンツの紐を結びながら、俺はさりげなく大輔に言った。


「そ、それは分かってるんだけど…。朝からずっと愛美ちゃんを変に意識しちまって、うまく自然体が保てねーんだよ…。あれっ、普段の俺ってどんな感じだっけ?」


(――ダメだ。こいつ、完全にテンパってやがる…)


「はぁ…。大輔、ちょっと背中貸せ」


「ん? あ、あぁ…。別にいいけど、お前いったい何を――――」


 ――バチン‼


「痛って―――‼」


 大輔は更衣室内に響き渡るほどの大声をあげ、じりじりと赤くなった背中を抑えながら、その場に小さくうずくまる。

 幸い、更衣室を利用しているのが俺たち二人だけだったため、周りからの視線はなんとか回避できた。


「歩夢く~ん。今、大輔君の大きな声が聞こえた気がしたんだけど、大丈夫~?」


 向かい側の女性用の更衣室から、愛美の心配そうな声が聞こえてきた。


「あぁ、問題ない。気にしないでくれ」


 赤くなった背中を必死に手で押さえ、うずくまっている大輔の代わりに、俺は端的な受け答えをした。


「くっ…、何が、問題ない、だよ…。歩夢、お前っ…、よくもっ――――」


 俺はそんな苦悶の表情を浮かべている大輔の横にしゃがみ込み、


「お前ならきっと大丈夫だ! 説得力はないかもしれないけど、幼馴染の俺が言うんだから間違いないって。だから、今は気持ち切り替えて、素直に海水浴を楽しもうぜ。

 せっかくの貴重な旅行なんだから、お前も含めて一人一人の思い出に深く残るような楽しい旅にしないともったいないだろ?」


と、大輔の肩にそっと手を置き、俺なりの言葉で励ました。


「――…。あぁ、分かった。心配かけてすまなかった、おかげで気持ちが吹っ切れたよ。ありがとな、歩夢!」


そう言って、大輔はゆっくりと顔をあげた。大輔の表情からはさっきまで抱えていた不安や緊張が消え去り、いつもの彼に戻っていた。


(うん、これでもう大丈夫だな…)


 そんな大輔を見て、俺が安堵の表情を浮かべた時、


「まぁ、それはそれとして、当然覚悟はできてるんだよな、歩夢? 人の背中に思いっきり自分の手形を刻み込んでおいて、まさか自分だけ無傷で済まそうなんて、そんな縁起のいい話があるわけねーもんな?」


 大輔は急にニヤッと不敵な笑みを受けべている。


「えっ…!? いやっ、俺はただ不安がっているお前に気合を入れようとしただけで、さっきのは不可抗力っつーか、なんつーか…」


「言い訳無用!」


 ――バチン‼


「痛って―――‼」




「二人とも、おっ待たせ――――‼」


 俺と大輔が先に着替えを済ませ、更衣室近くのベンチに寄りかかっていると、後ろから耳を塞ぎたくなるような愛美の元気な声が響いた。


「おっ、ようやく来たか。思いのほか時間がかかってたみたいだけど、何か―――…」


 そう言って後ろを振り返った俺は、思わず言葉に詰まってしまった。


 ――それは、望海と愛美がお揃いの水着を(まと)っていたから。


 上はフリルのついた黄色いビキニに、下はデニムのホットパンツ。その水着の上に白いラッシュガードパーカーを羽織っている。横並びの二人の姿は、まるで仲の良い姉妹を連想させた。


「へぇ~、今どき友達同士でペアルックの水着とか珍しいね。にしても二人とも、すごく似合ってるよ。まるで姉妹みたいだね」


 大輔は探偵のように下顎に指を軽く当て、愛美と望海の水着姿を交互に見つめる。


「そう言ってもらえると、お世辞でもすごく嬉しいよ~。大輔君、ありがと!」


 大輔の反応に、愛美はニコニコと嬉しそうに笑みを(こぼ)す。


「えっ、いやいや、お世辞なんてそんな…。俺はただ思ったことを素直に口に出しただけだよ。ちなみに、二人のその水着はどこで買ったの?」


「えへへ、ホントに! う~んと、それはね―――…」


 それから、愛美と大輔は楽しそうに話し始めた。


「――んっ、歩夢、どうかした?」


 そんな二人の会話をよそに、ポカンと口を軽く開けて呆然としている俺を見て、望海が腰に手を当てながら不思議そうに首をかしげる。


「どうかしたって、それはこっちのセリフだっての! お前ら、この歳でペアルックの水着って、いくら仲がいいとはいえど、これはさすがにやりすぎじゃねーのか?」


「あぁ、これの事ね。ってか、歩夢たちも人の事言える義理なの? あんたたちの背中、赤い手形の跡がいいかんじにペアルックになってるじゃない?」


 望海は俺と大輔の背中を見比べて、ふふっと小さく笑みを溢す。


「もしかして、さっき更衣室で聞こえたあんたたちの悲鳴の件と何か関係あるとか?」


「ま、まぁ、いろいろあったんだよ、いろいろ…。別に好きでこうなったわけじゃねーから、そこは誤解すんなよ? んで、そういうお前らはどういう理由なんだよ」


「ウチら? あ~、え~っと、話せば少し長くなるのだけど…」


 そう言って、望海はなぜか困惑した表情を浮かべ、頬を人差し指でポリポリと掻きながら説明を始めた。




 ――望海によると、事の発端は一週間前の部活帰りでのこと。練習を早めに切り上げた愛美と望海は二人で地元のデパートへ、海水浴に備えて新着の水着を購入しに行ったらしい。


「それじゃあ愛美、三十分後に噴水の前に集合ね?」


「りょ~かい!」


 そして、そこで二人はそれぞれ水着を選ぶ予定だったのが、その水着選びでトラブルが発生した。


「お~い、望海ちゃん! ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」


「?」


 それは、愛美が急に水着をペアルックにしようと言い出したこと。なんでも愛美は姉妹がおらず、それ故に幼いころからペアルックにずっと憧れていたらしい。

 しかし、実の姉妹でもないのにペアルックを着ることに抵抗を感じた望海は、別々の水着を選ぶように愛美をなんとか説得しようと努めた。


 ――が、予想以上に意志の固い愛美を前に、望海がやむなく折れたという…。



「――そっか、お前らのペアルック姿の裏にはそんなことが…。それは大変だったな」


「そうなのよ~。自分で言うのもなんだけど、まさかウチが根負けするとは思わなかったわ…。

 でも、結果的に愛美がウチとペアルックの水着を着れてすごく嬉しそうにしてたから、今思えばウチはあの時一緒に買ってよかったかなって」


 望海は右手を首の後ろ側に軽くあて、少し恥ずかしそうに苦笑い。


「――…。まぁお前自身が納得してんなら、俺は全然いいんだけどさ。ちなみに、お前って兄弟姉妹はいるんだっけ?」


「ん、いないわよ、昔からず~っと一人っ子。だから、ウチも幼いころは『お姉ちゃんか妹が欲しいな』って毎日のように思ってた時期もあってさ。

 なんかこうして愛美を見てると、ああいう無邪気で可愛い妹がいたらよかったな~、なんて今さら思ってみたりして…」


 不意に呟いた望海のその言葉に、俺は思わず目を丸くする。


(へ~、コイツってこんな意外な一面もあったのか…)


「何よ? そんなに物珍しいものを見るような顔をして。ウチ、何か変なことでも言った?」


「いやっ、お前にもそういう可愛いとこもあるんだな~と思ってさ。普段のお前はそういうイメージが無いから、なんか意外だったっつーか…」


 すると、望海は急に顔を赤くして、


「――なっ‼ きゅ、急に変なこと言わないでよ! 失礼ね、ウチにだってそういうとこの一つや二つ、当然あるに決まってるじゃない!」


 声を大きく張り上げた。耳の先まで赤くなり、今にも湯気が立ち昇りそうな望海を見て、俺はとっさに口元を押さえて笑いをこらえた。


「ちょっ、歩夢! いったいウチの何がそんなにおかしいっていうのよ?」


「あははっ、ゴメンゴメン。望海が急にトマトみたいに顔を赤らめてとり乱すもんだから、ついな。まぁそんなに怒るなって。俺は望海のそういう一面もいいと思うぜ」


「――…。ふんっ!」


 望海は腕を組み、ぷいっとそっぽを向いた。


(あ、あれ~…。なんか俺、マズいことでも言ったかな…?)



「お~い! 望海ちゃん、歩夢君、早く早く~!」



 ――望海とそんな話をしていると、遠くから愛美の声が聞こえた。


「そうそう。時間も限られてることだし、立話はそれくらいにして、こっちに来て早くみんなで遊ぼうぜ~!」


 気がつけば、愛美と大輔が向こうの浅瀬で手を振っている。


「あれっ、アイツら、いつの間に! んじゃ、俺らも行くか」


「うん、そうだね。せっかく海に来たんだから、心ゆくまで満喫しないともったいないし」


「だな!」


 そう言って、俺と望海は勢いよく二人の元へ駆け出した。




 ――それから、俺らは太陽がギラギラと照りつける炎天下の中で、心ゆくまで海水浴を楽しんだ。イルカの浮き輪をレンタルして、浅瀬で水遊びをした後、砂浜でビーチバレーやら、ビーチに備えつけられていたスラックラインやら。


 愛美の提案で男女ペアに分かれ、愛美の持参したシャベルやバケツを使って、本格的な砂の城を作って完成度を競ったりもした。



 こうして誰かと一緒に遊んだり、心の底から笑い合ったりしたのはいつ以来だっただろう。

(つぐ)()がいなくなってから、俺は周りの友達は(おろ)か、大輔ともほとんど遊ぶことがなくなって…。

 いつも自分の殻に閉じこもってばかりで、気がつけば俺の周りから人がいなくなっていたんだ。


 本当はそれがとても寂しくて。でも、その一方で誰かを傷つけ、失うことが怖くて。そんな葛藤(かっとう)を胸の内に抱えながら素直になることを忘れ、“強がり”という盾を常に身につけて俺はずっと生きてきた。


 だからこそ思う。心を許せる誰かと一緒にいることって、こんなに楽しいものだったんだな―――


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