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神宮寺家の女たち  作者: もんじゃ
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第4話


 「……なんで風呂に入っている男の裸を覗くんですか?」と正座する二人に俺は問い詰める。


 「……創さん、これには深い訳があるのです……」と紅花さんが話し始める。どんな訳だよと黙って聞いていたら


 「……我が神宮寺家の女には『殿方の裸を見よ』と言う家訓があるのです!」


 と堂々と言った。あぁ、想像以上に変態の家だったのかと白い目をしていたら、「……勘違いしないでくださいね?」と月香さんが横から話し始める。


 「……神宮寺の家は女性を守ることを信条としています。神宮寺の武術も本来は男性より力が弱い女性が身を護るために伝えられたものなんです。それに昔は、女性は今より立場が弱く、自由が無かった……外では善い顔をする男性が家では酷いことをしたり、着飾った権力のある男性の本質は外道だったり……」


 「……ですから着飾った色男、権力者、お金持ち……その本質を見るためには、その人が何も持ってない素の状態を見て男を選べ、殿方の裸の状態を見ろ……というのが家訓の始めなんです」


 と説明してきた。


 「……それなら理解できますが……本当に裸を覗くのは家訓とはズレているのでは?」と聞いたら


 「……憲法だって解釈次第じゃないですか……」と月香さんは目を反らしながら言う、やっぱり変態の家系なのか?


 「……まぁ、良いですけど。そういえば、お兄さんじゃなく紅花さんが当主になったのも神宮寺家は女性を重んじるって理由ですか?」


 と聞いたら「ふふ、単純に私が兄よりも強かったからですよ」と紅花さんは笑う。


 「……創さん、ここだけの話ですよ?神宮寺の家には、燕さんも習っている表の業、そして身内にしか伝えられていない裏の業。あと、もう一つ『神宮寺の家でも女だけにしか伝えられてない業』があるのです」


 なるほど、その三つの業が神宮寺家に相伝されているものなのだな、紅花さんのお兄さんは二つしか教わってないから当主を決める立合いで負けたのかもしれない。


 「……この前、紅花さんが助太刀してくれた時もその業を使っていたんですか?今とは別人の様に全然違いますよね?」と俺が何の気なしに言ったら二人の表情が固まった。


 「……なんで、そう思ったんですか?」と紅花さんが笑みを消して言う、その表情には少し凄みを感じる。


 「……気配でわかりますよ」としか言えない。あの時は紛れもなく『化け物』だと思ったが、今はただの『強者』としか感じられない。あの時の紅花さんは、俺のような力を上げるスイッチとは別物の『変質』した姿をしていたから……多分、神宮寺の女性だけに相伝された業ってのは武術の技術ではなく、秘匿された『薬』の類いだと推測した。何段階か上にまで能力を強引に引き上げる……そんな推理を話したら紅花さんも月香さんも感心したような顔をする。


 「……流石です、お父様と血は争えないですわ」と紅花さんが言う。


 「……紅花さん、この前は助けていただき、ありがとうございました」


 と俺は改めて頭を下げ


 「……その薬にはどんな副作用があるんですか?そんな強力な薬にリスクがないわけないですよね?」と俺は確認したいと尋ねたら、紅花さんは言うのを少し躊躇うも、俺の顔を見て諦めたように


 「……寿命を縮めます」


 と言った。顔も知らない俺のクラスメートを助けるために命を削る薬を使用してまで来てくれた。


 「……紅花さん、なんでそこまでしてくれたんですか?」


 と俺が顔を歪めながら尋ねたら


 「……もし、私が薬の副作用を恐れ、躊躇った為に……一生、心に残る傷を負う女性がいたら嫌じゃないですか」


 と、笑いながら言う紅花さんは美しかった。そして、その母親の在り方を誇りに思う月香さん……二人に敬意を持った俺は


 「……はぁ、汗をかいたし、食事まで時間があるならお風呂に入らせて貰おうかな?」


 と言った。紅花さんの勇気ある行動にはどんな感謝を示せばわからない。俺の裸で喜んで貰えるなら道化になっても構わない、裸踊りでもなんでもするかという気持ちになった。どうせ小便 用のホースを見られるぐらいの恥だ。


 「良いのですか!?お背中を流しに行きますよ!?許されるなら前も洗いますよ!?じっくり観察させていただきますよ!?」


 と、紅花さんと月香さんが共に興奮しながら言うので


 「……洗うのは背中だけでお願いします。あと、あんまりジロジロ見ないで欲しいです……」と自分の発言を少し後悔した。


 

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