二番隊副隊長ジーク・ラインフリート
王国騎士の朝は早い。特に隊長ともなれば尚更だ。
俺、ジーク・ラインフリートには、王国騎士団の二番隊副隊長として、隊長を補佐する役目がある。
目覚まし時計は四時にセット。無論二度寝などあり得ない。まだ窓の外が暗いうちから動き出す。ベッドから出て服を着て、部屋を出る。
アリナ隊長にふさわしい副隊長にならねばならない。
彼女は王国最強の騎士だ。
歴代最年少での入団に始まり、数多の武功を上げて来た英雄、アリナ・セロコーク。
入団以前にはスラム街での荒くれどもを片っ端から叩きのめし、入団直後には森林地帯のオークの群れ掃討作戦にも参加。最も多くのオークを討伐したと表彰されてもいる。
他にも、物理攻撃が効かないと騎士団が手を焼いていた大型スライムの単独撃破、五番隊の魔術化学研究への実験協力、北海の大型触手モンスターの討伐……等々。
特に大きな功績は、これだろう。
廊下の壁に掛けられた武器のひとつ━━銃を見る。
巨大植物型モンスターが大量に生育する湿地帯での激戦を経て、アリナ隊長が持ち帰った特殊な材料から、魔術化学を統括する五番隊が総力を上げて生み出したアイテム『火薬』。それを最大限活用するという方向性で、アリナ隊長の発想を元に開発されたのが、この『銃』である。
これが開発されたことにより、戦争の形は変化しようとしていた。
剣と槍で繰り広げられ、少数の魔法使いが鍵を握るという旧来の戦争形態において、魔法使いでなくとも遠距離攻撃を可能とする銃の存在は革命的だった。
新設された騎士団十番隊を中心に、日夜銃を取り入れた戦略が研究されている。
完成に至るまで、アリナ隊長が果たした役目も大きい。
例えば、無数の試作品を使用した実験に参加したのは彼女だけだった。
火薬は使い方を誤れば人体など木っ端微塵にしてしまう危険物。隊長格といえども迂闊には近寄れない。そんな中、アリナ隊長だけは試作品実験に率先して参加し、何度も起こる暴発にも耐えて見せた。
俺としてはもう少しご自分の体を大切にして欲しいと思うのだが……。
ああ、そうだ。
彼女を語るのに欠かせないエピソードがあった。
それは、銃専門の部隊である十番隊新設を決める会議の場。
「千年の伝統ある騎士団に新たな部隊を新設するなどあり得ない」「そもそも我々は剣を以て戦ってきた。じゅう?など不要だ」「離れた場所に攻撃するなら、魔法が既にあるだろう」
とのたまうお偉方へ一歩も引かず
「千年間一歩も前へ進まなかった怠惰を伝統と言い換えて悦に入っているだけ」「五番隊の魔法使い達は日々激務に追われ限界だ」「確かに伝統は重んじるべきだろうが、それに囚われて発展を逃すのは言語道断」「何より、他国が火薬を使い始めたらどうするのか」
並の騎士ならいざ知らず、アリナ隊長は王国最強。上げた武功は数知れず。現場を知らずに口だけ挟むのが得意なお偉方も、今回は勝てなかった。当然だ。
おっと、思い出に浸るのもほどほどにしなくては。
急ごう。
騎士寮を出て城下町の南、広大な平野へと繋がる門の前に急ぐ。
街は少しずつ目覚め始めていた。市場を横切ると、商人が店を開く準備をしている。襤褸を纏う浮浪者と擦れ違った。旅人や行商人が旅の支度を進めている。
どこかで鶏の鳴く声がした。
やがて、門の前へとたどり着く。
到着したのと同じタイミングで、ズズズ……と重い音を立てながら、巨大な門が開かれた。
「おはようございます、隊長!」
「ああ、おはよう」
ランニングから帰って来たアリナ隊長だった。
「そちらは?」
「魔物化したウサギだよ。狙撃の自主練も兼ねて狩ってきた」
常に研鑽を欠かさない……流石だ!
「今日の予定は?」
「我々二番隊は六番隊と共同で王都の守護ですね」
「六番隊か……」
「何か問題が……はっ、またザルバの奴が!」
「いや、何でもない。それとザルバ『隊長』だ」
「すいません……」
六番隊は、隊長のザルバ・ランスロを筆頭に銃の採用を最後まで反対していた部隊だ。
多少の苦手意識があって当然だろう。向こうも事あるごとに二番隊を目の敵にしてくる。
「はぁ……ザルバ隊長のことが苦手なのは仕方ないが、それと任務は別だ。王都の警備。ミスのひとつもしてはならない。隊員達にも言い聞かせておくように」
「了解です」
気に食わない相手であろうと公私を分けて接することができる。やはり隊長は素晴らしい人だ。
「今日も一日頑張りましょう!」
「ああ、頑張っていこう」
なんでも、火薬はもともと媚薬だったという説があり、古代中国の皇帝が作らせていた惚れ薬が、実験中に爆発し、今日のような使用方法が見つかったとか
【ステータス】
ジーク・ラインフリート
攻撃力B 耐久力B 敏捷性A
技能A 魔力C 特殊戦闘力E
特記事項『剣術・火剣流』