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彼女はまだ敗北を知らない

 

 生まれ変わったらゴブリンの群れに辱しめられダブルピースをキメる王国最強の女騎士になりたい。


 それが、35年のサラリーマン人生で見つけた私の願いだった。


 なので、騎士の時代のヨーロッパ的ファンタジー異世界に転生して美少女になった時はめちゃくちゃ嬉しかった。


 今の私の名前は、アリナ・セロコ━ク。

 千年の歴史を誇るラウンズ王国で、騎士を務めている。

 前世の記憶を思い出したのは三歳のころ。スラム街で転び頭を打った時だった。

 それから私は鍛練を積み、十五歳で王国騎士団へ入った。なんでも、十五歳での入団は、騎士団史上最年少だったらしい。

 夢である王国最強を目指して三歳から十五歳まで、ひたすら鍛えに鍛えたのが功を奏したのだろう。

 やがて帝国との戦争にも駆り出され、戦果をあげて、生き残り、昇進。


 十八歳で隊長の座を手に入れ、更に武功を上げ、とうとう念願かなって、ゴブリン討伐の任務が下された。


 嬉しかった。とても嬉しかった。

 緩む頬を理性でなんとか押さえつけながら、私は「ゴブリン程度、私一人で殲滅してきましょう」と宣言した。


 私の破滅願望は私だけのものだ。

 ゴブリンの一匹、一本たりとも、他のものに渡してたまるか。


 即行で準備を整え、私は辺境の地のゴブリン討伐へと向かった。



 そして全滅させてしまった。



「……こんなはずじゃなかったのに」



 あえて軽装で巣穴に入ったところは良かった。

 罠に掛かって、全身に鎖を巻かれ、身動きを封じられるのも計算内。

 その場で辱しめを受けるのではなく、ゴブリンの長の前に引きずり出されたのは予想外だったが、ただそこまではなんの問題もなかった。

 想定が狂ったのはここから。

 ぐへへへへ……と涎を垂らし、悪臭と欲望を放ちながら近付いてくるゴブリンの長。ゴブリンとは思えない程の、はち切れんばかりの筋肉と巨大な体は、暴力的な生命力を感じさせた。

 胸が高まる。呼吸が早まる。

 いよいよだ。ようやくだ。ここが私の破滅の地━━━


 テンションが最高潮にまで上がって。



「ぐへへへ……いい女だ。他のメスどもとは違うようだな……。人間ってのは皆、柔らかいのは良いが脆すぎる。だが、お前は違いそうだ……!」

「やっやめろ、触るな!」



 力の加減を忘れてしまった私は、嫌がる振りをするつもりが、思わず力を込めすぎてしまい、体を拘束する鎖を引きちぎったのだった。

 千切られた鎖の破片は、弾丸のように四方八方へ飛び散る。

 そのうちひとつが、長の片目を深く抉った。



「うがああああああ!!??な、何をする貴様ァッ!!」

「あ、いや、そんなつもりでは」



 痛みと驚愕と怒りから我を忘れて襲い掛かる長。

 私はつい咄嗟に後退りしてしまう。

 そして、地面の凹みに足を取られて転び、右足がゴブリンの長の顎に当たった。


 力の加減を忘れてしまっていた私の右足は、王国最強の力を存分に発揮した。


 ゴブリンの長の頭が、風船でも割れるように木っ端微塵に砕けてしまったのだった。



「━━━━━あ」



 また、言えなかった。



「また、くっ殺せって言えなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」



 そこからは覚えていない。

 悲しみと怒りに身を任せて暴れまわったのだろうか。

 気が付いたらゴブリン達が全滅していた。

 呆然と立ち尽くしていると、声が聞こえた。



「無事ですか!アリナ隊長!」

「……ジークか」



 私の率いる隊の部下達が駆けつけたようだった。



「いきなり一人で飛び出さないでください!ゴブリンは危険な種族なんですから!奴らは見た目によらず力もあるし、何より狡猾でありざん……ぎゃ、く……」



 言葉が途切れる。

 目の前のゴブリンの死骸の山に気付いたのだろう。



「心配してくれてありがとう。私は良い副官を持った」

「……まさか全滅させたのですか!?この巣穴のゴブリン達を!?……流石です隊長!!やはり貴方のニ番隊に入れて良かった!!」

「……ジーク副隊長、後の片付けは任せて良いかな?少し疲れてしまった」

「はい!!お任せください!!」



 部下の騎士達にゴブリンの死骸や巣穴の処理を任せて、その場を離れる。

 森の中を歩くと、大きな岩があった。



「ふぅ━━━━」



 溜め息をついてから、その岩を殴り付ける。

 大岩は腐った果実のように弾けとんだ。

 別に本気で殴ったわけじゃないのに。



 私は強くなりすぎた。

 強い人間が格下にその尊厳を辱しめられるというシチュエーションが好きだったから、自分自身で体験するために強さを求めただけなのに。

 気付けば、スラム街の腕自慢にも、屈強で凶悪なトロルやオークにも、服を溶かすスライムにも、そしてゴブリンにすら負けない存在に成り果ててしまっていた。

 媚薬や魔法の類いも効かない体を得てしまっていた。



「こんなはずじゃなかったのにちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



 アリナ・セロコーク、18歳。

 私はまだ、敗北ダブルピースを知らない。




【ステータス】

アリナ・セロコーク

攻撃力EX 耐久力EX 敏捷性EX

技能EX 魔力E 特殊戦闘力E

特記事項『軍勢・二番隊』『無剣流』『転生』『━━』



攻撃力 攻撃能力の総合値。

耐久力 防御力、体力、精神力、継戦能力等の総合値。

敏捷性 移動速度や身のこなし、反射速度の総合値。

技能 有する技術の数と練度の総合値。

魔力 有する魔力の量。

特殊戦闘力 魔法や道具の使用、戦闘を行う地形など、最適なシチュエーションを考慮した場合の戦闘力。低いほど安定しており、高いほどムラがある。

特記事項 記しておくべき特殊な装備品や技能。要はスキル。



ゴブリンの長

攻撃力A 耐久力A 敏捷性D

技能D 魔力B 特殊戦闘力(軍団指揮)A

特記事項『軍勢・ゴブリン軍団』

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