0095
帝城皇帝専用執務室
リハージ王国の国王であるクリストファー王との会談が終わり、今はその会談をしていた部屋にいたスーラと皇帝に呼ばれて来たメロアが部屋にいる。
「さてスーラよ」
「何でございましょう」
「間違いはないのだな?」
「間違いないかと」
メロアの目の前で繰り広げられる意味不明な会話に聡明なメロアでさえその会話の意図に悩む。
「メロアよ。お前をここに呼んだのは此度の会談で十分と言ってもいいほどの成果を上げたからだ」
「それは大変喜ばしいことでございます」
「我ですら思わず笑みがこぼれそうになってしまった。スーラ説明してやれ」
「はい。メロア様もご存じの通り私には他人の感情をある程度は読むことが可能です」
スーラは魔眼を使わなくとも、相手の目の動きや些細な顔の動きなどである程度は感情を読むことが可能なのだ。もちろん百%というわけでもないだろうが、今のところは外れたことがない。
「陛下が黒雷と言う名前だしたほんの一瞬ですが、後ろにいた執事が人一倍反応しておりました。ケイという名前を出した時にもクリストファー王が反応していたので黒雷はケイ、という名前でしょう」
メロアはスーラのことを本当に恐ろしいものだと思いながらも、黒雷を脳内で特定する。
「神が我に微笑んでいるようだな。神なんぞに感謝するつもりもないが天に向かって魔法の一発でも撃っておこう」
もちろんこの世界で天に向かって魔法を撃つことは神に対する感謝のしるしというわけでもない。
「えぇ全くです。たまたま王都に潜入していた部隊の者が黒雷と接触していようとは」
「そしてまさかその黒雷を連れてきてくれるとはな」
皇帝の顔が再び笑みに変わり、殺気とも言わぬ圧が部屋を包む。
黒雷と接触した者は、王国で開かれた大会で優勝したケイという人物に目をつけており、接触に成功。戦争でどれほどの戦果を出すかによって帝国軍に勧誘しようとしていたのだが、予想外の超戦力だったために転移魔法で軍と共に帝国に転移。そして情報がメロアにまで届いたということだ。
「私が魔眼で見た執事の保有魔力量は一般人より少し多い程度でしたが、魔道具を持っているわけでもないので保有している魔法の効果だと予測します」
魔道具は魔力で動いているため、もし魔道具を持っていればスーラの魔眼で見えてしまうのだ。
「ではどういたしましょうか?」
「どうとは?」
「拘束、殺害、洗脳などがありますが」
「では一つ聞くがそれは我に効くものか?」
「……失礼を承知の上で申し上げると無いことはございません」
「ほぉ?」
「我が帝国の神機を使えば全く問題ないかと……」
「……ふむ。確かにそうだが、あれは本当に神機なのか?」
「神機と呼ぶに値する物であるのは間違いありません」
「効果は?」
「魔道具名は盲信する愚者です。対象者を指定した一人に絶対的な忠誠心を抱かせ、裏切る心配も全くございません」
「盲信する愚者の能力が切れたことは過去にあるか?」
「切れたことはないですが、防がれたことはあります」
「神機を防ぐ?」
「過去にバレンが空間魔法によって発動された魔法自体を別の空間に飛ばしたことによって防いだ記録があります」
「初代皇帝と同じ化け物は例外だ」
「陛下の言う通り例外でいいかと。それ以外では防がれた記録はございません」
「盲信する愚者の通用を許可する」
「有難うございます。して、どこで使いましょうか?」
「二日後にある帝国魔法学園訪問で使うのはいかがでしょうか?クリストファー王がレイスタン聖王国に狙われているようですのでそれに乗じて使うのはいかがでしょう」
「学園での生徒の演習ですがレイスタン聖王国の暗殺者を使った演習にするつもりでございます。生徒たちには口外しないように魔法を使った契約をしておりますので情報が洩れる心配もございません」
「それならいいだろう。学園の主席がレイスタン聖王国の犬に負けているようではまた学園の制度を変えなければならない」
「三年生の生徒達は既に盗賊討伐などで人を殺すことに戸惑いはないようにしています。敵も少し強めの死刑囚だと話しているので負ける心配は無いかと」
「ならば何も問題はないな」
「もちろんです」
「あぁ!実に楽しみだ!!」
日本とあるバス内
「いやー久しぶりだねー」
「そうね。早く会いたいわね」
「彩芽姉最初になんて言うの?」
「久しぶり、かしら」
「えーじゃあ私抱き着いちゃおっかなー」
「な!駄目よ!」
「何でー?」
「え、それは……」
「じゃあほっぺにチュウでもしてあげれば?」
「……」
「え、そんなに顔赤くなる?」
「もう!見ないで!」
一人の彩芽と呼ばれた女性が隣にいた女性にからかわれて、顔を隠すようにバスの床を見る。
「え?」
バスの床には円形の中に複数の記号のようなものが浮かび上がっており、それが空中に浮かんで光を発する。
「あれ、彩芽姉。私夢でも見てるのかな」
妹が私に喋りかけてくるのと同時にバス内は光に包まれ、光が消えた後のバス内には誰も残っていなかった。
レイスタン聖王国聖城中央塔
「あれ……ここは?」
「おい!急いで守護者様達に伝えてこい!勇者が召喚された!」
「了解しました!」
横になっていた体を起こし、周りを見てみる。真っ白の壁に複数の鎧を着た人たちがいる。何かのドッキリだろうか?
「あれ、彩芽姉私……」
横を見てみると横になっていた妹が体を起こしており、他にも横になっていた人たちが何人か体を起こしている。
「芽衣!」
「あれー私何で寝てたの?というかここどこ?」
「それが私もさっき目を覚ましたのよ」
「ドッキリ……?」
「私もそうだと思うけれど」
芽衣が次の言葉を言おうとすると、扉がバンッ!と開かれる。
「どうやら本当のようだな。そろそろリハージ王国に偽物の彫刻魔方陣を掴まされたのかと疑い始めるところだったぞ」
入ってきた男は真っ白の鎧にマントをつけており、金髪だ。瞳の色は赤色であり、芽衣や彩芽のいる国では見ることがない。そしてその男が私たちに近づき、目の前でひざまずく。
「ようこそ我が国においでくださいました勇者様方。私はレイスタン聖王国守護者が一人。剣聖、シュヴァートでございます。もう少しで教皇様がいらっしゃいますのでもう少しお待ちください」
「は、はい。わかりました」
そしてシュヴァートと名乗る男の言った通り、直ぐに別の人が入ってきた。今度は女性であり、服装は先ほどのシュヴァートと同様真っ白の服だ。
「初めまして勇者様方。遠くの異界から召喚に応じていただき誠にありがとうございます」
女性が頭を下げるが、何のことかわからない私たちは周りを見る。大人の男の人や女の人もいるが何のことかわからないのか困惑している様子だ。
「困惑されるのも仕方がありません。何か質問したいことがあればしていただいて構いません」
女性がそういうと、スーツを着た男の人が質問をする。
「えっとまずここはどこなんでしょうか?」
ここにいるおそらく日本人であろう人たちが皆思っている疑問を聞いてくれる。
「ここはアッテラと言われる星の原大陸と呼ばれる大陸にあるレイスタン聖王国です。私はそこで教皇をしており、今回貴方達をこの世界に呼ばせていただきました」
「は、はぁ……ではここがその…別の世界?だとして帰る方法はありますよね?」
「今はまだございません……」
「え!?どうゆうことなんですか!!」
「理論上は彫刻魔方陣で元の異界に勇者様達を帰すことは可能だとは分かっているのですが、帰すとなると元の異界の魔力を辿らなければいけないのでこの国にいる人たちを総合した魔力よりもさらに魔力が必要になり、しかもそれをたった一人でしか補えないのですから机上の空論となっています……」
「私たちは…帰れないんですか……?」
「とてつもない苦労が必要ですが、勇者様方の誰か一人が成長し、さきほど述べたほどの保有魔力量に達すれば帰れるかもしれません」
「あの~僕も聞きたいんですけど先ほどからおっしゃっている魔力とか魔方陣の意味が分からないんですけど…」
「それはですね、シュヴァート」
「はい」
シュヴァートが手のひらを上にして手を前に出すと、黄色に燃える火の玉が出てきた。
「これが魔法と呼ばれるものです。この世界には魔物や亜人、魔法や錬金術があります。皆様も使えると思いますのでステータスと唱えてみてください」
「【ステータス】」
芽衣が隣で唱えていたので、私も唱えてみる。
「【ステータス】」
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名前 ユウキ アヤメ
種族 人間
年齢 17
レベル 1
ジョブ 魔法使い
ジョブ履歴
体力 150
攻撃力 20
知識 100
MP 120
物理耐性 10
魔法耐性 30
幸運 13
スキル
火魔法Ⅼv1
水魔法Ⅼv1
封印魔法Ⅼv1
ユニークスキル
リコルドの加護小
魔法演算Ⅼv1
超記憶Ⅼv1
神眼Ⅼv1
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これはいいのかしら?
「スキル、という場所に書いてある物は皆さまが使える魔法です。魔法は広い場所で使う方が危険が少ないので今は使わないでください。では皆さまずっとこの部屋にいるわけにもいきませんので別の部屋に移動いたしましょう」
周りの人たちが困惑しながらも女性についていくので、私たちも同じように困惑しながら部屋を後にした。
この世界の情報
神機 現在の魔法学ではほぼ再現不可能な魔道具、または神に作られた魔道具
盲信する愚者 対象者を一人に絶対的な忠誠心を抱き、裏切らない手駒にする魔道具
レイスタン聖王国
聖城 空中に浮いているため転移門でしか入ることができず、五つの塔と城壁で構成されている
剣聖 聖王国守護者の一人であり、聖城を守っている。複数の魔剣を持っており、それら全てを使いこなす