0093
今日は二回目の投稿です。
0093
神域
「セルレイ様」
いつもどうり五つの銀河の管理をしていたセルレイだが、今日は珍しい客が来た。
「どうしたのだヴァーデス」
セルレイに声をかけたのは、冥界、魂、死を司る神ヴァーデスであった。彼は普段は自分の管理する冥界という名の界域おり、そこから出てくることはほとんどない。千年に一回でも出てくれば多い方だ。
「このようなことを聞くのもおかしいかもしれないのですがもうすでにアッテラでの勇者の召喚は行われてますよね?」
不思議なことを聞いてくるものだとセルレイは思った。勇者召喚に最も深く関わっているのは魂を司るヴァーデスであるのだ。
「そなたの方が知っているであろう。既にアッテラでの勇者召喚は行われた」
セルレイがそう答えると、ヴァーデスが白い顔を顰める。
「えぇ、そのはずなのですが再び勇者が召喚される兆しがございます」
「なに?原大陸でか?」
「その通りです。魔大陸の方かと思い確認いたしましたが原大陸で間違いありませんでした」
「……どこの国だ」
セルレイは複数の銀河、惑星を管理しているがその世界の情報は全て頭に入っている。特別なスキルによる能力などではなく地力だ。
「残念なことにレイスタン聖王国です」
「それは誠か?」
「間違いございません」
確かに勇者を他国が召喚してはならない等の神によって定められた法は無いが、それでも原大陸では暗黙の了解となっている。
「教皇は世界の記憶に記されている記録を読んでいないのか?」
ワールドメモリーとは、神が何千年も前に作ったものであり、原大陸の中心に存在している。その土地はどこの国にも属しておらず、どこの国にも攻められることはない。この大陸でワールドメモリーが設置されている土地を奪おうと軍を差し向ければ、直ぐにその国の周辺国家の軍が攻め入ってくる。それはこの大陸に国が生まれると同時に結ばれるワールドメモリー管理団体によって協定を結ばされる。ワールドメモリー管理団体は戦力を一切持っておらず、本当に管理するだけの団体なのだ。
そしてワールドメモリーと言われるものだが、一般的に国民も知っている。能力だが、ワールドメモリーが神に作られてから世界で起こったこと全てが記されている巨大な球体だ。記されているといっても触れさえすれば知りたい情報がすべて知られる。そして最悪の歴史。近頃で言えば魔剣戦争や小国郡で行われている戦争などもそうだろう。そしてもちろん勇者によって世界の半分以上が使えなくなったことも記されている。そしてそれらの歴史は、ほとんどの大国では書物として国王や教皇であれば直ぐに読めるようになっている。
「あの時はどれほどの勇者の数であったか……」
「およそ一億です。異国の遠征中の軍や教育機関などの生徒を無理やりこちらに連れてきていたので異国の関係者たちの記憶を消すのに手間取ったのが懐かしいです」
「一億か……あの時の召喚の中で最も強かったのは誰だ?」
「セルレイ様が知っているではありませんか」
ヴァーデスの言葉に、少し思い出すような素振りをすると思い出したのかセルレイが声を出す。
「あぁそうであったな。では…少しまずいかも知れぬな」
「呼び出すのは魔力が安定している日本という場所でよいですか?」
「召喚を取り消すことはできぬのか?」
「不可能でしょう。どこで手に入れたのか知りませぬが魔方陣はリハージ王国にある魔方陣と全く一緒であり、完璧と言っても問題ないほどです。魔法は既に発動しておりますが、何とかこちらで召喚を引き延ばしているような状態です」
この話を始めてから何度目かはわからないが、セルレイが眉を顰める。
「………記憶神に加護を渡させるか」
「ある程度は制御が効くでしょう。ですが魔方陣は全く一緒のものですので、複数召喚になっています」
「戦神にも加護を渡させろ。あまり渡しすぎると制御が効いたとして力が制御できなくなる」
「では二神の加護を召喚者に渡し、召喚場所は日本で召喚いたします」
「それでいいだろう」
「では失礼いたします」
ヴァーデスが黒い霧に包まれると、黒い霧が消えヴァーデスの姿は消えた。
「勇者召喚が二度目か……」
新しく生まれた悩みの種をどう解決するかセルレイは思考をフル回転させる。
今回の勇者召喚は久しぶりに当たりと言っても問題ない。ここ二千年原大陸にいる魔王すら倒せていない。我の加護を与えた勇者も確かに強いがラヒネが加護を与えた者が非常に期待できる。しかし魔族になってしまったため神に至ることができてしまった場合邪神側の神になってしまう可能性が高い。それだけは避けねば……魔族から人間か亜人に変わった記録はこの世界では何個か例があるがいずれも凶悪犯罪者となって牢獄に収監されている。強くなるのは一向に構わないが寿命が二百年を超えてしまう人間がいるのが問題だな。……しかし我は神故創造神様がお創りになった世界を乱すわけにもいない。全く。困ったものだ。
「神だからこそ分かる。神というのは決して万能ではない」
この世界の情報
魂 この世界にも魂というものはあるとされており、蘇生魔法は魂を神域から呼び戻す魔法と言われている
冥界 ヴァーデスの界域であり、ヴァーデスにしか作ることのできない界域。地界で罪を犯したものを時間魔法や幻覚魔法などを使って苦しめ、十分な苦しみを与えたのならば地界に転生させる
日本 セルレイが管理している銀河にの中の惑星にある国。惑星の中でも大気中の魔素が非常に安定しているため、召喚をしたとしても空間に穴が開くなどの問題が起こらない
原大陸 現在ケイ達がいる大陸であり、魔王が一人だけいる大陸
魔大陸 魔王が五人いるとされ、原大陸の生物のほとんどは魔大陸がどうなっているのかは知らない
冥界神 冥界や死、魂などといった畏怖されるような物たちの神であるために、呪術魔法や即死魔法などの象徴になることが多いが、魂の神でもあるために蘇生魔法を扱うものにも信仰されている
記憶神 記憶、算術の神であり、頭の良さは神の中でもずば抜けている。ワールドメモリーにも関わっており、魔法学者等に信仰されている
ワールドメモリー 神に作られてからアッテラの歴史を記録し続けている神機
神機 神が作ったとされる魔道具のこと
ワールドメモリー管理団体 ワールドメモリーを管理している団体であり、戦力を一切持たない。
スキル説明
呪術魔法 復讐心、憎悪、殺意などといった標的を恨む気持ちがあれば発動することができる魔法。しかし、ほとんどの場合は標的を殺すも膨大な魔力を吸い取られ術者も死ぬために呪術魔法と言われている
即死魔法 ほとんどが格下相手にしか発動できない魔法であり、死神、冥界神等死に関連する神などは使える者が多い。地界でも使える者はいるが、即死魔法は結界や膨大な魔力をぶつけただけでも壊れるために非常に使い勝手が悪い