0086
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「それで?結局何の用事だったんだ?」
宿屋に戻ってくると、クリスが何の用事で呼ばれたのか聞いてきた。
「内容は言えないが暫くみんなと会えなくなる」
「どういうことだ?」
「それは言えない。言ったら俺の首が胴体と泣き別れになる」
エリオットやクリスはこの言葉でケイが何かの王命を受けており、内容を言ったならば死刑になるということを理解した。
「ならば仕方ないだろう。と言っても私も暫くは皆と会えなくなるがな」
「え?クリスはなんでなんだい?」
「帝都の学園に呼ばれてな。しばらくそこで講師をするんだ」
「なんでクリスが学園に講師として呼ばれるのよ」
「昔私も学園に通っていてな。どうやら帝国が今回の戦争で負けたからと学園の受け入れ人数を増やすようなのでな。私は臨時講師と言ったところだ」
「えー帝国僕も行きたいーー」
「別に私についてきてもよいぞ?何なら私が取り合って講師の席を設けてもいい。エリオットほどの腕があれば問題ないだろう」
「え、いいの!?やったーー!!」
「明々後日には向かうからな。準備をしておけ」
「了解!」
「じゃあ残るのはルカとネラだけか」
「はい。ケイさん。私こいつと一緒は嫌です。どうにかしてください」
「えぇーーいいじゃねぇかよー」
「嫌です」
「ならエリオットとクリスの契約魔物としてついていけばいいじゃねぇか」
「別に私は困らないな。泊まる部屋も無駄にあると言っていたし連れて行ってもいいぞ?」
「じゃあ私はクリスの契約魔物ということで」
「女同士仲良くしようじゃないか」
「えぇ。よろしく」
「じゃあ俺はエリオットだな!」
「よろしくね!」
「よし。これなら全員問題ないな」
「ケイはいつ行くんだ?」
「俺はもう行く。荷物も特にないからな」
「え!?ケイさんもういなくなっちゃうんですか!?」
ルカが大量に頼んだのであろう料理を運んできたスイが驚きの声を上げる。
「そうなんだ。折角部屋を取ったのに悪いな」
「い、いえ。それはいいんですけど……」
「んーそうだな。ネラその服はいつも着てるのか?」
「は、はい。そうですけど」
「なら少しだけ落書きをしてもいいか?」
「いいですよ」
スイの服にケイの手が触れると、スイの衣装の肩の部分の黒い魔方陣が現れる。ケイが普段使っている闇魔法の魔方陣だ。
「嫌だったら消すが……」
「そんなことないですよ!ありがとうございます!」
「喜んでもらえたのならよかった」
「かっこいいじゃねぇか!」
「僕も似合ってると思うよー」
ケイは内心では中二病だな。と思っていたがこの世界ではケイのセンスはいいのかもしれない。
「じゃあ俺は行く」
「先にヘリサスに帰ってきたのなら副ギルマスに一声かけてくれ」
「おう、わかった」
「殺されるんじゃねぇーぞー」
「冗談にならねぇよ!」
そしてケイは手に持っていた転移師からもらった魔道具に魔力を込める。魔力を込めると、目の前に先ほどの転移師が転移で現れる。
「お迎えに上がりました」
「行くか」
「はい」
「じゃあな」
その言葉を聞くと、宿屋からケイの姿は消えた。
「さーて。僕も帝都に行く準備をするかなー」
「私はまだ仕事があるからな。ギルドに戻るとしよう」
「じゃあ俺はネラと模擬戦しとくわ」
「ふざけんじゃないわよ!あんたらギルドの練習場で戦えないからって魔素の森に行っては木々を吹き飛ばしてるじゃない!」
「あ、それについてだが私からも言わせてくれ。戦うのは私としてもいいとは思うがランクの低い冒険者から苦情が来ていてな。何故か森の気が一部全くなかったり倒木の量が異常なそうだ。それに薬草もあまりとれなくなっていて魔物も奥に行かないと出なくなってしまったようなんだ」
「へーそうなのね」
ネラがジト目でルカを見る。
「ちょ、ちょっと気を吹き飛ばしただけじゃねぇか…」
「あとケイもだろうが森の中を全力で走っただろ」
「走ってたわね」
「異常に土が掘り返されており、木々が何かが通ったかのような後とともに折れていました。何か異常な力を持つ魔物がいるとされます。これが調査させた冒険者からの報告書だ」
「完全にあんたらね」
「くっ!」
「今度からはカテリ平原の方でやったほうがいい。あそこなら何もないし魔物もいない。私たちが帰ってくる頃にはカテリ平原も使えるようになっているだろう」
「今度からはそうするかー」
「そうしてくれ」
~~~~~~~~~~
「案外早かったな」
転移すると、目の前には戦士長がいる。
「冒険者ですのでもともと荷物はあまり持っておりません」
ケイの場合は荷物をいくら持っていようが渦の中に突っ込めばいいだけなのだが、言わない方がいいだろう。
「なるほど。てっきり空間魔法で収納しているのかと思ったがそうゆうわけでもないのだな」
「はい」
「さて、ケイ。お前には執事としての研修を受けてもらうつもりだったが受けなくていい」
「どうゆうことでしょうか?」
「魔道具を使う」
「なるほど」
戦士長の後ろにある机の上には、一冊の本がある。
「執事長」
「はい」
「執事長にもこの魔道具を使ってもらう。使い方はわかるな?」
「理解しております。使ってよろしいので?」
「いい。国王様から許可が出ている」
「承知いたしました」
執事長が机の上にあった本を手に取る。すると、勝手にページが次々と開かれていき、止まる。開いたページには、魔方陣が二つ書いてある。そして、ページを開いたまま机の上に置く。
「ケイさん。申し訳ないのですがこちらの魔方陣に左手を置いてはもらえないでしょうか?」
「ああ、わかった」
執事長が左のページに手を置き、ケイが右のページに手を置く。すると本に書いてあった魔方陣が動き出す。魔方陣が二人の腕を囲むように、立体魔方陣になる。魔方陣が薄く光ると、立体魔方陣が本の中に戻っていく。
「特に問題はなく機能したな。執事長。服はすぐに用意できるか?」
「はい。すぐにでも」
執事長が手を横に動かすと、一人メイドが執事長の横に並ぶ。
「ケイ。メイドたちについて行って部屋で着替えてこい」
「はい。わかりました」
ケイはメイドについていき、鏡や色いろいろな香水がおいてある部屋に入る。そして中に入ると、部屋の中にいたメイドたちが服を脱がしてくる。
は!?ちょ、え!?!?いやいやいや待てよ。確か昔の貴族はメイドたちに着替えさせていたというが……。
「じ、自分で着替えるから大丈夫だが……」
「いえいえ、これも私たちメイドの仕事ですので」
暫くし、部屋からケイが出てくる。表面上は意識分裂を使っているので特に何も感じていないように見えるが、内心はそうでもない。
これは現代日本人にはきつい……。
現代日本人からすると、見ず知らずの女の人に服を着替えさせられるというのはやはり精神的に来るものがある。そして今のケイは普段来ている黒い鎧から、執事長が来ていたような執事服になっている。
「うむ。目つき以外は立派な執事だな」
おぉー……目つきのこと久しぶりに言われた。
「ですが執事としての技能は無いにも等しいのですが……」
「それは問題ない」
さきほどのメイドたちが、カートに何かを乗せてやってくる。
「珈琲を淹れてみろ。まずくても許す」
「わ、わかりました」
珈琲なんて一度も作ったことがないのでどうやったらいいかわからない。と思っていたが、手がまるで最初からどうすればいいか知っていたかのように動き出す。暫く体に任せて動かすと、自分でもいい匂いだとわかる珈琲ができた。そこからコーヒーカップに珈琲を入れる。
「どうぞ」
戦士長の前に珈琲を置くと、戦士長がコーヒーカップを手に取り珈琲を飲む。
「うむ。やはり美味いな。執事長にも一杯淹れてやれ」
「はい」
もう一つのコーヒーカップに珈琲を入れ、執事長の前に置く。執事長は香りを嗅ぐと、口をつける。
「これは私が淹れた珈琲とほぼ一緒ですね。流石バレン様がお作りになられた魔道具です」
「と、いうことだ。お前には執事長のスキルを使っての技がスキルを使えずとも技が使えるようになったというわけだ」
「なるほど。ありがとうございます」
「気にするな。これからお前には国王様の護衛をするのだ。常に近くにいてもらわねば困るからな」
「ご期待にこたえられるように誠心誠意やらせていただきます」
「よし、今日はこの程度だ。この後は特に何かあるわけでもない。執事長に案内してもらい自分の部屋に行け。その服だが、お前の部屋にもあと二着あるから荷物に入れておけ。帝都に行くのは明後日だ。転移で向かう」
「了解いたしました」
「ではケイ様。案内いたします」
「ありがとうございます」
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部屋に残った戦士長は一人で思うころがあった。
う~む。有能すぎるのも困ったものだな。出来れば血族は欲しいところだが……。
そう思いながら先ほどのケイが帰ってきたときに隣にいたメイドの顔を思い出す。
見事に惚けていたな。それほど見事な筋肉だったのだろうか?顔もそこまで悪くはないからな。貴族のご令嬢をあてがうのも良いかもしれんな。
「国王様に進言してみるか……?」