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「さて、竜騎団長。今回の戦争での被害は?」


ケイが転移で来た部屋には、今回の戦争の追加情報などをを知らせるためにもう一度王国竜騎団長なども交えて会議を始める。


「はっ人的損害ですが、特に一回り大きな二体の竜による被害が一番かと」

「黒雷が倒した二匹か」

「そうです」


黒雷という二つ名は国王がつけたものであり、それが次第にメイドや執事などを伝って国民にもケイは黒雷と認知されるようになる。


「ここでは邪竜と呼ばせていただきます」


邪竜というのは、邪悪なドラゴンという意味であるが、下位ドラゴンなどが人里を荒らしまわっているのであれば邪竜。古龍などの上位ドラゴンであれば邪龍となる。この場合は王国の領土を侵そうとするドラゴンという意味であり、上位ドラゴンであるかもわからないために、特に問題はない。


「邪竜の被害が特にひどいのは後方部隊の魔法師などです。死傷者数は約一万二千人ほどです。帝国幹部の二人による被害ですが、カルロが三千。ライアーが六千にも及ぶ死傷者を出しています。今回の戦争での戦死者は三万以上かと」


二十七万もの戦力を投入し、正面から殴り合って三万の被害とはこの世界でも滅多に、それこそ聖女のいる国ではないと起こりえないようなことだ。ここまで被害がなかったのはやはり超短期間の戦争であったというのが一番の理由だろう


「メルシーで蘇生は可能か?」

「可能ですが邪竜に殺されてしまった死体は先に浄化が必要なようです」

「なに?」

「どうやら殺されたものは呪われるようでして、死体を見たところ肩が少し焼けているだけで死んでいる者もおりました。ですので先に聖職者に浄化させ、その間に別の者たちを蘇生させたほうがいいでしょう」

「その死体に触れて呪いが移るようなことは?」

「囚人で試したところございませんでした」

「ならよかろう。できるだけ早く皆を蘇生するようにメルシーに伝えろ」

「わかりました」


メルシーというのはリハージ王国の第一王女である。メルシーはフィーナとは違い、回復魔法にとてつもない適性があった。十代にはなるころには複数人の蘇生を可能とし、今となっては二千人ほどの大規模蘇生が可能となった。フィーナは空間の天使と呼ばれるが、メルシーは王国の聖女と呼ばれている。


「破損した武器などですが、大規模魔法砲が十二門破壊され、特に痛ましいのは調教していた魔物の損失です。未だ魔物の損失数はわかっていませんが騎魔兵の蘇生はあきらめたほうが良いかもしれません」

「それは仕方なかろう。もう一度調教するとなれば莫大な資金がかかる。そんな無理を言って財務大臣を過労死させるわけにもいかぬからな」

「それはありがたいですな。家族サービスもできるというものです」

「財務大臣には申し訳ないのですが、ドラゴンの調教費を増やしてはいただけませぬか?」

「ほう。それは貴方が竜騎団長であるから王国竜騎団を優遇してほしいと言っているようにも聞こえますが?」

「そういうわけではありません。確かに騎魔兵も強力ですが、それに比べるとやはり竜騎兵の方が強力。もちろん覚醒級を何体も従えていらっしゃる騎魔部隊長殿には我が部隊でも敵うかわからないでしょう」

「私は特に竜騎兵のドラゴンを蘇生するのに異論はない。ただ、数体の魔物の調教費だけ出してほしい」

「何体蘇生されるつもりですか?」

「三体だ。私が貸していた王級の魔物だからな。王級程度死んでもいいが、やはり繁殖を持っていると惜しい」

「三体の王級程度なら問題ないでしょう」

「では、魔物の損害への対処もこれで決定ということで。詳しくは書類で後日出させていただきます」

「よい。竜騎団長よ。座ってくれ」

「はっ」

「さて、これが一番の問題だが、帝国のことに関してだ。そなた等の意見を聞きたい」

「宰相の私から言わせてもらいますと、常識的に考えて非常に危険かと」

「常識的な神経をしている者であれば皆そう言います。戦争で自国が叩き潰した国に国王様自ら行くなど暗殺してくれと言っているようなものです」

「しかし断るという選択肢もないのであろう?」


国王がそう言うと、皆が黙る。断るという選択肢が初めからないことが分かっているからだ。


「黒雷の護衛の取り付けには成功したがそれで完全に安全とは言い切れぬが仕方あるまい。絶対に安全なところなどないのだからな」

「出向はいつをお考えで?」

「早ければ早いほどいいと思っているがケイを見習い執事程度までにするのは暫くの時間が必要であろう」

「では国王様。才能掌握(タレントグラァスプ)をお使いになっては?」

「対象は?」

「執事長でよいのではないでしょうか?執事長ほどの技能を身に着けたのであればどこに出しても問題ありますまい」

「執事のスキルといえば家事に作法や給仕などですから覚えられても特に問題はありません」

「執事の服はあるか?」

「あの完璧執事長ですから今頃服を発注しているでしょう」

「いやしかしあの目は他のメイドたちが驚くのでは?」

「それは仕方ないだろう。執事にも探せばいないこともないだろうが珍しいと思ってもらうほかない」

「では使者にいつ出向すると伝えますか?」

「このところ何か用事はあったか?」

「いえ、ありません」

「ならば明後日でよかろう。会食は断っておいてくれ」

「わかりました」

「向かうのは転移か?」

「使者が我が帝国の転移師に任せてほしいと言っておりますが」

「……了解したといっておけ」

「よろしいので?」

「相手は帝国なのだ。帝国から攻めてきたのならば仕方なく応戦するがこちらから攻めるつもりは一切無い。できるだけ相手の意に沿った行動をするほうがいいだろう。また攻めてこられてはかなわん」

「では、王城の目の前で転移しますか?」

「いや、城門でいい。大通りを馬車で通った方が一つのイベントとなるであろ?」

「国王様が通るとなれば国民皆が大通りに出てくるでしょう」

「ならば騎士たちに大通りを整備させておきましょう」

「では私は諜報部隊を借りて噂をばら撒きましょう。国王様が帝国に行くなどという噂であれば国民全員の耳に直ぐに届くでしょう。騎士たちが夜に結界を張っていれば更に信憑性は高まるというものです」

「しかし貴族派閥が黙っていますかね。賠償の会談であるのに国王様自ら行くなどどうゆう考えだなどと突っかかってこられたら非常に面倒です」

「なに、本当の目的は友好関係の構築だと帝国の使者も言っていたではないか。そのままそういえばいいのだ」

「帝国と友好国になったのであれば仮想敵国はレイスタン聖王国だけとなりますな」

「セルレイ様を信仰するのはいいのだが聖戦(ジ・アー)などというものを政治的に通用されては困るどころの問題ではないですからね」

「周りが一気に敵国になり攻めてくるのだ。悪夢も良いところだ」


ジ・アーというのは聖王国を完全な善とし、敵国を完全な悪と断じるようなものだ。どの国でもほとんどがセルレイ教を信仰しており、王国にもセルレイ教を信仰する者たちが数多くいる。その全員が反旗を翻したとなると国が二つに割れ、周辺国家から精鋭の軍が送られてくるとなるともはや悪夢でもなく地獄だ。


「それに我が国はただでさえ数千万の亜人を抱え込んでいますからね。いつ攻められるかわかったものじゃありませんでした」

「そこに帝国が味方になるなど心強いどころではない」


何回も言うが帝国は完全な実力至上主義であり、神に祈って加護を得ようとするのであれば鍛錬し、神に祈って病を治そうとするならば自らの手で薬草を取りに行くような人しか住んでいないのだ。神に祈ったことのない人なんてごまんといるだろう。もちろん皇帝もそうであり、聖戦という名目で帝国に手を挙げたのならば幹部たちに領土の四方八方から攻め込まれるのが分かっている。聖王国の隣の国はさぞ迷惑だろうが、帝国と戦争をするならば聖王国を売った方が王としては懸命だ。


「こちらからの要求を同盟にしたら飲んでくれるのでは?」

「しかし賠償金は必要になる。魔物を集め調教せねばならんのだ。兵たちも蘇生はするとはいえレベルも下がっている。直ぐに実戦にでも投入できるような兵を育てなければ」

「陸軍元帥がそういうのであれば海軍元帥としても賠償金は必要だと異議を唱えさせていただきます。現在の我が王国の戦艦の数は二十四隻であり、泥沼化している小国郡の戦艦保有数にも劣ります。できれば戦艦の数を増やしたいと思っております」

「それは検討するとしよう。まさか小国郡の戦艦保有数より少ないとは予想外であったな」

「しかしあれは異常としか言えますまい。週に一隻を作るなど相当な錬金術師に鍛冶屋、魔道具師の数が必要です。土からアダマンタイトを作る方針をとっているのもあのあたりだけです」

「普通ならば鉱山から掘る方が効率的なのだがな……」

「作った数なら余裕で百隻を超えるでしょう。あそこの近くにはドワーフとエルフの国がありますからな。技術者を雇っているのでしょう」

「この国であの地獄の様な戦争を三年も続けられるか?」

「無理でしょう。まず蘇生が間に合いませんし、蘇生したとしても弱くなった兵士達。次々と無くなっていく食糧。どう考えても無理ですね」

「エルフとドワーフか……」

「そうでしょうね。食料を急成長させ、資材などは土から作り、魔石などは敵戦艦から奪い、ドワーフたちに戦艦を作らせる。これの繰り返しでしょう」

「あのあたりの国では蘇生できぬほどまで傷つかなければ無事という頭のおかしい思想のやつらしかいない」

「特攻は流石にさせていないようですがあれは死兵といってもいいでしょう。死ぬことを全く恐れないのだから」

「呼吸か心臓が止まったら強制転移して蘇生。そして再び前線行き。地獄といっても差し支えはないでしょう」

「我が王国がそのような地獄ではなくて安心した」

「全くです」


ふ、(キーボード)が乗っているΣ(・ω・ノ)ノ!

この世界の情報

聖戦      聖王国の教皇が発令するもの。唐突に来るものであり、神託によって神から教皇に伝えられる

亜人      魔族でもなく、人間でもない獣人やエルフを指す言葉

アダマンタイト 天然でとれる鉱山の中では二位の硬さを持つ。魔力、物理への耐性もあり加工も容易

小国郡     この世界では島々の国が集まっている地帯を指す言葉。現在は泥沼化してきており、海が主戦場であるために海軍の規模が非常に大きい国が多い

戦艦      地球とは違い、魔法で動いている。結界も張られているため、地球の戦艦の大砲程度の威力では無傷

リハージ王国の情報

空間の天使     空間魔法が得意なことや、その非常に麗しい見た目からフィーナがつけられた二つ名

王国の聖女     蘇生魔法などの回復系統の魔法が得意なことからメルシーがつけられた二つ名

タレントグラァスプ 二人で通用する魔道具であり、片方の才能スキルを取得せずにもう片方が全く同じように使うことができる

財務大臣      リハージ王国の資金を運用する第一人者

騎魔部隊長     騎魔部隊の長。覚醒級を何体も使役しており、上位覚醒級も使役していると噂されている

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