0079
0079
帝国帝城
帝城の一室では、幹部全員がそろっていた。そこにはもちろん皇帝もいる。その部屋の皇帝の目の前には空中に浮く画像がある。これは、空中に飛ばしている魔道具を通して視ている。幹部がそれぞれ各国の動きや、研究成果などを語り合っていると皇帝の隣にいたメロアが皇帝にしゃべりかける。
「陛下」
「なんだ」
「王国軍の上空に謎の魔力を持った生物が転移してきた可能性が高いとスーラからです」
スーラとは、帝国幹部ではないが皇帝が知っているほどの人物だ。スーラが帝国幹部になれないのは単純に国を破壊するほどの力がないからだ。それでも中隊規模の相手であれば無傷で生還するだろうが。それも含めて他国であれば確実に超重要人物となりえるだろう。過去の話になるが、スーラは生まれた時は遠見の魔眼しかもっていないと思われていた。生まれたころは遠くが見えるだけだったが、成長していくにつれて他人の体の中の魔力がどう流れているのかまでがわかるようになり、更に見たものを魔法すら止められるようにり、十七では見たものを崩壊させるまでに至った。これにより帝国軍お抱えの魔眼専門家に見てもらうと、なんと遠見の魔眼。魔力の魔眼。停止の魔眼。崩壊の魔眼を持っていることが判明した。そしてなんとスーラは四つ纏めて発動することができると専門家に言うと、専門家は気絶したそうだ。遠見の魔眼は探せば持っている者もいるが、ほかの三つは国に十人もいればいい方だ。が、停止の魔眼でも魔法を止められるものはほとんどおらず、魔力の魔眼でも流れまで見える者はほとんどいない。崩壊の魔眼に至っては椅子の一つでも崩壊させられるだけでいい方だが、誤って初めて崩壊の魔眼を使ったときは他人の家を崩壊させた。その天才の中の天才のさらに天才と言ってもいいほどのスーラだ。当たり前だが皇帝も知っている。
「その程度で報告をするなといっておけ」
だが、転移魔法は国との国との戦争では見かけない方が少ない。その程度報告するほどのことでもない。
「いえ、しかしその者の保有魔力量はどうやら幹部に匹敵するようでして……」
「エリオットではないのか?」
「私の覚えている限りではエリオットは空を飛ぶ方法を持っていません。そしてなによりその者が漆黒の鎧を着ているようで、連れが一人いるようです」
「連れも幹部級か?」
「いえ、幹部ほどではないですが準幹部級にギリギリ届く程度の保有魔力量のようです」
「魔道具を操っている者に伝えろ。漆黒の鎧を着ている二人を見つけろと」
「承知いたしました」
王国にはそれほどの者はエリオット以外にいなかったはずだが……。よもやその者がカレラの言っていた死を司る魔物を従えるものかもしれんな。
皇帝がメロアからの報告で思考にふけっていると、画面が動き出した。帝国軍の上空には空を覆う魔法陣。これは帝国軍の開戦の合図のようなものだ。もちろんこの程度の魔法で吹き飛ぶほどリハージ王国も軟ではない。二十七万というあっとうてきなかずの軍全てを囲うほどの結界が出現し、魔法を全て防ぐ。そして結界が解除され、帝国軍が進軍を開始する。過去の戦争ではそのまま結界を張っている国もあったが、幹部三名が全力で殴ると結界全てが砕け散ったという。画面をよく見てみると、結界の外側に魔法によって堀ができてしまっているが、カルロもいれば優秀な土魔法使いがいるために、直ぐに埋まる。
「ライアー達はこのままヘリサスまで攻め込んでしまうのではないか?」
「いや、さすがにそれは無理でしょう。どうやら今回王国は闇の賢者に助けを求めたようですから」
「儂も無理じゃと思うがな。帝国陸軍のトップとして言わせてもらうが数もそれほどの差はない。いくら質や練度が勝っていようとある程度の被害は免れん」
「それはもちろんわかっている。一人も死なぬ戦争など最早虐殺だ」
「えーだけど前潰した二国を落とす時だって一人も死ななかったし虐殺じゃない?」
「あれは戦争とは言っとらんじゃろ。勝手にあっちが勘違いしただけじゃ」
「じゃあ今回は公に戦争って言ってるから戦争なの?」
「そうじゃなぁ。簡単にいえば儂ら帝国とまともに戦えれば戦争。そして無理ならば、幹部の一人すら抑えられぬのであればそれは虐殺となるだろう」
「それほとんど虐殺ってことじゃない?」
「それはどうじゃろうな」
「少なくとも今回はまともな戦争になりそうだぞ」
今まで話し合っていたものが画面を見ると、帝国のワイバーンやドラゴンが次々と謎の魔物に落とされていく。
「む、私の記憶にこのような魔物はいないな。新種か?」
「私の記憶だとフライスネイクがこんな感じじゃなかったかしら?」
「希少種か変異種か」
「使役されているじゃろうな。帝国のワイバーンにしか攻撃しとらんからな」
新種の魔物を捉えている魔道具から、漆黒の鎧を着た二人に視点が変わる。その二人は次々と帝国の兵士を殺していく。まるでいつもの自分たちのようだと幹部たちは思う。
「この二人が上空に転移してきたものたちだと思われます」
「こんな奴ら王国にいたっけ?」
「いないはずだ。王国騎士団長も戦士長もこのような鎧ではなかった」
「やとわれた冒険者かな?」
「その可能性が一番高かろう」
「だが翼と尻尾がある。悪魔ではないのか?」
「悪魔が人間に協力するとは考えにくいだろう……。しかも魔族領からリハージ王国までどれだけ離れていると思っている」
「転移の可能性も十分考えられるんじゃないー?」
「いえ、まず翼を出す程度であれば魔法もあるのだけど、尻尾を生やす魔法は記憶にないし、兜の角も本物かどうかわからないのよね」
新たに王国に出現した幹部級の者について議論していると、画面に動きがある。二人が急に上空に飛び、王国軍と帝国軍が戦っている前線に向かっている。そして視点が前線に変わる。ひときわ目立っているのは帝国の呪竜二体。ブレスを吐けば地面が黒くなり、人が焼却炉に入れたゴミのように燃えていく。そこに先ほどの二人が現れる。片方が別の鎌を取り出し、呪竜に二匹に向かって突っ込んでいく。訓練通りに魔力に気づき、ブレスをはく。
「あら」
「ほぉブレスを切るか」
「儂とは違う原理じゃろうな」
そしてそのまま攻撃するが、結界を張り防ぐ。そして敵はいったん下がる。その間にもう一体の呪竜が強化系の魔道具をすべて使い、攻撃する。これを正面から食らえば帝国幹部でも重傷を負う可能性がある者もいる。
「確実に準幹部級だな」
「同意じゃ」
が、漆黒の鎧は全力の呪竜のブレスすら切り裂いた。流石に騎手達も準幹部級だとわかったのか、撤退しようとする。そこにとどめを刺すように魔法を発動し、その魔法は呪竜にあたるが特に何も起こらない。
「きっとデバフ付きだったんでしょうね。呪いでデバフ完全耐性をつけておいてよかったわね」
「だけど逃げ切れられないと思うけどなー」
すると予想どうり後ろにいたもう一人の敵が何かの魔法を発動する。
「立体魔方陣ね」
そして呪竜の周りに数多の武器が現れる。
「呪竜は今何体いたか」
「約七十だ。そのうち実戦に投入できるのは半分以下だ」
「中々の損害になりそうだな」
「そうだな。しかもあの二人は俺が指揮してる部隊でも熟練だったはずだ」
そして幹部たちの予想どうり呪竜たちは武器にくし刺しにされ、落ちていく。
「呪竜部隊の救援要請でカレオが向かいました」
「カレオか……。さしなら強いんじゃがのう」
そしてその二人はカレオとの戦闘になる。
「この子中々すごいわね。二百ぐらいかしら?」
カレオは、とてつもない数の魔法陣に囲まれ、白銀の槍を手に取る。
「まぁ仕方ないな。あいつの持ってる魔法だとあれでしか対処できんだろうからな」
「あの魔方陣の数も見せかけだけかと思ったけどそんなことなかったね」
カレオの完全迎撃に弾かれた矢は、地面をえぐっている。そのことから半端な魔力が込められているわけではないことわかる。
「やはり攻めかねるか」
「あれウザイだけじゃなくて破壊もできないから嫌いなんだよねー」
すると、空中に魔方陣ではなく影の渦のようなものが現れる。
「魔法陣……ではないな……」
魔方陣でないと分かると、渦の中から先ほどの魔物たちが出てくる。
「まさかあいつ一人でこの量を使役していると…?」
「いえ…待って。あの魔物というか魔法に覚えがあるわ。確かシャドウモンスター。自らの手で殺した生物を影にして操る影魔法の魔法だったはず」
「ほう。つまりあの量を生み出せるほどの魔力があると?」
「それはあり得ません。スーラの報告からするとあれほどの数を生み出せるほどの魔力はないはずです」
「じゃあなんでかしら…?」
「だがこれでカルロの負けはほぼ確定だろう。いくら白銀の鎖でもあの数をさばくことはできない」
「闇の賢者とエリオットの相手をさせていたライアーが急行中とのことです」
「ライアーならもんだいないじゃろう。脳筋を極めた者は恐ろしいからのう」
「あいつ首吹っ飛んでも心臓取り出しても一分以内にくっつければ問題ないとか言ってんだもん。人間の姿だけしか人間の要素ないよ」
「それが事実だから恐ろしいのよねぇ」
「自分で心臓に雷魔法使って蘇生してるらしいね。僕も何回か死刑囚で試してみたんだけど中々うまくいかないんだよねあれ」
画面ではすでにカレオがライアーに抱えられている。
[ガタッ]
「陛下?」
今までずっと無言で画面を見ていた皇帝が椅子から立ち上がる。そして振り返り、扉の方を向くと、複数ある手にはめているリングの一つに触れる。
「一体どちらへ?」
「なに。少し殺り合ってくるだけだ」
「あいつにそこまでの価値があるとは思えませんが」
「その価値を決めるのは我だ」
部屋を殺気が包む。幹部ともあればその程度で怯えることもないが扉にいた兵士たちから鎧の震える音が聞こえる。
「では転移魔法使いを準備させておきます」
その言葉はもし負けるようなことがあれば我ら幹部が飛んでいきますということだ。いつもならば侮辱しているのかというところだったが、今は気分がいい。
「よい」
「はっ!ではいってらっしゃいませ」
幹部たちが立ち上がり、皇帝に頭を下げる。皇帝の目の前に光が現れ、それをくぐると皇帝の姿は消えていく。
「あーいっちゃった」
「あのお方なら大丈夫じゃろう」
「もし負けたらどうするの?」
幹部としてはあり合えない発言に、他国の者が聞いたら直ぐに口を手で塞ぐだろう。
「流石に冗談が過ぎるぞ」
「聞かれてたら首飛んでたかな?」
「そうではない。あのお方が負けるということだ。そんなことはあり得ない。もしあるとするならば神すら殺すことのできる魔神くらいだろう」
その言葉に幹部たちは深く頷いた。
あれ?最近更新の調子がいいぞ?……やば、フラグ立った。
リベルタイン帝国の情報
スーラ 非常に希少な魔眼四つ持ちであり、魔眼一つ一つのレベルも高い
アルベール 帝国幹部の一柱。帝国海軍元帥であり、水魔法を得意としている。今までの記録では(不明)を起こしたとの記録まである
ゼオン 帝国幹部の一柱。帝国陸軍元帥であり、剣ではない異国の武器を使うらしい。数年ではあるが夜阿ノ國に行っていたことがあるようだ
ヘルム 帝国幹部の一柱。帝国魔道具開発のトップであり、子供でありながらもその天才っぷりを発揮している
ユーリウス 帝国幹部の一柱。帝国騎魔隊のトップであり、ドラゴンはもちろんのこと(不明)体に上る魔物を使役しているといわれる
エルファ 帝国幹部の一柱。帝国魔法部隊長であり、(不明)を使うことが可能。魔力をすべてつぎ込み、魔力を一時間ほど動かずに貯めると都市を結界事吹きとばせることが可能といわれている