0078
呪竜部隊から救援要請が来るなんぞ何の冗談かと思ったが……。
「まさか俺が来るまでの数分で二匹とも死ぬとはなー」
横を見ると、大きなドラゴンと兵士二人が死んでおり、その下でも何人も死んでいるだろう。そして呪竜がこんなにいともたやすくやられるとは。帝国幹部カルロは、幹部なだけに呪竜の強さを知っている。呪竜は帝国の複数あるうちの切り札の一枚だといってもいい。それだけに、その存在を知っている者は少数の大国の上層部だけだ。帝国の情報管理能力のおかげもあるが、一番の理由はやはり戦争で少しでも戦力を知ろうと他国が空に飛ばしている魔道具事接敵した敵国軍を全てを壊滅させていたからだろう。そのため対策など取られるはずもない。ということは、地力で負けたのだ。
「確かに準幹部級だな」
カルロは魔法使いではないものの、微かに発している魔力を見ることができる。そして微かにしか感じることのできないカルロでも大量に魔力が見える。それはとてつもない魔力を持っているということだ
「試しだ」
カルロは特に何もしたわけでもない。詠唱もしていなければ魔力も溜めていない。全く動かずに。白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、足もとに半径三メートルほどの魔法陣が現れ、バチバチッと電気のようなものが発せられると瞬く間に何十という鉄の槍が飛んでいく。
これで死んでくれれば楽なんだがな。
だが、カルロの想いもむなしく、空中を飛んでいた二人ともが気づき。片方が大きな黒い渦のようなものを槍の進行方向に出すと、槍が吸い込まれていった。そして俺の存在にも気づく。
そりゃあ周りに兵士が誰も近づかなかったら気が付くか。
帝国軍では、大規模な攻撃や、効果を生み出す幹部の近くには何としても近づかないという絶対の掟がある。別に近づいてもよいが、巻き込まれて無様に死ぬだけだ。
あーなんで俺があんな化け物の相手しなきゃいけねーんだよ。帝城で研究しときてー。
「ネラ。あいつは前言った帝国幹部だ」
「聞いてた話じゃただの化け物集団じゃない」
「まぁそうだが…。それであいつは魔法使いじゃない。錬金術師だ」
「じゃああの量を一気に錬金したの?」
「そうだろうな。ほら。あいつの周り見てみろ」
ケイに言われ下を見てみると、白衣の周りの地面が少しだが丸い形にへこんでいる。
「シュレイム様の言っていた通りくぼみができてる」
「ならあいつを倒せばいいのね」
「倒せればだけどな。どちらにしろ相手はやる気だ。全力で答えてやろう」
「えぇそうね」
ケイはエンチャント、闇の覇気、意識分裂を無詠唱で同時に発動する。すると、カルロの顔がひきつった笑みに変わる。
「【黒槍雨】【闇の矢】」
カルロの半径三メートルの魔法陣に対して、ケイの魔法陣は直径十センチ程度しかないが、その魔法陣でカルロの魔方陣を埋め尽くすほどの黒い魔方陣が現れ、更にカルロを囲むように黒槍雨の魔法陣と変わらない数のダークアローの魔法陣が現れる。
「おいおいおい!?ふざけんじゃねぇぞ!!」
カルロが何かを言っているようだが関係ない。
「一斉放射」
そして、槍先しかみえていなかった黒槍雨や、魔方陣しかなかったダークアロー。それらが全てカルロに向かって放たれる。
「いきなり切り札使わねぇと駄目じゃねぇか!!【完全迎撃】!!」
カルロは地面から吸い上げた土を使って、白銀の槍を作り出す。やろうとすれば土から金でもダイヤでも液体である石油さえ作り出せる。そして、その白銀の槍をクルッと回して地面に傷をつけると、七個の魔法陣が重なった巨大な白い魔方陣が現れ、そこから真っ白な鎖の先に、槍先がついた物が数多と出てくる。その鎖は、槍先で槍を砕き、長い鎖で矢を弾く。
「くそがッ!俺の保有魔力量じゃ一発で魔力がすっからかんだ!」
自分の保有魔力量に悪態をつきながらも、内ポケットに手を伸ばし、魔力回復水を四本飲み干す。その間にネラとケイは急降下し、全力で武器を振る。が、白い鎖が邪魔をしてくる。鎖は二十本あるので、ケイとネラは十本を相手にしている。攻撃をして鎖を弾いても別の鎖がカバーを入れるかのように邪魔をしてくる。
「【一閃】」
技を使うも、派手な音を立てて弾くだけで破壊するには至らない。ネラのほうを見てみても、頭蓋骨を使っているが俺と同じように破壊することはできていない。
面倒だな……。呼び戻すか。
そして一旦鎖の攻撃範囲から出る。シャドウウォーリアには、ティーラに教えてもらったこと以外にも機能があった。いろいろ魔法を試していて気づいたのだが、どうやら呼び戻すことが可能なようだ。
「《戻れ》」
すると、空中に千の影が現れ、ケイの隣に一つの影が現れる。隣の影からはサファイアリザードマンが出てき、空中からはフライスネイク、フライスネイクキングが出てくる。
「冗談きついぜまじでよぉ……」
「《攻撃しろ》」
空中に旋回していたフライスネイクが塊となってカルロに突っ込んでいく。もちろんカルロも抵抗し、槍を飛ばす。それで数体消滅するが、残ったフライスネイクは鎖まで到達するが、まるでそこに壁があるかのようにカルロに近寄れない。そのかわりケイの所にいた鎖が二個に減る。
「【稲妻】」
身体強化をしたケイからしたら、五メートル程度一瞬で詰められる距離。間合いを詰め、技を放つ。
「ぐぼぉ!!!」
が、技は当たらなかった。確実に当たるはずだったのを横から飛んできたものによってカルロをとばされた。
「ったくカルロ。お前近づかれたら終わりなんだから鍛えろって言っただろ?」
「あんたみたいに脳筋じゃないからな!!」
カルロをわきに抱えている男は身長二メートルを超え、筋骨隆々を体現したかのような体つきだ。
「ケイーーー!!」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、エリオットとスカーロが走って近づいてきていた。スカーロの場合は走るというか飛ぶだろうが。
「すまないなケイ君。発見してからエリオット君と魔法を叩き込んでいたんがいかんせん硬すぎてね。何とか片腕を吹き飛ばしてもすぐにくっついたよ」
「サンも使ったんだけどなー。全身火傷で肩とかも灰にしたんだけど直ぐに修復するんだよね」
「回復力が人間じゃないな……」
あの男がライアーなのだろう。今の話を聞いてあの男がライアーじゃなかったら本物は死んでも生き返りそうだ。
「お前は殲滅特化だから仕方がないか」
「あんな化け物の相手できねぇよ!」
「わかったわかった。下がってろ。俺がまとめて相手してやる」
ライアーだと思われる男はカルロを下ろし、指をバキバキと鳴らす。ケイ達も構えるがすぐにその構えが崩れ、この大陸にいるすべての人間が驚くようなことが起きる。
ライアーとケイ達の間に楕円形の光が出現し、中から人が現れる。
「「皇帝陛下!!」
ライアーとカルロは直ぐに中から出てくる人に気づき、膝を折る。
「ふむ。やはり中々の魔力量だ」
中から現れたのは女性であり、鮮血を思わせるような真っ赤なマントに獣のごとき鋭い目をしている。そしてこの女が皇帝!!
「死を司る魔物を従える者。それは貴様のことだろう」
そしてその獣のごとき美しさを持った顔が獰猛な笑みに変わる。
「このところ敵の全てが我自ら殺すに値しない者ばかり。試し切りで我が帝国の切り札である帝国幹部を殺すわけにもいかん。が、丁度いいところに貴様が現れた」
クククッと笑いながら皇帝は言う。
「我が名を拝聴することを許そう。我が名はファリーダ・リベルタイン!!帝国の皇帝である!!!」
スキル説明
錬金術 物質を別の物質に変えることが可能な技術。魔法ではないので詠唱はいらない。
錬金魔法 錬金術と魔法の複合魔法。これには詠唱が必要
完全迎撃 カルロのオリジナル魔法であり、一対一ならほぼ無敵
リベルタイン帝国の情報
準幹部級 帝国幹部で対処可能だが、負ける可能性もある敵のこと
帝城 王国で言う王城