0077
目の前が青白く光ったと思ったら、見えはしないが巨大な魔力がこちらに向かって飛んできた。そして青白く光っていた結界がとてつもない光を発する。そして元の青白い色に戻ると結界が消える。消えた先には堀のように結界の外の地面がえぐれており、帝国軍が雄たけびを上げて接近してくる。既に空中ではドラゴン同士が接敵している。
「ネラ行けるか?」
「当たり前じゃない」
「じゃあクリス。いったんここでお別れだな」
「分かっている。死ぬなよ」
「あったりまえだ」
ネラとケイは翼を出し、空中に飛ぶ。
「まずは空中部隊を叩き落すか」
「そうね。【召喚頭蓋骨】」
ネラが魔法を使うと周囲に十個ほどの魔法陣が出てき、そこから頭蓋骨が出てくる。
「行きなさい」
すると頭蓋骨たちはケタケタと笑いながらワイバーンやドラゴンに突っ込んでいく。
「これでいいんじゃない?」
「流石に避けるだろ」
「まぁ見てなさいよ」
ワイバーンの上に乗っていた騎手が頭蓋骨に気づいたようだ。すぐさま軌道から外れるように移動する。しかし、頭蓋骨がワイバーンの後ろを付きまとう。
「ね?」
「まぁ確かに避けられることはないな」
ここにいる唯一のドラゴンの上に乗っている騎手が魔石のようなもので他のワイバーンに指示を飛ばすと、ワイバーンが急旋回し口に魔方陣を作り出すと氷や、炎。雷などの様々なブレスを出し次々と頭蓋骨を消滅させていく。
「切りに言った方が早いか」
「面倒だけどそうね……」
「あ、そうだネラ。試したいことがあるから試してもいいか?」
「別にいいわよ」
「おし。じゃあ【影戦士】」
前とは違い、今回は空中で呼び出す。前回と同じ魔方陣が空中に浮かび上がると、フライスネイクキングが出てくる。フライスネイクキングも前とは違い腹や目が薄く紫色に光っている。
「あら。フライスネイクじゃない。特殊固体?」
「いや、こいつはキングだ」
「へぇーキングってこんな感じなのね」
今はこんな風に会話をしていつもと変わらないように感じるが、ワイバーン達のブレスを浴びに浴びている。もちろん近づいてきた時点でダークリフレクションを発動している。
「フライスネイクキング。《繁殖を使え》」
ケイが命令すると、フライスネイクキングの周りに魔方陣ではなく魔力が現れ、形を形成してフライスネイクになる。その数約二百。
「これはもう凄いじゃなくて気持ち悪いわね」
ネラの言う通りフライスネイクは緑や紫などどちらかといわれると気持ち悪い色の個体が多いが、今では真っ黒になっている。しかし数百も集まれば気持ち悪いのも仕方がないだろう。
「仕方ないだろ。《散れ》」
ケイが再び命令すると、ダークリフレクションの外にいたフライスネイクも散っていく。それと共にブレスの音もやむ。解除してみるとフライスネイクに標的を変えてブレスを放っているようだ。
「《毒魔法を使え》」
すると今まで逃げるのに徹していた魔物たちがワイバーンを囲み、紫色の霧のようなものをはいていく。何体かがその霧に触れると、動きが鈍る。
麻痺毒か?
ケイがそう思っていると、麻痺毒を食らって動きが鈍っていたドラゴンに次々とフライスネイクが群がり、再び麻痺毒を浴びせる。そしてそれを繰り返していると完全に麻痺したのかドラゴンが落ちていく。
「数がいれば格上でも勝てるものね」
「そうだな。じゃあ《俺の魔力をやる。数を千ほどにしろ》」
するとケイは体から何かが抜けていくようなものを感じる。そしてフライスネイクキングの周りに先ほどの倍以上の魔力の塊が出現する。
「《周囲の帝国軍を殺せ》」
そして新たに生まれたフライスネイクはすぐに散っていき、視覚に帝国軍をとらえたら即座に攻撃をしている。何匹か地上にも攻撃しに行ったがまぁいいだろう。
「取り合えずここら一帯の空はこれでいいだろう」
「そうね。私たちは地上をどうにかした方がいいわね」
そういったネラは頭に西洋の兜を出現させる。
「兜か?」
「まぁそうね。私は別になくてもいいんだけどあんまり顔を見られたくないのよ」
「俺もあった方がいいのか?」
「目立ちたくないんだったらあったほうがいいんじゃない?」
「なら……」
ネラの兜には真っ赤なたてがみが付いている。真似るのも微妙かと思ったので俺の兜には角を二個つけておく。え、今まで100%悪魔だったのが120%悪魔じゃん。と思うかもしれないが最早ここまでくるともういいだろう。
「デビルキングとかに名前変える?」
「そしたらネラはデビルクイーンになるが」
「あ、ならいいわ。私まで巻き添え食らいたくないもの」
「じゃあ行くぞ。デビルクイーン」
「……」
隣に無言の圧力を感じながらも、地上二メートル程度まで降りる。
「私の後ろはちゃんと守るのよ。デビルキング」
「守ってやんねぇからな……。【毒の場所】、【身体強化】【影戦士】」
そういいながらも、ケイは複数の魔法を発動する。今度は地面に魔方陣ができる。そしてサファイアリザードマンが出てきた瞬間、黒色の何かが見えたと思った帝国軍はまとめて死んだ。サファイアリザードマンは周りが敵だと認識すると、尻尾に黒色の水を纏わせ、巨大な剣に変えるとそれを横に薙ぐ。それによって周りにいた帝国軍は肉片と化す。そして尻尾の剣を消すとケイの前にひざまずく。
「《自由に暴れろ》」
若干既に暴れてしまった感があるが、その言葉を聞くと笑ったのかどうかわからないが大きな口がスッと開かれた。そして再び巨大な剣をを纏わせ、目についたものから殺していく。
だが、さすが帝国軍というべきかケイが魔法を使ったことにより術者がケイだとわかり、周囲の魔法使いがケイに向かって無数の魔法を放ってくる。もちろん二人がわざわざ当たるはずもなく、二人は一定の距離を保って首を刈り取っていく。だが、ここら一帯の地面を赤に染め上げたとしても後ろから雪崩のように流れ込んでくる。そのため再び地上から離れる。
「きりがないわね」
「このままだったら流石に魔力が切れるぞ。スカイスネイクも何百かはやられて復活もさせてるしな」
「敵の親玉を殺すしかないわね」
「そうだな。さっきあった上空の魔力の場所に行ってみるか?」
ケイは帝国幹部の相手をするように言われているため、直ぐに居場所を見つけられるように放出されている魔力に気をかけていた。そして何万という魔法が放たれていた中でも一際魔力が濃いものがあった。
「それがいいわね」
「あー確か感じた魔力はあっちだったはずだ」
そして帝国軍と王国軍が戦っている場所まで来た。先ほどまでケイ達がいたのは完全に帝国軍中心であるために、一時的なものではあるが混乱が生じていた。
「絶対あれね」
「そうだな。魔力量はそこそこあるが手に負えないほどじゃないだろ」
「えぇ。問題ないと思うわよ。【死の鎌】」
ネラの手に別の鎌が出てくる。形はあまり変わらないが、発している魔力が先ほどの鎌の倍以上あり、鎌の部分に淡く紫色に光る魔力の玉が複数浮かんでいる。
「さ、行くわよ」
「ネラ。すまないがしばらく二人の相手をしてくれないか?」
「?まぁいいわよ」
敵は二匹のドラゴンだが周りのドラゴンより一回り大きなドラゴンであり、目が真っ赤に染まっている。騎手もネラの魔力に気づいたようで、いままで王国軍に向けていたブレスをこちらに吐いてくる。
しかしネラはブレスが何だといわんばかりにブレスに突っ込んでいく。ブレスが目の前に迫ると鎌を振り上げる。振り上げると、周りに浮いていた魔力の玉が吸い込まれるかのように鎌の部分に吸い込まれていき、漆黒の鎌に、紫色の刃が現れる。そしてそのままブレスに振り下ろすと、真っ赤なブレスを真っ二つに割る。そしてそのままドラゴン事騎手も切り裂こうとするが。
「【対魔法障壁】」
大きなドラゴン事結界に守られ、鎌が止まる。
「面倒くさいわね」
ネラがいったん離れると、もう一体のドラゴンの騎手が、腰にあった魔石を複数掴む。
「【魔法大強化】【光魔法威力上昇】【呪強】」
そして魔法を幾つか詠唱すると、ドラゴンの口に魔方陣が現れる。
「撃て」
そしてとてつもない光が放たれる。
「眩しいじゃない」
ネラは、迫ってくる光に対して再び鎌を振るう。今度は玉が吸われることはない。が、見事にブレスが固体を割ったかのように真っ二つに切れる。
「な!?」
「まずいぞ!準幹部級だ!急いでライアー様かカレオ様に魔力を飛ばせ!!」
「わかってる!」
ネラが魔法を切ると、騎手たちがあわただしくなりその目にあった殺意は見る影もなく恐怖に染まっている。
呪竜。それは敵からも味方からも恐れられる竜。ワイバーンならば帝国軍が十人もいれば問題なくいけどりにすることができる。ドラゴンでも三十人もいれば一人も死者を出すこともなく生け捕りできるだろう。しかし、呪竜にされる個体は、とてつもない力を持ち、街を一つや二つ簡単に滅ぼせる程度の力を持っている。
それを無理やり呪いで言うことを聞かせ、そして今ネラに放ったブレスは強化系の魔道具をすべて使ったのだ。それをいとも簡単に眩しいといわれて切り裂かれたのだからとてつもない恐怖に身を包まれるだろう。対魔法障壁を破れなかったのは本気を出していなかったから。そう解釈してしまう。もちろんそれは思い込みではなく事実なのだが。そしてそのブレスを破れるこいつもまた化け物の領域に片足を突っ込んでいる。ならば同じ化け物に相手をしてもらうしかない。
「逃げちゃ駄目よッ」
そして逃げ出そうとしていた騎手達にたいしてネラは一メートルほどの針を三個ずつ二体に飛ばす。針とはいってもその太さは三センチもある。そしてその針はドラゴンの腹部に刺さる。が、それだけで逃げだすのに少しはてこずるものの、大きな障壁とはなりえない。
「あら?」
今投げた針は、食らったなら即麻痺する効果がある。それが全くきかなかったということはデバフか麻痺に対する完全耐性があるということだ。完全耐性というのはそこまで珍しいというわけでもない。火魔法完全耐性や、光魔法完全耐性などの魔法に対する完全耐性はなかなかにいないが物理完全耐性などはゴーストが筆頭に挙げられる。
ゴーストがそこまで脅威でもないのは魔法をある程度纏わせればいとも簡単に切れるからだ。魔法完全耐性は保有している魔物自体が少なく、出会ったとしても大体が壊滅させられる。
ここで少し話はずれてしまうが、武器に魔力を纏わせた剣で通常の魔物を切ったとする。切った本人の物理攻撃力は百。魔力攻撃力は五十だとすると切った魔物に対して百五十のダメージが入る。この程度と思うかもしれないがHPが大量にある敵に対して非常に優秀だ。そして魔法完全耐性を持つ魔物に対しては超強力な魔法を放ったとしても衝撃すら伝わらず、魔力を纏わせた武器で切ったとしても百しかダメージが入らない。
しかも最悪なことに今のところ確認されている魔法完全耐性を持つ魔物は上位覚醒級や上位覚醒王級、魔王しかいないため、HPが多い少ない。魔法が効く効かないうんぬんの前に純粋に強いために対処のしようがない。
そして話は戻るが、麻痺に対する完全耐性を持つとなるとこのままでは逃げられてしまう。ネラも完全耐性を持っているのはさすがに予想外だった。
「何とか間に合った」
ネラが後ろを見ると、ケイの手に膨大な魔力が集まっている。
「それが…サファイアリザードマンを倒した……」
多種に比べれば生まれた時から膨大な魔力を宿している上位精霊であるネラでさえ見惚れてしまうほどの膨大な魔力。
「【呪われし武器の牢屋】
前よりカース・ウエポンジェイルの立体魔方陣は前よりもさらに大きくなっている。そしてケイは未来予知を連続して使い、敵の行く先を視る。騎手達は、ケイ達が止まったことにより、追いかけてこないものだと思い込む。ケイの手にある膨大な魔力を感じればそうでないことくらいすぐにわかるはずなのにだ。それほどに焦っているのだろう。そしてケイは球体を掴み、横に回す。前と同じように立体魔方陣が大きくなる。
「うお!?なんだこれは!」
「な、なんて数だ……」
そして高速で移動していた騎手達が行くところがわかっていたかのように刀や剣や槍が出現する。完全に二匹のドラゴンを囲むと、ケイが球体を握りつぶす。
握りつぶすと同時に武器が高速で前進し、音にするのもはばかれるような音を立てて次々と突き刺さっていく。
「ケイ。流石にこれはやりすぎじゃない?」
全ての武器が突き刺さると、ひきつった顔でそう言う。ドラゴンの死体は武器が空中に浮いてるために、鮮血を雨のように流しながら浮いている。
「俺もそう思うが仕方ないだろ。まだ完全に制御できてるわけじゃないんだから」
ケイは言い訳まがいのようなものをしながら渦に腕を突っ込み、三本の魔力回復水を取り出す。そしてその間に武器は消えていき、死体も落ちていく。落ちた先は見るも無残な光景になっているだろう。
「威力だけは確かに確実だけど、人道的にどうなの?」
「いや、悪魔だし」
「そうだけど」
戦場であまり緊張感のない会話をしていると、下から魔力が感じられる。二人が下を見ると、大量の鉄の槍が飛んできていた。ケイは渦を巨大化させ、下に向ける。
「なんだ今の量の槍!?」
再び目を凝らして下を見てみる。すると、明らかに帝国軍が避けている人物がいた。上から見るとぽっかりと穴が開いているようだ。その中心にいるのは男で、戦場に似合わない白衣を着ており、眼鏡をかけている。そして実に興味深そうにケイのことを見ている。
そしてケイがシュレイムに聞いていた情報を思い出す。その情報に一致するのは。
「帝国幹部カレオか………」
この世界の情報
麻痺 敵の全ての動きを数秒止めることができる
即死 主に毒などにこの効果があることが多く、スキルにこの能力があるものは稀
スキル情報
サモンスカル 複数の頭蓋骨を出し、自動攻撃をさせる。
デスサイズ 格下の相手には掠るだけでもすべてのHPを奪い、即死させるデスサイズという名にふさわしい能力を持ち、魔法を切り裂くことも可能
対魔法障壁 魔法を通用したん武器や、魔法に対して高い防御力を誇る
魔法大強化 魔法の威力をあげる
光魔法威力上昇 光魔法の威力が上昇する
呪強 呪われた生物に対してかけると、全てのステータスが上昇する。
麻痺針 威力はそこまで高くない物の、当たればほぼ確定で麻痺状態になる
魔物説明
ゴースト 物理への完全耐性を持つが、元々のHPが少ないため、武器を纏わせた武器か魔法使いさえいれば簡単に討伐が可能