0074
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クリス視点
ヘリサルに戻ってきてから翌日。前と同じように早朝から冒険者ギルドで書類の相手だ。
[コンコン]
部屋の扉が叩かれる。
「入っていいぞ」
クリスが返事をすると、扉があき女性が中に入ってくる。
「どうしたアン」
アンと呼ばれた女性はケイに近づくと怖がられるといわれていた副ギルマスである。アンの腕の中には大量の書類が抱えられている。
「追加の仕事ですよ」
「帰ってきてからいきなりこの量の仕事か……」
アンが両手に抱えた大量の書類を机の上に置き、ドサッといった音がなる。
「仕方ないですよ。王都に行っていた時の分の書類と帝国の戦争に関する書類で物凄い量になってますから」
「戦争には私も行くからな!」
「わかってますよ。ですから仕事をしてください」
「わかったわかった」
「また見に来ますからね」
そしてアンが部屋から出て行く。
「はぁ……やるとするか」
クリスは再び手にペンを持ち、書類にサインをしていく。
「ん?」
今ケイの声が聞こえたぞ!
ケイの声が聞こえた後のクリスの行動は早かった。
椅子から飛びあがり扉の前に着地。その流れのまま扉を開け、廊下に出てキッと曲がる。廊下をダッシュで走り抜け階段を飛び降り、曲がるところで壁を蹴り華麗に一階に着地。そしてクリスの視界に飛び込んできたのは……。
ケイ!!!!!
クリスはケイに声をかけようと歩を進めるが。
いや、用事もないのにいきなり会うなど変だろうか?まずなぜケイがこの時間にギルドにいるんだ?いつもならまだ宿にいるはずだが……。
「ギルマスじゃないですか」
クリスの隣にいた冒険者がクリスに声をかける。
「今何をしてるんだ?」
「あぁあれですかい?どうやらデビルが練習場で模擬戦をするらしいですぜ」
「なるほど。助かる」
応援するという目的で会えばいいな!
「ギルマス?何してるんですか?」
「ケイーー!模擬戦をすると聞いたから仕事を放り投げて見に来たぞ!!」
「ギルマス!こんなの見てたら仕事終わらないじゃないですか!」
「大丈夫だ。安心しろ」
「根拠が全くないじゃないですか!」
既にアンの声はクリスに聞こえていない。
ケイの相手はいったい誰だ?冒険者でもないだろう。まぁ戦闘を見ればわかるか。
「開始!!」
瞬間。練習場に風が吹き荒れる。
まずい!ケイが持ってる武器は魔剣だ。ギルドが真っ二つになる!
「結界魔法と防御魔法を使えるもの!真っ二つになりたくなかったら直ぐに魔法を起動しろ!!」
クリスがそう言うと、冒険者達は反射的に練習場を囲むように魔法を起動する。
魔法を起動する間にも目まぐるしく戦況が変わる。
魔法がぶつかり合い、お互いの武器が交差するだけで結界が次々と割れる。
「【魔力回復】を使えるものは術者に使え!!」
結界の中ではとてつもない量の魔力が放たれ、魔力酔いを起こすものもいる。元々肉眼では影しか見えなかったが二人の魔法によって土が舞い上がり、影すら見えなくなっている。
くぅ…これは私でも魔力の量が多すぎて……。
一瞬の間に何回も結界や防御魔法が破壊されており、複数の術者がいるおかげですべての魔力が漏れているわけではないが常人からしたら多い魔力が漏れ出ている。クリス達が吐き気に耐えていると、ギルド全体に響いていた轟音が鳴りやむ。練習場を見るとケイが男に向けて剣を向けていた。ケイが勝ったようだ。
模擬戦が終わり、ボロボロになった練習場から二人が出てくる。二人とルイナが何かを喋っている。ルイナが自分は賢者だという冗談はやめたほうがいいといっているようだ。ルイナが何かを言うと片眼鏡をかけた男が手袋を外す。その手には見覚えのある紋章があった。あれは闇の賢者の紋章だ。
まずい。
そう思ったクリスは二人の間に割って入る。
「賢者様とも知らずこのような無礼、申し訳ございません。部下の失態はギルドマスターである私の教育不足です。お望みとあらば私の首でも差し上げましょう」
「ケイ君」
賢者様がケイを呼ぶ。二人の話の内容的に許してもらえたようだ
「何か勘違いしているようだが賢者という者達はそこまで残酷ではないし私だってこの程度のことで殺したりはしない」
「そうでしたか。寛大な賢者様に感謝を」
そして賢者様はケイと少し話をするとギルドから出て行った。そして入れ替わるように警備隊長のショーンがギルドに入ってくる。どうやら二人の魔力が大きすぎて警備隊の魔道具に反応したようだ。
ショーンに魔力が増えた理由を言う。アンから修理費はどうするんだといわれたが賢者様が資金は持ってきてくれるだろう。それよりだ!あんな試合を見せられると私も戦いたくなってきた!!アンが止めてくるが私はケイと戦いたい!
「クリス。仕事が全部終わったらいくらでもやってやるから仕事を全部終わらせろ」
仕事が終わったら戦えるのか!
「なに!本当か!本当だな!」
「あぁ」
「お前はなんていいやつなんだー!」
この時私は何も考えずにケイに飛びついてしまった。そしてケイに声をかけられて現状に気づく。公衆の面前でギルマスである私が異性に飛びつくなんて……。よく考えればとんでもなく恥ずかしい……。ケイから手を放し、約束だけして早歩きで元居た部屋に戻り、椅子に座る。
はあああああぁぁぁぁぁ!!!わ、私はなんてことを………。い、いくら嬉しかったとはいえあんなことをするなんて……。絶対顔が赤くなってた…。
そしてもう一度さっきのことっを思い出す。
む、無理だ!!思い出しても恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ……。
ギルド職員によるとこの日はずっと上の空で仕事も全く手が付かず、たまに悶えるような声が聞こえたそうだ。そして副ギルマスはシクシクと泣いていたらしい。
スキル説明
魔力回復 対象者の魔力を完全ではないが回復することができる