0065
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城塞都市ヘリサス。とある宿。その宿の食堂で一人の女の子が食堂の机をふきながらため息をついていた。
「はぁ…」
ケイさんが宿を出てから既に二週間以上が経過した。ケイさんは泊まっていた部屋に手紙を残していなくなったしなー…。手紙の内容では王族主催の大会に出るって言ってたけど優勝できたのかな~?噂では冒険者部門で漆黒の鎧を着た魔法使いが優勝したって聞いたけどケイさんのことかな?
そんなことを考えていると、机をふく手が止まっていた。
「お客さんが来る前に全部ふかなきゃ!」
今はこの町の近くで起こる帝国との戦争でみんな忙しそうだし、私もサボれる時間はない。お父さんも商人さん達が宿に流れ込んでくるから忙しそうだ。
あーケイさんにあってまた依頼の話聞かせてほしいなー。
[ガランガラーン]
扉の開く音が鳴る。
「部屋を三つ借りたいんだが空いてるか?」
私は振り向きながら返事をする。
「はい。空いてますよ……ってケイさん!」
「久しぶり、か?」
~~~~~~~~~~
「ほら。ついたわよ」
翌日に俺はルカ達と共にネラの影転移を使ってヘリサスの横道に転移していた。王都を離れる前に、キサラギさんに挨拶はしたが、まさかあんなに急に泣き出すとは思わなかった…。女心、難しい……。
「ほとんどあの執事服のやつがやってたことと一緒だな~」
「あんな化け物と私を一緒にしないでよ!」
ネラはバッドが現れた時は顔を青ざめ、全く動けていなかった。バッドが転移で消えるといつも通りのネラになったため、理由を聞いてみると、精霊は対象者の魔力をほかの生物よりも詳しく見ることができるためにバッドが持っているとんでもない量の魔力が見えてしまい、動けなくなったそうだ。
「私はとりあえずギルドに戻るとしよう。副ギルマスに負担をかけすぎたからな」
「あーあの眼鏡かけた女の人か」
「む、よく覚えているな」
「なんというかに近づくとめっちゃびくびく震えられて泣きそうな目で俺のこと見てたから印象に残ってるな」
「な、なるほどな…。あいつは仕事はできるんだが男が苦手でな…」
「そうなのか」
「あぁ。もう少し話もしたかったがそろそろ行かないとまずいのでな。行くとする」
「あぁまたな」
「また模擬戦しようなーー!!」
クリスは全力で手を振りながらギルドの方向に向かって走って行った。
「それでネラはどうするんだ?」
「私?」
ネラの今の服装は、黒いドレスではなく、俺の鎧と同じような物を着ている。これでも目立ってしまうが、ドレスを着ているよりはましだろう。
「私はもちろんケイについていくわよ。だってそっちの方が面白そうだもの」
「そんな理由かよ…」
「あのねぇ。三十年以上ずっと魔物しかいないダンジョンで暮らしてたらさすがの私も飽きるわよ」
「お前三十歳以上なのか!?」
ネラの頭の後ろに紫色のような魔方陣が五個ほど一瞬現れ、直ぐにその魔法陣が欠片になって散ると、三日月状の刃からネラの手にかけて棒のようなものが付いているものが現れる。俗にいう死神の鎌のようなものだ。
「なにか言ったかしら?」
それを肩に担ぎながら問いかけてくる。
「な、何も言ってないです……」
「そう。それならいいのよ」
「あ、あとサレムにヘリサルに着いたらシュレイム様に会ってくださいって言われてるんだが宿に行く前に行ってもいいか?」
「別にいいわよ」
「じゃあ行くか」
「さっさと行って宿行こうぜー」
「わかってるって」
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領主の館執務室
「君か…。どうやらサレムに頼んだ伝言は伝わったようだな…。よく来てくれた…」
部屋の中に入るとまず目についたのは机。机には書類のようなものが大量に積まれており、机が埋まっている。その間から目の下にクマがあるシュレイム様が見えた。
「えっとこれは…」
「あぁこの書類か?この書類はほとんどが今回の帝国との戦争に関する書類だ。急いで帰ってきたんだがこのありさまでな。私は辺境伯でもないから今回はあまり参加するつもりはなかったんだがな…」
「お疲れ様です…」
「なに、この程度とっくの昔に慣れてしまったよ。そしてだ。今回君にここに来てもらったのは今回の戦争の敵国である帝国の帝国幹部についての情報を伝えるためだ」
「帝国幹部ってなんだ?」
ルカが疑問に思った部分をシュレイム様に聞く。
よかったー、俺も王城の話で出てたけどわかんなかったからなー。
「説明するか?」
「お願いします」
「そうだな。帝国幹部とは帝国の様々な部門のトップたちのことを言う。例えば今から言う錬金術や回復魔法などの補助的な魔法を使うものでさえ一人で国を滅ぼせるようだ。既に町でも知っているものが多いだろうが一か月ほど前に帝国の属国であった二つの国が離反し、一日で滅ぼされた」
「強すぎません!?」
「帝国は完全実力主義制だからな。しかも領土も広いから強者も集まるのだろう。帝国幹部にでもなれば金に関しては一生安泰だろうからな」
「じゃあ皇帝は…」
「何か国かの軍だけであれば対等以上に相手できるだろうな」
「それは…」
「まぁ今この話はいい。話がずれてしまったからな。話を戻すが今回の戦争で出てくるとされる帝国幹部は二名。一人はライアー。巨大な体を持っており、殴るだけでも一軒程度なら簡単に吹きとばさる。この程度ならまだ対処の使用があったが、魔法などで体を傷つけることができたとしてもすぐにふさがってしまう。このことから回復魔法を自分にかけていると思われるそうだ」
「…しかし連発していたら直ぐに魔力がなくなるのでは?」
「過去にもそう思ったものがおり、遠距離からの攻撃を何百回と行ったが常に回復し続け、その魔法団は壊滅したそうだ。そして二人目だがカレオというやつだ。最初に戦争に出てきたときには地形を自分の手足のように操作し、敵の軍を壊滅させた。このことからカレオは土系統の魔法使いだと思われていた」
「思われていた?」
「そうだ。そのあとのカレオの戦闘で市街地戦もあったのだが、その時に地面から鉄の武器を生成。敵の鉄でできた武器や鎧などを融合し、それを操る。石でできた建物から石でできた手を作り出す。このことからカレオは魔法使いではなく錬金術師の可能性が高い。戦闘があった場所を見に行くと歪なくぼみなどが地面や建物にあったそうだ。これは錬金術を使った証拠にもなる」
「俺で倒せますかね?」
「なにも倒せとは言っていない。ライアーなどは帝国幹部でも最も倒しにくいやつだといっても問題ないから。抑え込むだけでいいのだ。こちらから攻め込んでいるわけではないのだからな」
「それならなんとか…」
「君は確か遊撃だったな?」
「そうですね」
「帝国幹部は攻撃がとてつもなく派手だ。一目見ればすぐにわかるだろう。帝国幹部には一般兵がいくら集まろうと意味がない。だから帝国幹部が前線に出てきたら対処してほしい」
「一人なら抑え込むことも可能かもしれませんがもう一人はどうするのですか?」
「エリオットか闇の賢者。王国竜騎団に所属しているもの全員が相手をすることになっている」
「闇の賢者?一人じゃないんですか?」
「それも知らないのか…。君はいったいどこで暮らしていたんだ…?」
「あははは…」
「…賢者というのはその魔法を極めた者に送られる称号だ。魔法の数だけいるそうだ。そしてその一人である闇の賢者が王国に力を貸してくれるそうだ。賢者は普段あまり戦争に関与しないのだが、今回力を貸して下さる理由としては君の魔法を見たいからだそうだ」
「賢者っていったいどれほどの地位なんですか?」
「それは様々だが闇魔法は基礎属性の一つであり、賢者という者ができてから闇の賢者の歴史が長い。研究成果や技術は受け継がれているからな。公式に発表されているわけではないが高いだろう」
「胃が痛い…」
「私より年下の君が胃が痛くなるはずがないだろう。といっても私からは頑張るんだなとしか言えないが」
「はい…」
リベルタイン帝国の情報
カレオ 帝国幹部の一柱。固体を錬金術で変質、操ることが得意であり、現在は質量のあるものから全く同じ物質でできた物を倍化させる方法を研究している
この世界の情報
賢者 賢者は複数人おり、一つの魔法を極めた者に与えられる称号。
称号 称号は称号管理団体の称号法なるものにより与えられ、剥奪されることもある。
称号管理団体 複数の国が所属しており、称号を剥奪するときや与えるときに賛否を言い合い、賛成が多かった場合は議題の通りになる
闇の賢者 賢者の中でも歴史が長く、代々研究成果や技術が受け継がれている