0029
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「【飛炎剣】!!」
朝の庭から魔法を発動する声が聞こえる。
「【闇の反射】」
「つッ――」
至近距離で発動されたクリスの魔法を吸収し、そのまま流れるようにクリスに向かい魔法を反射する。そして、クリスの首を切る直前で止める。飛炎剣は生み出された剣を生み出したものが操作する魔法なので直前で止めることも可能だ。吸収した魔法はその魔法の性質をそのまま反射するためにこんな真似もできる。ただし、火の玉などは直線状に進むだけなので直前で止めるようなことはできない。
「私の負けだな」
「至近距離で魔法を発動するのはなかなか肝が冷たぞ」
「そうは言ってもお前はあの姿じゃないじゃないか」
今の俺は人化を使っておらず素で戦っている。
「予選はこれで行くつもりだからな。この姿での戦いも練習しておかないとあの姿でしか戦えなくなるからな」
「本気で戦っていないとゆうことではないか!!」
「そ、そんなに怒んなって」
「クリスも強いがやはりケイが強すぎるな」
俺でもクリスでもない声が聞こえる。二人とも声がしたほうに顔を向けるとシュレイムとアウラがいた。
「そうだぞケイお前はなぜこんなに強いんだ?」
別の世界から転移してきて神に特別なスキル貰ったからだなんて言えるはずもなくただただ苦笑いだ。
「ケイに一つ頼みたいことがあるんだがいいだろうか?」
シュレイムが聞いてくる。
「なんだ?」
「アウラと戦ってくれないか?」
俺はアウラの顔を見るとアウラも驚いていた。
「俺は構わないがアウラはいいのか?」
「はぁ、まあいいですよ」
そうゆうと氷剣を手に生み出し、近づいてきた。
「では、やろうか」
「ええ」
ケイは一瞬の挙動も見逃さないとアウラをにらみつけている。それに対しアウラは何も構えず棒立ちだ。
「【氷柱】」
アウラがそう声を発すると地面から次々と氷の柱が作り出され、どんどんケイに近づいてきている。地面から作り出されているものなので反射することもできない。つまり、よけるしかない。
「チッ」
舌打ちをしながらもケイは地面から作り出される氷柱をよけている。しかし、ここが制限のないとても広い場所ならよかったが広いとはいえここは庭だ。庭を氷柱を埋め尽くすと逃げ場がなくなる。ほとんどのものはここでつみだ。だがケイは例外だ。ケイの攻撃力はとんでもない。ルカとまともに張り合えるのだから普通なはずがない。ケイは一度立ち止まる。後ろから氷柱が迫ってきている。もう、アウラの姿は全く見えない。どうやらアウラはケイとの距離を氷柱を使い開けていたようだ。
「初手からピンチか……」
ここでケイは魔力循環で鍛えた集中力をいかす。目を閉じ腰を低くし、抜刀の準備をする。周りからケイに向かい氷柱が迫ってきているのが聞こえる。あと1メートルほどしかない。もう一つ氷柱を作り出されたら詰みだ。しかし――
「【エンチャント】…【抜刀】【千切り】」
次の瞬間ケイの目の前の氷柱が空中にに吹き飛ばされる。ケイはとてつもない速さでアウラに接近している。ケイが通ったところはきれいに氷の道となっている。そして10秒もせずにアウラの目の前まで接近した。胴体を斜めに切るように刀を這わせる。
「【氷の壁】【氷の木】【雪】【氷柱の雨】【猛吹雪】」
だが地面からら氷の壁が刀を止めた。
「なに!?」
ケイはいったんアウラから離れ距離をとる。しかし、距離を取り周りを見てみると今までの光景が一変していた。氷柱があったところには氷の木が生え、木からは雪が降り、空を見るとつららのようなものが浮かんでおり、木から大量に雪が生み出されると前が見えないくらいの猛吹雪が生まれた。どこからともなく声が聞こえる。
「この氷がある限り私は無限に氷柱や雪を作り出せる」
アウラの魔法は非常にまれな氷魔法と呼ばれるものだ。水魔法の上位版といったほうがいいかもしれない。アウラが無限に氷柱を生み出せるといった理由は実に簡単。一定量生み出せばそれ以上氷を生み出す必要もない。何故なら氷を操り形を変えているだけなのだから。破壊したとしても再び雪になり氷柱として新たに作り出されるだけ。さらに氷の木により常に雪が作り出されている。雪を凍らすことにより空中から氷柱を作り出すことも地面から作り出すことも壁や剣を作り出すことも無限にできる。そのためこの氷魔法に勝つためには、術者を倒すか、圧倒的な熱量により水分を全く残さずすべて蒸発させるしかない。蒸発させたとしても氷魔法は一つ一つの魔法の消費魔力が少ないため新たに生み出される。既に庭は氷魔法の独壇場といってもいいため勝つのは非常に難しい。氷魔法の弱点は術者の実力により差はあるが、自然の物質を溶岩に変えることも可能な溶岩魔法というものだろう。ただし、すべて変えてしまうため実力が足りず自爆する術者もいる。
「くッ【闇の反射】」
ケイは自分を囲むように渦をいくつも生み出し雪と氷柱を吸収していく。
「これはまずくないか?」
クリスが顔を引きつらせシュレイムに問いかける。
「大丈夫だろう。凍死でもしない限り」
「と、凍死…」
その言葉を聞きさらに安心できなくなったクリスは再び吹雪に目を向ける。
「この雪は含まれている魔力量が少なすぎるな。【闇の反射】を維持する分の魔力しかない。真似事でもしてみるか」
ケイはクリスが生み出した氷の木を吸収し黒く染まった氷の木を生み出す。すると、そこからは黒い雪のようなものが次々と生み出されてく。さらにケイはその黒い雪を操り黒い氷柱を生み出す。
「なるほど。消費魔力量も少ないしこれは便利だな。【黒い雪】とでもなずけるか」
ふつうはこんな速度で他人の魔法をそっくりそのままコピーすることなどできない。渦で吸収した魔法をそのまま反射させる魔法と、その性質を瞬時にを理解する知能があったからこそできる真似だ。
「では行こうか!!」
一方そのころアウラは自分の雪や氷柱、木が消失し、自分のものではない物体がいくつも雪の中を浮遊しているのを雪を通し感じていた。
「いったいなんだ?」
今ここにあるすべての氷や雪はアウラの魔力が通っているため雪の中にいれば形や大きさによりどこに敵がいるか、敵が何人ほどいるかなどは手に取るようにわかるが、例えば箱型の魔道具をその人物が取り出したとしてもその魔道具がどのような能力なのかはわからない。悩んでいると空中に浮かんでいる物体が集合し、一つになり先端のとがったものが全方位に発射されそのうちの一つが自分に急接近しているのが分かった。
「ッッッ!!」
アウラは首にかすりはしたが少量の血しか出ていないのでそんなことは気にせず、今飛来してきたものを見て目を見開く。
「なんだと!?これは!?」
アウラが見たのは黒く染まった自分の氷柱によく似ており、それが自分の雪のように細かくなり空中に消えたところだった。
「私の氷魔法を闇魔法で再現して新らしい魔法を作り出したのか!?……もはや手加減はいらないか」
するとすべての雪が刃物のようなものになり、空に待機していた氷柱も自分の周りをまっていたすべての雪をケイの周りに密集させる。
「これで倒れてくれないものか……」
しかし、その淡い希望すらも無駄だというように黒い矢や渦、手に黒い氷柱が密集させていた雪を吹き飛ばし、中から姿を変えたケイが現れる。
「使うしかないのか……」
考えている間にもケイは近づいてきている。
「悩んでいる暇などないか……ならばッ!!【氷の世界】ッッッ!!」
アウラの目の前に立体魔方陣が出現する。次の瞬間すべてが止まった。空を飛んでいた鳥も凍り地面に落ち、砕ける。土の中にいた虫もすべて凍る。草木も凍り、風が吹くと草が砕ける。何も知らないものが見れば幻想的だというかもしれない。ただし一度踏み入ればそのものもこの幻想的な景色の一部になるのだが。
「はぁはぁはぁはぁ」
ケイがいたところを見るがとても大きい黒い渦があり壁のようになっていた。これは闇の反射と氷の世界の相性が悪かったとしか言えない。闇の反射は詳しく言えば魔法の魔力を吸収し、吸収した魔力を使い全く同じものを新たに作り出し発射している。つまり、空間を瞬時に凍らせる魔法であればケイも凍っていたが、常人が知覚できないだけでありアウラから膨大な魔力を発し周囲を凍らせている。そのため何十にもかけた渦の表面を凍らせることはできたがもう少しのところで届かなかった。その為ケイの後ろの地面は凍っていない。
「魔力も切れた。これは私の負けだな……」
この後はクリスが今の戦いに興奮しケイやアウラと日が落ちるころまで底なしの体力でクリスは笑い、ケイとアウラは死んだような目で打ち合っていた。
そして明日はついに大会の予選である。
魔法説明
氷魔法 非常に稀で強力。水魔法の上位版
氷柱 地面から氷の柱を作り出すことができる
氷の壁 氷で壁を作り出し敵の攻撃を防ぐことができる
氷の木 雪を生み出す氷の木を作り出す
雪 術者の魔力が入った雪でどのような形状にするかは術者しだい
氷柱の雨 氷柱を空から雨のように敵に向かい降らせる魔法
猛吹雪 雪を使い敵の視界をふさぐ魔法。雪を使い敵がどこにいるか探知することもできる
氷の世界 術者を中心に全方位に膨大な魔力を発し空中でも地中でも凍らすことができる
黒い雪 ケイがアウラの氷魔法を闇魔法でまねたもの効果などは同じ
黒柱 ケイがアウラの氷魔法を闇魔法でまねたもの効果などは同じ
黒柱の雨 ケイがアウラの氷魔法を闇魔法でまねたもの効果などは同じ
黒い木 ケイがアウラの氷魔法を闇魔法でまねたもの効果などは同じ