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あれ?毎週月曜投稿のはずなのに久しぶりに月曜に投稿した気がする。何でだ……。
レイスタン聖王国中央塔教皇私室
朝、部屋の窓から見える空は青く、部屋の中に差し込む太陽の光は暖かい。机の上にはメイドが用意してくれた紅茶がおいてあり、とても良い匂いがする。こんな朝から始まる日は素晴らしく充実していそうだ。
椅子の上に座っている教皇は今日見た夢のことを考える。最近は勇者を召喚したことによってとてつもなく忙しい日々だったが、久しぶりにゆっくりと寝れた気がする。もちろん普段ならば夢の内容など覚えているはずもないが、今日見た夢は鮮明に覚えていた。
「お父様…お母さま……」
お父様とお母さまが亜人に襲われる日の朝の夢だった。そして夢を見ると同時にお父様が良く言っていた口癖も思い出した。
『この世界に純白の正義は存在しえない』
それがお父様の口癖だった。一度だけだが理由を聞いたこともあった。
『そうだね。ならば例え話をしよう。たとえば食料が無く、民が飢えている。そしてその国の王は他国を攻めた。もちろん攻められた国は反撃もする。この状況だとどちらの国もそれぞれの正義を掲げていることになる。けれどお互いの国は敵国の民を殺している時点で神の法からしても悪なのさ。だから純白の正義は存在しないってことさ』
正義を掲げる聖王国の教皇が言っていいことなのか戸惑ったが、お父様は戸惑う私を楽しそうに見ていらっしゃった。そしてその次の日にお父様は亡くなった。あの日の絶望感以上の物は無いだろう。
今までお父様の全てを肯定していた私は初めてそこでお父様に逆らった。
この世界に正義という物は存在しないのだと。悪に染まった物でも頭数が多ければそれが正義なのだ。嘘で塗り固めようが間違っていようが多くの人が同意すれば正義。
昔街を訪問した時に何らかの童話を読んでいた子供がこう言っていた。私に屈託のない笑顔を向けて、
『正義は絶対に負けないんだよ!」と。
その頃はそんなことはないと思っていたが、今はそうは思わない。確かに正義は必ず勝つ。
何故?と言われればこう答える。
「当たり前でしょう。勝った方が正義なのだから。負けた者が正義を語れるはずがない」
そして私が管理するこの国はこの大陸で一番と言っていいほどに正義という言葉を使っている。救済、慈悲、守護。すべて聞こえはいいが、負ければその言葉全てが語れない。
お父様は言っていた。純白の正義は存在しないと。確かにその通りだ。しかし、純白の正義を使わずに、漆黒の正義を使い民皆が喜ぶのであればどちらの力を行使するべきなのだろうか。
セルレイ教のいつからできたのか分からないほど昔からあった反亜人主義。昔の私は可哀そうなどと言っていたが今となってはあれほど素晴らしい物は無いと思う。
既にお父様とお母さまを殺した亜人は一族から少しでも関わりのある亜人まで機姫を使って皆殺しにした。機姫の暴走として処理したが、機姫の性格ほど一族皆殺しに向いたものはいなかった。
「くふ、くふふふふ」
正義を掲げるための勇者という正義の象徴であり、圧倒的な戦力も手に入れた。あとはこの大陸を手に入れる手はずを進めるだけ。亜人という種族を皆殺しにし、邪魔な魔族を殺せばそれでお終い。
「あらいけない。私ったら汚い笑い方をしてしまったわ」
勇者という特別なカードを手に入れたことによって此度の教皇、セシル・レイスタンの夢は広がるばかり。コンコンと扉が叩かれ、返事をすると部屋の中にメイドが入ってくる。
「教皇様。お時間です」
夢のためなら嘘でいくらでも塗り固めよう。私の思想が間違っていようがセルレイ教の教えとしておかしなところは何もない。
「あら!もうそんな時間ですか。いけませんね。紅茶が美味しいとゆっくりしてしまいます」
勇者が成長するのを間近で見ていると私の夢が広がるようで涙が出そうになるほどの歓喜が体中を走り抜けていく。
「では行きましょうか。勇者様がどれほど成長していらっしゃるのか楽しみです。ふふ」
さぁ。私の夢のために。
レイスタン聖王国の情報
機姫 守護者の一人であり、唯一亜人を殺し、機械のように無情に敵を殺し、作られたかのように美しい美貌から付けられた二つ名
次話も別視点のお話となります。




