0104
「やっぱ見られてるな」
「あれだけ派手に戦えばね。あそこは正門付近だからたまたま人が住んでなかったけど少し進めば普通に人が暮らしてるし」
「でも治安が最低って言われてるのにそこまで悪くないよな」
「いや、さっき二回も襲われたでしょ。あの戦いを見て勝てないとわかったから襲ってきてないだけだよ」
「やっぱ治安悪いわ」
「間違いない」
「でよ、俺らどこに向かってんだ?ずっと大通り歩いてるだけだけど」
「私も聞きたいんだがケイ君の目的は何なんだい?それがわからないとどこに連れて行けばいいのかわからない」
「今まで適当に歩いてたのかよ!?」
「まぁ完全にそうとは言い切れないけどね。で、何なんだい?」
「人探しだな。依頼された」
「探してる人は?」
「赤星ってやつらしい」
「随分と有名人だね」
「そうなのか?俺は探してくれと頼まれただけだからよく知らないが」
ケイが終焉都市ベルミュナに来たのは、ちゃんとした理由がある。帝都を出る前に、誰かとすれ違ったと思うと手紙を手に握らされていた。内容を見てみると、終焉都市ベルミュナに行き、赤星と呼ばれる人物を発見、可能であれば帝国に連れ戻せとのことだった。
終焉都市ベルミュナの本は前もって皇帝から渡されていたために、終焉都市ベルミュナについて悩む必要もなかった。赤星と呼ばれる人物はどうやら元帝国幹部であり、突如帝国から姿を消したらしい。終焉都市ベルミュナにいることはわかっているのだが、元帝国幹部相手に一般兵では意味がないために俺が行けと言われたわけだ。
「赤星は確かにベルミュナにいると言われてるけど本当かもわからないし、大体会ってどうするんだい?」
「俺は発見して情報を渡せとしか言われてないからな。そこまでは知らん」
「本当に見つけるだけというわけだね」
「そうゆうことだ」
「じゃあ赤星に会いに行こうか」
「どこにいるのかわかるのか?」
「言ったでしょ?ここでは強い者はテリトリーを持ってるって」
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終焉都市ベルミュナ時計塔付近
「あそこだよ」
スカーロが指さした先には大きな時計塔があり、現在のベルミュナの建造物の中で一番高いようだ
「時計塔か」
しかし、その時計台は今にも崩れそうなほどボロボロに見える。
「そうだよ。元々赤星は高いところから一方的に敵を殺す魔法を使ってたからね。で、考えた結果ここというわけさ」
「なるほどな」
ケイが未来予知によって足元が吹き飛ぶのを視る。スカーロを横に全力で蹴り、自分も横に跳ぶ。そして二秒後にそこに赤い線がぶつかると、地面から爆炎が上がる。
「スカーロ!大丈夫か!」
「ああ!大丈夫だ!」
爆炎の向こう側から声が聞こえた。どうやらスカーロは無事なようだ。だが、安心している間もなく赤い弾が飛んでくる。ケイは刀を抜き、受け流そうとする。
「!?!?」
が、弾の衝撃があまりにも強すぎるあまり、逆にケイの力が足りずに刀が弾かれる。続いて二発目が飛んでくると、ケイの視覚でも確実にケイの心臓を狙っている事が分かった。
「【竜人化】ッ!!!」
左腕を竜人化させ弾の軌道上に持ってくるものの、左腕と右肩を貫通し、血潮が出てくる。肩に激痛を感じたのと同時にケイは意識分裂と人化を使い、ケイを紫色の霧が包む。霧が出現している間にも弾が飛んでくるために、今度は受け止めようとせずに避ける。
「【浸食】」
人化を終わらせたケイが、足元に大きな魔方陣を生み出しながら魔法を唱える。魔方陣から出現した黒い波が時計塔を黒く染めていくが、もう少しで赤星がいるであろう場所に届くという所で黒が弾かれる。未だに弾は撃たれ続けているために、一旦横にあった家の窓に飛び込む。
「ケイ君が何とか攻撃を受けていてくれたおかげで助かったよ」
家の中に飛び込み窓から赤星を見ていると、横に蹴り飛ばしたスカーロが居た。
「全く無事じゃないですけどね」
意識分裂を使ったために血は止まっているが、意識分裂を解いてしまうとすぐさま激痛が走り、血が噴き出てくる。
「あとで私の回復水を上げよう。もちろん生きていたらだけどね?」
「まさか、私が私のままで死んでしまうと申し訳ないですからね。死ぬことはできませんよ」
「?何か変わった気もするけど先に赤星を捕らえようか」
「えぇ。では影分身を使っていただけますか?私が援護しますので」
「それくらいならお安い御用さ」
スカーロがそう言うと、目の前にスカーロと全く同じ姿をした分身が三体現れる。
「一応この分身には影分身を持たせてるから」
「素晴らしいね。じゃあ私も【黒い木】【黒い雪】」
窓の外の地面から黒い木が生え、石畳の地面は直ぐに黒い雪で埋まり、黒い雪が空中を舞う。
「どうかな?」
「これなら私達が出てもバレなさそうだね」
「分身に乗じて出ていくとしよう」
「それがいいね」
三体の分身が黒い雪が降る外に出ていき、直ぐに一番に出て行った分身が赤い線に貫かれるものの、それに続いてケイも外に出る。黒い雪の中を駆け、時計塔の目の前にまでたどり着く。その間に隣を走っていた分身は五体ほどやられているが、スカーロが家の中で影分身を発動しているためにたどり着けた。
「一応発動はしておこうか」
ケイが手を上に掲げると、黒い渦が現れる。
「さて、星を墜とそうか」
パッと見は今にも壊れそうな時計塔だが、よく見ると時計塔内部に強力な結界が張られている。浸食できたのも外の壁だけだったのだろう。そのため、未だ竜人化している右腕で刀を握り、エンチャントをかけ、刀を抜く。
「【一閃】」
刀を抜くと同時にケイの頭上から弾丸が降ってくる。既に頭上に発動していた渦はズバンッ!!という音と共に散っている。だが、今のケイはその程度何の予想外でもない。竜人化を貫通した時点で何らかの魔力を散らす、無効にする能力があることはわかっていた。事前に魔散結界という物を見ているからの確信だった。そして抜いた刀を頭上に振る。今度は全力の一振りであるために、弾き返されることもなく火花を散らして弾丸を切る。続いて三個弾丸が飛んでくるものの、見ていれば問題はない。
「【這蛇】」
弾丸を切った刀をそのまま別の技に繋げ、空を這うように刀が弾丸を全て切る。そして追撃がないとわかると、今度は姿勢を低くし、刀をいったん鞘に納め塔に向けて再び刀を抜く。
「【抜刀】」
ケイの腕と刀がブレると、塔が結界事切れる。塔がケイに向かって倒れてくるが、後ろに下がって避ける。完全に塔が倒れる直前に、塔の上から人影が飛び降りたのがうっすらと見えた。人影は黒い雪の中におりたため、ケイには手に取るように相手の場所がわかる。
「手加減は無用でしょう。【黒柱】」
人影の周りを舞っていた黒い雪が塊になり、豪速で突っ込んでいく。が、それも人影に近づくと衝撃波だけを残して散り散りとなる。ケイはその間に一気に人影に近づき、刀を振るう。
「【滝壺】」
「【反魔方陣】」
人影が背を向けながら魔法を詠唱すると、刀が弾かれる所では無くとてつもない衝撃によって後ろに吹き飛ばされる。
「っと!」
建物の中に吹き飛ばされ、建物を破壊しながらも空中で体制を持ち直し、地面に足をつける。完全に止まると建物にあけた穴を再び走って戻る。
「私の分身でも魔法の攻撃が効かないね」
建物を出た所にスカーロがおり、声や姿から女性だろうが、分身が赤星にある程度近づいたのならば霧のようになって散る。
「魔法の攻撃は確実に効かないだろうね。物理でも試してみたのだが今見ていた通り吹き飛ばされてしまった」
「一旦見逃すかい?」
「それがいいかもしれないな。そろそろ他の敵も集まってくるだろうし腕がそろそろもげてしまいそうだ」
スカーロがケイの腕を見てみると、魔力の弾丸の大きさ以上の大きさで手の甲と腕が欠けている。ケイの腕を見ていると敵の方から何かの音がしたため、スカーロとケイが音のなった方向を見る。
「急にSF……」
聞こえた音は分身が倒された時に撃たれた魔遠砲の音だったようで、周りに分身がいなくなっている。そして赤星もこちらにもう攻撃の意思がないと分かったようであり、腰についていた正方形の鉄の何かを地面に投げると、そこから黒色と赤色のバイクが出現する。
「あれが鉄馬と呼ばれる物のようだね」
赤星はそれに乗り、重たい音を鳴らしながら通りを去っていった。
「あ、所でケイ君SFってなんだい?」
「それより私の腕に関して思うことはないのかな?」
「小指これ引っ張たら取れない?」
「取れるね。だから回復水をくれないかい?」
「もちろんだとも」
スカーロが空間がねじれた場所に手を突っ込み、そこから回復水を取り出す。
「はい」
「有難い」
スカーロから受け取った回復水の蓋を開け、一気に飲み干すとかけていた部分が光に包まれ何もなかったかのように元に戻っていた。
「ふむ。完璧に直ったようだね」
「そりゃあ回復水だからね」
「確かにそうだけれど……」
地球でこのようなものが売っていたらどれほどの金が動くかわからないだろう。欠損した体でさえ直せるのだから。ただ、それほどの物が場所によっては子供のお小遣いで買えるこの世界がおかしいのかもしれないが。
「さて、ケイ君。そろそろ家を作るとするか」
「魔法でかい?」
「ははは流石に手作業では家は建てられないさ」
「魔法で家を建てるのであれば土魔法で土の塊しかできないじゃないか」
「冒険者が野宿するのには問題は無いけど確かにそれじゃ家とはいいがたいからね」
「ならどうやって?」
「もちろん。ケイ君もご存じ創造魔法でさ」
スキル説明
反魔方陣 反魔法の一つであり、あらゆる衝撃や固体液体気体までの全てを倍以上にして反射する魔法
反魔法 あらゆる物を反射することに特化しており、攻撃魔法ではなく防御魔法に分類されている
創造魔法 超巨大な城から地下空間にまで部屋を創造できる魔法