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異世界交響楽団  作者: 安倍川 用宗
1/1

音楽のない世界より

自分は恵まれてるなと思っていた。

特に不自由なく、専門学校まで通わせてもらって、

それなりに一人暮らしもさせてもらって。


でも、20代も後半になり、30歳も見えてくると、

いまの仕事に不満が無くても、

実際の未来としてこのままで良いのか不安にはなる…

思えば、そんな不安を見抜かれていたのかも知れない…


"父さん、母さん、僕は今、異世界に来ています…"


僕のナマエはゲンジ、あまり好きではないあだ名だけど、

小学生の時に付けられて以来、なんかおさまりがよくて

自己紹介とかゲームのキャラメイクの時には使っている。

職業は楽器屋の店員かつ一応音楽教室の講師。

音楽関係の専門学校を出ても、

それで食べていける程の才能は無く、

出入りしてた楽器店に拾ってもらって仕事しつつ、

たまに昔ギターに憧れてた世代の方々向けの講座の講師をしている。

いや、もはや"していた"になるのか…


本当にこれまでヤバい橋なんて渡った事は無かったし、

本質的な所に不満は無かったのに…


どうやら、こちらの世界で偶然召喚してしまったようで、

具体的に何をさせたい訳でもないらしい。

世界観としては某狩猟アクションゲームみたいな感じ。

工房で色々研究しているうちに偶然召喚してしまったらしい。

戻り方も分からないし、悩んでいても仕方ないので

もうこの世界で生活する手段を獲得するしかない。


幸いにも、呼んでしまった側の工房主ハッチさんは

責任を感じてくれて、工房に住まわせてもらえることになった。

ただ、さっき話をされて、

「ゲンジすまねぇ、生活の面倒を全部みてやることはできねぇ」

と、言われてしまい、更に

「工房もそんなに流行ってる訳でないから、

 住まわせてはやれるけど、働いてはもらうぞ」

と、言われてしまって、さて何をしたものかと思っている所だ。


元の世界でやってた事をベースにしようにも、

この村には楽器屋とか無さそうだしなぁ…

電気が無いから、テレビも無ぇ、ラジオも無ぇ…

とにかく、確認してみよう。


「ハッチさん、この村には楽器屋は無いんだよね?

 元の世界で、そういった仕事してたんだけど。」

「よく分かんねぇけど、そんなもんは無ぇよ。」


何がよく分かんないか、分からないけど、もう少し聞いてみよう。


「僕はこれまで音楽教室の先生をしながら、作曲家をしていたんだ、

 音楽関係の仕事は無いのかな?」

(生活がかかっているのだし、多少の経歴詐称は許されるだろう。

専門のカリキュラムで作曲もあったし、DTMはやってたし…)

ただ、その先に待っていたのは驚くべき一言だった。


「音楽ぅ?作曲ぅ?なんだそりゃ?」


「ほら歌ったり、楽器弾いたり…なんなら踊ったり…」


「知らねぇな!」


「………」

そう言えば、この世界に来てから数日、

初日は酒場に連れて行ってもらって宴会をしてもらったけど、

歌はおろか、時間を知らせる太鼓や鐘といったものも目にしていない。


とりあえず、手近になった棒で、リズムを刻んでみた。

「ほら、こんな感じで音を鳴らしてさ!」


「何やってんだ?やかましい。

 しばらくは、オレの手伝いしながら、

 この世界について知るんだな」


まぁ、こっちの世界のお金もないし、他に選択肢は無いのだけど。

「いいの?ほら、工房、あんまり流行ってないんだろ?」

 

「流行ってないとはいえ、人がいたらいたなりにやる事はあるしな。

 その楽器とかってのは、ここで作れるモンなのか?」


「楽器を作る…?」

言われて気付いたけど、確かに楽器を作れれば、演奏もできるし…

「ハッチさん!ありがとう!楽器作りを目指してみるよ!」

そんなに精度の高い物はできないけど、

簡単な構造の打楽器や弦楽器なら何とかなるだろう。

とにかく、こっちの世界での目的ができたのはありがたい。


「そうか、じゃあ材料調達だな!

 基本は自分で作る物の素材は自分で取ってくるもんだぜ」


「在庫とか、余った木材とか革とか無いの?」


「無いことも無いが、いずれ自分で取りに行くようになるんだ、

 早いうちに慣れといた方がいいだろ。」


そうか…この世界、そういう所も狩猟アクションゲームみたいなんだな。

と、すると…

「やっぱドラゴンとか、超大型の猛獣とかもいたりするの?」


「そういったやつらは、今じゃほとんど見かけないな。

 数年に一度、家畜が襲われるくらいだ。」

言いながらも、リュックやピッケル、ノコギリ等の準備をしている。


「いんのかよ!」

身の危険がなければ一度見てみたいところだけど。


「ゲンジのデビュー戦、と言っても多分戦闘にはならんだろうが、

 まずは近場で武器、防具に使う用の魔石の仕入れ、

 それと、楽器の材料集めだな!楽器ってのは何を使うんだ?」


楽器…手をつけやすい所は打楽器だけど…

ひょっとすると、もう少し音程のつけやすい物の方が

“音楽”について理解してもらえるんじゃないか?

と、すると…弦楽器か管楽器…

歌も無いようだから、まずは弾き語り用にギターを目指すか!

「今回製作を目指すのはギターって楽器にするよ。

 中をくり抜いた木に長い板をつけて、

 そこに弦…強い糸を張って作る楽器だ。」


「木材か、先に聞いといた良かったぜ。

 もし、お前が何も知らずに、そこら辺の木を勝手に切ってたら

 大問題になってた所だ。」

「行ってみなきゃ分からねぇこともあるし、

 いっちょ行ってみるか!」


異世界っていう状況はよく分からないけど、

魔王を倒す勇者とか、宗教的な使徒として呼ばれた訳でないのは、

幸いなんだろうな。と思う事にして、まずは採取に出かけるのだった。

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