既に命の危機を感じました。
『ドキメモ』には心強いことに主人公のサポートキャラクターは二人いる。
一人目は学園の権力者の一人である寮父、二人目は同級生兼小さい時から仲良しの大親友だ。
「ネコ、祈がお前の体当たり攻撃をどうにか出来るからって流石に危ねぇぞ」
「えーだって驚かせんの楽しいんだにゃ。もしかして、ユウユウったら自分だけ体当たりなくて寂しかったにゃ?」
「全然違ぇよアホ猫」
この猫田 音己、通称「ネコ」は一人目のサポートキャラクターである。
主人公が困った時や悩んだ時に年上として良きアドバイスをたくさんしてくれるゲームにも主人公にとっても重要な人物。
私もゲームクリアの為に色々とお世話になったが…本当にこの男はあの頼れる寮父なのだろうか?正直言って不安しかない。
(こんなちゃらんぽらん人間でも女子に人気があるってのが理解出来んし…やっぱ顔か。顔なのか。)
前世の世界でもネコは意外と多くのプレイヤーから攻略対象者にして欲しいと言われるくらい人気があるキャラクターだった。
語尾に「にゃあ」と付けたり、変な行動をする人物だが、彼の総合的なステータスによってその人気度は高いのだ。
第一に、彼は世界的に有名な花道の家元の跡取りで、歴代の中でも特に優れた才能を持つとされている。
容姿は今はただの黒髪に黒目だが、高校入学と同時に前髪の一部を赤メッシュに染め、目も赤と金のカラコンを入れていた。
これが似合ってしまうのがネコという男、一重のキリッとした目とスラリと高い身長、中学1年生の今の時点でイケメン要素200%だ。
サポートキャラクターでもこのイケメンのフル活用は『ドキメモ』の人気の理由の一つでもあった。
「それにしても、今日ってカナカナと音巳って社会科見学の日なんだにゃー。俺も行きたかったにゃあ」
「自動車工場だっけ?面白そうだよね。機械好きの音巳君には天国だね」
「うんにゃ。朝からずっと騒いでたにゃ」
音巳君は叶と同い年の大親友で、ネコの弟でもある。そして、ここで重要なのが音巳君は二人目のサポートキャラクターだ。
ネコとは容姿も中身も全く異なり、黒髪眼鏡っ子の常識あるとてもしっかりした良い子である。
だが、ただ一つだけネコと似ているところが存在する。それは常人離れした身体能力だ。
さっきの私がネコを背負い投げしたのも身体能力を分かってのことだった。
普通なら背負い投げされた後に空中で体の向きを変えるなんてことは出来ない。
それなのに、ネコと音巳君はそういう凄技をさらっと出来てしまう。
しなやかな動きは本物の猫のようだ。
「あ、そうだにゃ。ユウユウとイノリン、婚約おめでとうなのにゃ。あと、誕生日パーティーに行けなくてごめんにゃ。元気そうで良かったにゃ」
「「…………は??」」
教室に向かう途中で言われた内容に優人と私は歩みを止める。
今、ネコは何と?婚約って言ったか?
それについては誕生日パーティーでサプライズ発表する予定だったが私が倒れた為に、発表は延期になった筈だ。
まさかあの両親…もう大々的に発表しちゃってたりするのか?!
「イノリンとユウユウのパパさんママさんがパーティーに招待されてた全部の家に婚約報告の手紙を送ってるにゃ」
やっぱりかぁぁぁぁぁ!!
早いよ仕事が!早過ぎるよ!
もし私達が婚約の話を断ってたらどうする気だったんだ。しかも、普段はマイペース人間な人達なのに、こういう時だけは本当に優秀である。
外堀を埋める早さがえげつない。
「マジかあの人達…つか、今日の視線の理由はそれかよ…」
「にゃは、情報の広まりが早い学園にゃ。知らない生徒の方が少ないと思うにゃ」
私達が通うこの学園は王璃学園の中等部だ。
幼稚園から高校までのエスカレーター式で、高校のみ男子校と女子高に分かれている。
共学ではない理由として、生徒の殆どに婚約者がいるのが当たり前な学園内で男女が俗世から隔離された寮生活を送れば面倒なことになるのは目に見えているからだ。
まぁ、つまりは浮気対策である。
幼稚園から中等部までは寮生活ではなく、学園がある場所も都内の中心部。
殆どの生徒がずーっと一緒、全校生徒が全員顔見知りレベルだ。
そんな学園で私達のことが知れ渡っている?
婚約取り消しとかになっていたら、今以上に視線という槍で刺殺されていただろう。
主に優人ラブな女子軍団から。
「有名人な君達の婚約はかなりの話題性があるから余計に情報が早かったにゃ」
「はぁ…優人のファンクラブとかからの恨みの念を現在進行形で感じる…」
「それを言ったら俺もだからな?お前のファンクラブってガチ勢が多いんだよ」
「あははは、いやいやないないないって」
ファンクラブがあるとかあり得んよ。
優人とかのイケメン様にあるのは納得出来るけど、悪役令嬢顔の私よ?
あの美形な両親から生まれたのだ。
自分がある程度整った顔立ちなのは自覚してるが、超絶美形な彼らに匹敵するとは思えない。というか、思っちゃいけない。
「じゃあ、また昼休みに会おうにゃユウユウ!ほらほら!イノリン行くにゃ~」
「祈!何かあったらすぐに言いに来いよ。絶対だからな」
「ありがとう、優人。またあとでね」
クラスが違う優人と分かれて自分の教室に入れば、ざわついていた教室が一気に静かになった。
脱走という文字が思い浮かぶが、隣に立つこの男には今の状況が痛くも痒くもないらしい。
普通に話し続けられるとか大物過ぎかよ。
だが、表情筋が優秀じゃない私も人のことをあまり言えた立場ではない。傍から見れば、何食わぬ顔で席に座っているのだから。
「小鳥遊様、少しお話よろしくて?」
ほら。
早速、3人のご令嬢達が私の前に来ちゃったよ。…泣いて良いですかね。
年齢差の計算を間違えていたので、祈と叶の年齢を変更致しました。
祈→12歳
叶→5歳
引き続きお楽しみ下さいませ。