転生したのは◯◯の世界でした。
はじめまして!皐月乃です!
初めて書く小説ですがよろしくお願い致します!!
「そ、そんな…マジですか…」
小さな子どもの脳では処理しきれない程の大量の情報が一気に頭の中に流れ込んできたことによって目眩と共に床に倒れる自分の体。
まわりの大人達のざわめきや両親の私の名前を呼ぶ声、そして唯一無二の大切な弟の泣き声を最後に私は意識を手放した。
(あんな注目の中で倒れるとかやっちまった…いやいやでもあれは仕方ない。急にあの情報量はエグいもんよ。)
目を開け、ゆっくりと上体を起こしてまわりを見渡せば、走り回れるくらいの広い部屋と女の子らしいピンクを主とした家具の数々が目に入ってきた。
そして何より窓ガラスに写る一人の美少女をガン見する。我ながらマジで顔面偏差値高いなと冷静に感心してしまったよね。
ほらそこ。
こいつただのナルシストやんとか思ったでしょ。違うからね?ちゃんと理由があるんですってば。
子ども一人には大き過ぎるキングサイズのふかふかベッドから降りて、部屋に置いてある姿見の前でグイッと両頬を引っ張ってみた。
うん。普通に痛い。
「本当に転生しちゃったんだ私…」
ポツリと呟けばそれは現実なのだと改めて実感する。
記憶を思い出した昨日は私の、小鳥遊 祈の12歳の誕生日を祝したパーティーだった。
私の家は少々…いや、かなりのお金持ちで、今回の誕生日パーティーだって自宅の広過ぎる広間に何百人もの親戚や友人達を招いた誕生日会だったのだ。
そんな大勢の視線の中、ハッピーバースデーの曲と一緒に目の前に置かれた誕生日ケーキの蝋燭を吹き消した瞬間、前世の「私」だった頃の記憶が洪水のように頭に入ってきた。
前世の「私」は小説家で、有難いことにそこそこ売れていたのだが生活の不摂生が積み重なり過労死してしまったらしい。
頭痛が酷くてベッドに倒れ込むように意識を失ったところで記憶が途切れているから…多分あっているだろう。
心残りはあちらの世界に残してきた両親と妹のことだ。自分達より先に亡くなるとは何事だと怒っているに違いない。
しっかり者の妹がいるから安心だが…じんわりと心に寂しさが広がる。
顔を上げて姿見をもう一度見れば、情けない顔をした前世とは全く異なる姿の自分が写っていた。
(えぇい!駄目だ駄目だ!今を大事に生きなくちゃだろ私!!)
ブンブンと頭を降って落ちかけた気分を上げる。
今のこの世界でだって私を愛してくれる両親と弟がいる。
早く死んでしまった前世分、これからは祈として彼らをたくさん愛して大切にするんだ。
「そうと決まればまずは状況把握からだ!」
ふむ、と顎に手を当て今の自分の現状とこの世界について考えてみる。
前世の友人達に動揺することはあるのか?と聞かれたことがあるのだが、表情筋が優秀じゃないだけでこう見えて内心は動揺しまくりだ。
もう一度倒れそうな程の動揺の理由は転生云々よりも私が転生した「この世界」が問題だったりする。
「駄目だよノアール!そこお姉ちゃんの部屋だ………よ」
「あ、えーっと…お、おはよう?」
「ワンッ!!」
「?!」
「お"、お"ねぃぢゃんだぁあ~~~っっ!!」
我が家の賢い犬様であるラブラドールのノアールが器用に前足で私の部屋の扉を開けたかと思えば、続いて弟が入ってきて、挨拶すればノアールに飛び掛かれ、私が目覚めたことに驚いた弟が号泣というこの荒れ具合。
すぐさま両親とお手伝いさん達が部屋に駆け付けたのは言うまでもない。
前世のことやら現状把握やらで、すっかり自分が倒れたこととか忘れていた。心配掛けた皆には申し訳ないことをしてしまったな。
「大丈夫かい祈?!どこも痛くないかい?!」
「ほら、パパ。そんなに抱き締めたら祈が苦しそうよ?祈はママの抱っこが良いわよね~」
「やだぁぁぁあ!僕がお姉ちゃん、ギュッするの!!」
うーむ、カオスだ。
現世での私の両親は超が何個つくか分からないレベルの親バカだ。ちなみに弟は天使なんでずっと頭を撫でていますが何か。
(元ゲームなだけあって凄いなぁ…見事に全員美形だわ。目がキラキラでやられないか心配っす。)
この時点でお気付きだろうが、私の転生した世界は前世の私のいた世界とは異なる世界線だ。
『ドキドキ!学園メモリアル』というのがこの世界の軸となるゲームで、それは漫画化やアニメ化、映画化までされた超人気ゲームである。
しかもそれはただの乙女ゲームではない。
麗しき男子と男子の美しき恋愛、それが略して『ドキメモ』の爆発的人気の理由だ。ちなみに、この『ドキメモ』に関してだったら数日間じっくり語れる自信がある。
活字中毒気味な私は常に文字を読んでいたい為、小説だけでは足らず漫画や絵本、様々なジャンルの本を読んできた。
そして忘れもしない締め切りを乗り越えた運命のあの日、書籍化されたこの素晴らしきゲームに私は出会ってしまったのだ。
彼らの繊細な心情変化、トキメキ溢れる恋愛模様、そして最も私が胸打たれたのは愛らしい容姿に対して男気溢れる主人公様なのである。
いつもは頼れるしっかり者なのに攻略対象者達からアプローチされると顔を真っ赤にする場面とか部屋でいつも叫んでいた。
小説や漫画だけでも死亡してたのにゲームという映像と声優さんの美声が加わったことにより本気で天に召されそうになったのも懐かしい。
このように私は順調に腐の道、腐女子の仲間入りをしたわけである。
そんな自分の宝物であるゲームの世界に転生とか、取り敢えず50m走を4秒で走れるんじゃないかと思うくらい現在進行形で興奮している。
「お姉ちゃん、もう痛い痛いない?大丈夫?」
「うん、心配掛けてごめんね叶。もう大丈夫だよ」
「えへへ!良かった!」
クソかわ。
勘の良い皆さんなら分かるだろう。
『ドキメモ』の最強エンジェルキュートな主人公様がこの可憐な微笑みをした我が弟、小鳥遊 叶なのだ。
間近で彼らの萌えを堪能できるとか幸せ死亡フラグですか。
改めて幸せを噛み締めようとギューッと叶を抱き締めたら、横から両親とお手伝いさん達のカメラ連写音がえげつなかったが幸せなんでスルーした。